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創作エッセイ:"リーダー" の "正解" とは

リーダー

「リーダー」とは…
指導者や統率者、先導者という意味を持ち、チームの目標達成や課題解決に向けてメンバーを束ねていく人のこと。

つまり、"絶対王政" が "最強の団結力を持ったチーム" 。

そうでしょ?

The Queen of Hearts in 現代社会

私はシステム系の会社を立ち上げた。
前の職場で一緒に働いていた部下を連れて。

彼らは私の指示をちゃんと聞いてよく働いてくれるけど、自分で+αを考えて行動することが出来ない。

けど、私という最大のお手本がいるんだから、これから私のようになっていけば問題無いと思ってる。

そんな私のチームも業績が認められ、大きな案件を任せられるようになった。
そうなると必要になるのはやはり ”人材” 。
正直少数精鋭でやっていきたいけど、そうなると納期が延びてしまうからコストで競合他社に負けてしまう。

背に腹は代えられない…
だとしても急に社員を増やすとなると、社員教育が大変か…

インターン生が狙い目かな。
彼らはまだ他の企業に染まってないし、就職考えてる時期だから言われたことをちゃんとやりそう。

こうして私の会社に、3ヶ月という短い期間ではあるがインターン生が4人入った。
様子を見た感じ3人の男子学生は言われたことを従順に出来るタイプね。
でもこの女子学生は…
「あ!すみません、ここのコード修正しても良いですか?もっと効率良い書き方がある気がして!」
人のコードに文句言うなんて、生意気だけど現場に必要な存在ね。
面白い。
「有栖川さん、私の方手伝ってくれる?」
「はい!よろしくお願いします。」
「よろしく。早速この件なんだけど、先方から…」

「…なるほど。この件、先方からの要望についていくつか気になる点がありますので、お時間ある際にご質問してもよろしいでしょうか。」
「もちろん。誰かを批判するような形になっても構わないから、正直な意見を聞かせて。」

自分の意見を持っていて、言動から気品のようなものも感じる。
間違いない。私と同じリーダータイプ。

「みなさん、なんでこの会社に?」
「うーん…別にやりたいことあってこの会社いるわけじゃないんだよね。誘われたからとりあえずって感じ。」
「俺も。特に目的は無いかな。」
「へえ…それってやりがいはあるんですか?」
「まああるよ。言われたことだとしても、自分がやってることに変わりは無いし。」
「ああ…なるほど。」

ガチャ
「あれ、みんな集まって何の話?」
「あ、いや、今日飲み行く?って話してて…」
「そうなんです!でもこの案件片付かなきゃな無理だよな~って!」
「そりゃそうでしょ。納期は決まってるんだから。そんなことより、お願いしたこの件ってどうなってるの?」
「あっ!一昨日までに返事くれって先方には伝えたんですけど、まだ来てなくて…」
「…は!?それでそのままにしてるの!?はあ…今すぐ先方に確認して。んで、遅れてる理由も聞いて!」
「はいぃぃ!!!」

ありえないんだけど…
仮に先方からの連絡待ちだったとしても、期限過ぎたら普通追って連絡するでしょ!?なんでそんな当たり前のことも分かんないわけ!?
ていうか、私が声掛けなかったら一生待ってたの!?
インターン生に示しがつかないじゃない。

「はあ…」
「お疲れ様です。先日お教えいただいたこの件なんですけど…赤井さん?」
「有栖川さん…ごめん、なんだった?」
「A社からの要件をまとめまして、一覧にしたら矛盾してる所がいくつかあって。」
「これって…1度要件定義が決まってる件よね?」
「はい。でも、昨日黒田さんから追加要件来たからまとめてくれって言われて。まとめてるうちに、既に実装されている部分についての追加要件だと気付きまして。黒田さんに確認したら『赤井さんに判断してもらって』と言われました。」
「判断してもらってって…こんなのダメに決まってるじゃない。そもそも、有栖川さんに渡す前になんで気が付かないのよ。有栖川さんが気付かなかったら受諾してたってこと!?」
元々自分たちで考えて行動できる人たちではないけれど…だとしても、こんな忙しいのになんでこんなにガバガバなのよ!!!
「あっ…でも、私が気付いたので今回は良しとしませんか?ほらっ、たまには赤井さんも誰かを頼らないとダメになっちゃいますよ!」
「有栖川さん…ありがとう。あなたがいなかったら、とんでもなく怒り散らしてたわ。これからも気になる事があったら、私の所に持って来て。他へは後から言えば良いから。」
「承知いたしました!」

やっぱ、頭の良い子は話が早くて助かる。
それに、自分で考えて動いてくれるから色々お任せ出来て、私も仕事に余裕が出る!

私と同じぐらい優秀な人材と関わることが少なかったから、理解者ができたみたいで嬉しかった。

「あっ、私この後先方と会議だった…後は任せるから、この内容まとめといて。」
「はーい。お疲れ様っす〜」
今回の会議、思いの外長引いちゃったな…
まあでも、大体の枠組みは問題無くまとまってたし、後はどう展開していくかってぐらいなんだから、あの子たちでもまとめられるでしょ。

「お疲れ。途中で抜けてごめん。どうなった?」
「まあなんか、まずどうしよっかって話になって〜、こうした方が良いよねって意見が何個か出て〜…」
「あ、最後どうなったかだけ言ってもらえれば。」
「そうっすね…とりあえず今後考えていければって…」
「は!?やる事決まってて、後は動き出しだけ決めるだけだったでしょ!?なんでそうなってるわけ!?」
「いやまあ、最終赤井さんの意見聞きたいよねって。」
「あのさ…だとしたら『こう決まったんですけど、どう思いますか?』とか、最終決定だけを持ってくるでしょ。こんなの、結局何も話し合えてないじゃない。」
「まあ…そっすね。」
「もういいわ。こっちで決めて指示出すからその通りにやって。」
「…はい。」
「文句言える立場じゃないことは分かってるわよね?何の意見も持ってこなかったんだから。」
「…はあ…大丈夫っす。」

なんであんたがダルそうなのよ!!!
信じらんない!何人いたって決められないあんた達が悪いんでしょ!?
もう何も任せらんないわ…

前までは全部私が担当しても大丈夫な業務量だったけど、今の業務量じゃ正直手が回らない。どうにかしないと…!!

「赤井さん!お疲れ様です。」
「お疲れ様…」
「なんか疲れてらっしゃいます…?」
「うーん…ちょっとね。…そういえば、有栖川さんは就職先どうするとか決めてるの?」
「そうですね…まだはっきりとは決まってないです。」
「そうなの。…じゃあ、うちに来ない?」
「え?」
「あなたの働きやリーダーシップを見てると、うちで活躍してくれそうだなって思ったの。」
「そうなんですね…」
「返事は今すぐじゃなくて良いから、インターンが終わるまでに教えて。」
「はい。」

そう。有栖川さんが来てくれたらどうにかなる。
私たちでこの会社を大きくしていけば良いんだ。

「お疲れ様。今日で最後ね。よろしく。」
「はい!よろしくお願いします。」

遂に今日でインターン期間が終了する。
インターンと言いつつ私自身がこの子たちから学ぶことが多く、とても新鮮だった。
またこういう機会を設けるのは、会社のためにアリかな。

インターンが終了し、全員で打ち上げをした。
「赤井さん、お隣良いですか?」
「もちろん。明日からいなくなるなんて、本当に寂しくなるね。」
「そんな!とんでもないです。」
「インターンはどうだった?学べるようなことあった?」
「もちろんですよ!この会社で色々学ばせていただいて本当に良かったです!」
最後の日ということで、インターン生も社員も少し寂しそうにしていた。

みんなが酔い始め、「そろそろお開きかな」と考えていると、また有栖川さんが隣へ来た。
「赤井さん。先日お誘いいただいた件ですが。」
「ああ!そういえば答えもらってなかったね。」
「…お断りしようと思います。」
「…え?何か不満でもあるの?というか、あなたなら不満があっても解決する力があるでしょ。」
「そうですね…私が御社に入社して自分の不満を解消するなら…」
「気にしないで。正直に教えて。」
「社員全員にヒアリングして、それぞれが本当にやりたいことが出来るような環境にします。」
「え?」
「そもそもこの会社の足を引っ張っているのは、社員なんです。なぜなら、各々の仕事へのモチベーションが低く、そのやる気の無さが業務に支障をきたしているからです。」
「そうね。でも、言われたことはやれる。これだけ従順に言うこと聞いてくれる子たちはなかなかいない。」
「それってつまり、新しい視点での意見が出ないということじゃないんですか?もっと良いやり方があるかもしれないって指摘する人がいませんから。そうなると、いつまでも成長の無い会社になってしまう。」
「そうね。言いたい事は分かる。理想はそうかもしれないけど、現実はそう簡単に出来ない。きっと様々な視点から指摘できる人なんて、ごく一部の優秀な人間だけなんだもの。だから、この会社は今の形で戦ってる。」
「はい。でも、少なくともこのやり方じゃ会社を大きくすることが難しいかもしれないです。」
「…なるほど。あなたは勘違いしてる。あくまでこの子たちとこれからも一緒に働いていく前提で話してるでしょ。残念。私が必要としてるのは "指示通りに働いてくれるかどうか" 。正しいやり方を検討することについては、外部とのコミュニケーションや勉強会とかで優秀な一部の人材、つまりは私が努力すれば良い。」
「そんなの…まるでみんな使い捨てみたい…非人道的です。」
「馬鹿言わないで。別にブラック企業なわけじゃない。能力が無くても働ける環境を提供しているって意味では、どこよりも人道的な会社でしょ。…私たち、一緒に経営することは出来なさそう。」
「はい。残念です。」
「ちなみに、あなただったらどんな会社を持つ?」
「同じ目標の人を集めて、常にノルマを達成するような会社にします。」
「ノルマは誰が設定するの?」
「みんなです。」
「目標がある人を集めるってことは、意思が強い人が集まるってこと。そんな人たちが、みんな同じノルマで満足するって?」
「出来ます。何度も会話してすり合わせていけば…」
「その時間で作業出来るわ。」
「…」
「あなたは個人で頑張った方が上手くいくかもね。」
「…はい。」

これだから若い子は。
そんな風に理想ばっか語ってたって、どうにもならない時もあるんだから。
少なくとも会社は、優秀な人材が数名いたら後は言うこと聞く人が複数人いればどうにかなるもんよ。

「これ、なんでやってないの?」
「えっと…この間この会社とやり取りした時、違うやり方だったなって思って、前回のやり方調べてて…」
「そんなのこっちで確認して指示してるに決まってるでしょ。」
「すみません。でも、以前インターン生が来てた時に一緒にチェックして進めてたから、自分も同じように…」
「必要無い。出来ない人がそんなことしたって時間の無駄だから。はあ…次は無いよ。言ったことだけさっさとやって。」
「…え?」
「察しが悪いね。これが出来ないならこの会社に要らないって言ってるの。」
「そんな…!!今まで一緒に頑張ってきたじゃないですか!」
「一緒に…?まともな意見や案を出したことないあなたがそれを言うの?」
「それは、赤井さんの発言が強いから…」
「私が強いから何も思いつかないって?責任転嫁も甚だしい。あなたは楽だから考える事を辞めてるだけ。だから、的確に指示を出す私に文句を言う資格は無いの。さあ、仕事に戻って。これ以上話しても時間の無駄。」
「…!!…そんな言い方…こんな会社辞めてやる!!」
「ご勝手に。」

有栖川さんが入った影響で、社員が勘違いすることが本当に増えた。
勘弁してほしい。
黙って言われたことだけやりなさいよ。
無能が意思を持っては、チームワークなんて微塵も無くなる。
でもこの原理を理解させるのも不可能に近い。
それなら罰を作ってでも言うことを聞かせるしかない。

「これからは、私の指示通りに働きなさい。言うなれば、絶対王政です。」

この会社は私のお城。
私がルール。
私の目標がみんなの目標。
文句があるならよそで自分の城を築けば良い。

私の城で文句を言うなら…
首をはねる。

The Queen of Hearts in 現代社会:後日譚

コンコン
「失礼します。」
「はい。」
「営業部門の城田さんが社長とお話ししたいそうです。」
「どうぞ。」

「失礼します。営業の城田です。」
「どんなご用件で?」
「その…今のやり方だとどうしてもやりがいを感じられなくて…制度の見直しをしませんか?でないと、みんなこの会社で頑張れないと思うんです。」
「そう。」
「そうって…それだけですか?」
「逆に何があるの?」
「社員の意見を反映させて制度を変えるとか…」
「無いわね。」
「そんな…僕たち社員を何だと思ってるんですか!」
「何って…あなたたちこそ、自分をどれだけ価値のある人間だと思ってるの?私から言われたことしかしないのに。私の指示で成功したことを、自分の成功だと勘違いしてるんじゃない?」
「…!!」
「それに、自分が働きたくてこの会社に入ったんでしょ?そんなにこの会社に不満があるなら、不満の無い会社を自分で作れば良いんじゃない?」
「??」
「分からないの?」
「…」
「はあ…あなた、クビ。明日から来なくて良いわ。」
「は!?なんで…ふざけんな!!ありえないだろ!!この会社にどれだけ貢献したと…」
「警備員。出して。」
「はい。」

これで何人目だろうか。
文句を言う部下をクビにしていった結果、業績が伸び会社は一気に大きくなった。
その代償に多くの人間から恨まれ、警備員がいないと社員とまともに会話することも出来ない。

それでも、私の会社は常に成長してる。
この結果が成功を物語ってる。
どれだけ恨まれ、孤独で、悪魔だ何だと罵られても、私にはこの城がある。

プルルルル…
ガチャ
「はい。」
「お疲れ様です。受付に株式会社ワンダーの有栖川さんがいらっしゃってます。社長とお知り合いとのことですが、お通ししてもよろしいでしょうか。」
「有栖川さん…ええ。お願い。」
「承知致しました。」

有栖川さん。
これまで数々のインターン生を受け入れてきたが、その中で唯一私からオファーした人材。
最近、同じ業界で会社を立ち上げたと風のうわさで聞いた。
それに、「赤井さんを超えて、正しい経営を見せつけたい」と言っていたとか。
随分と大きく出たようで。
やれるものならやってみなさい。

「失礼します。株式会社ワンダーの有栖川です。」
「久しぶり。」
「…お久しぶりです。」
「今日はどういったご用件で?」
「同じ業界で会社を設立したのでご挨拶をと。」
「あら、ご丁寧にありがとう。立ち話もなんだし座って?」
「いえ、ご挨拶だけなので。」
「そう?じゃあ私は座らせてもらおうかな。」
ギィ…
「あの、以前会社の経営についてお話ししたことは覚えてますか?」
「もちろん。」
「あれから何度も考えて…やはり私は間違っていないと思うんです。」
「へえ。それで?」
「…いつか赤井さんを超えて、私が正しかったんだと証明します。」
「ふーん。つまりは、宣戦布告ってこと?」
「…はい。」
「良いよ。やってみなさい。その代わり、期限と罰を設ける。」
「え?」
「当たり前でしょ。今あなたはこの私を『間違っている』と侮辱したんだから。」
「そんなつもりじゃ…」
「自分の発言には責任を持った方が良いよ。ってことで、10年以内に私を超えてみなさい。それが出来なければ…あなたの会社をもらう。」
「…そんな…」
「勘違いしないで。これは提案じゃなくて命令。あなたに拒否権は無い。でも、無事超えることができたらこの会社をあなたにあげる。」
「へ?」
「この会社は私の成功の権化で、私の人生そのものみたいなものなの。だから、『この成功は間違ってる』と言われながら続けるなんて馬鹿みたいなことしたくない。」
「…分かりました。」

この会社を成功させるために多くの物事を犠牲にしてきた。
私自身の気持ちや大事な人たちも。
今更こんな若輩者に負けるわけにはいかない。
じゃないと私自身のこれまでの努力の意味が…

絶対に負けるわけにはいかない。
だから今日も、無能のクビをはねる。

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