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【エッセイ】ワンマン列車の両耳の喧騒

作: まゆこ

田舎の実家に帰った。仕事の合間のたった2日間しかない休みを使って、実家に帰った。

片道三時間もかかるような道だ。段々と景色が緑で染っていく。大きな建物が減って、背の高い花が増える。駅をおりると、その静けさに驚く。

人気のなさ、騒音のなさ。
そよそよと泳ぐ風や草木の声が心地いいなんて、
ましてや空気が美味しいなんて、
久しぶりに思った。

たった二日間だった。
特になんにもしなかった。

家族と他愛もなさすぎる会話をして、
飼ってる川魚(じいちゃんは彼らを『じゃこ』と呼んでいる、もちろん彼に食べる意図などない)を意味もなくじっと眺めたりなんかして、柄にもなく昼寝したりして。

それだけで、帰ったんだけど、
ああ明日からまた仕事だなぁなんて。

帰り道、ちょっとだけ送ってもらったんだ。駅まで送ってもらった。

周りに誰の親しい声もなくなった、横並びの電車の変に沈むソファで、

私は昔好きだった曲を聞く。昔アホみたいにハマっていたバンドの曲を。

別に昔がどうだったとか、今が特別嫌だとか、都会じゃなくて田舎がよかったとか、そんな哀愁ただよう感じではないんだけれど。

やっぱ寂しかったんだよなあ。
自分が黙っていても聞こえる家族の話し声とか、
昼寝していたら勝手にかけてくれてる毛布のあったかさとか、目をうっすら開けた時に聞こえる気のいい包丁の音とかさ。

あれまたしばらく聞けねぇのかと思うと、
ちょっとだけ、ほんのちょっとだけやりきれなくなる。

その心のなんかささくれた部分を、がさつに埋めてくれるのが、この両耳から聞こえる爆音の、いや、爆音はしんどいから、それなりの音量のバンドの音楽だったりする。

それだけの話。

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