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創作エッセイ:私を縛るは私自身

死後の後悔

私の優先順位は “将来性” で決まる。
仕事も、友人関係も、恋愛も。

どんなに必死になったって、将来に繋がらないなら時間の無駄だと思ってしまう。そういう意味では、学生時代に多少苦労してでも理性的に過ごして、それなりに幸せな生活が出来ていたのは満足だし、過去が辛かったとも思わない。

ただ、そんな私にも唯一の心残りがある。
それは、"本気で人を好きになったことがないこと" 。

死してなお、スペックや将来性などを捨てた “その人本来の魅力” とやらが分からない。

あまりにも分からないから、悔しいかどうかもピンと来ていない。
何なら、「スペックや将来性を無しに考えた時、他人に価値はあるのか」とさえ思う。でも、強いて言うなら「他の人には出来るのに私には出来ない」ということに関しては悔しい。

神様。
私には恋愛感情が無いのでしょうか。
恋愛感情が無い私は、人より劣っているのでしょうか。
それとも、効率良く優良物件のパートナーを見つけることが出来ない、他が劣っているのでしょうか。

生きてるうちにこの答えを見つけられなかった私は、来世に期待できるのでしょうか…

Look at me.

私の人生は割と順風満帆。控えめに言って最高。辛いことがあってもその次のシーズンには楽しくやってる事が多い。自分で言っててキモいけど、俗に言う “リア充” ってやつだと思う。ふんわり文武両道で、それなりに恋愛経験もあって。

そんなこんなで、これから楽しくなると思ってた30歳手前に、交通事故でポックリ死んじゃった。だけど、それまでの人生で好きな事を好きなだけ取り組んだからこの世に未練は全く無い。

…はずだった。
気付いたら事故った場所の近くで浮遊霊やってて笑う。ひとまず暇なことは確か。その辺の人に話しかけたり、ちょっかいかけたり、スマホを覗いたり、思いつく限りのダル絡みをしてみた。

結果、この場所が心霊スポットになってしまった。
いやまあ間違ってないけど。全然大層な存在じゃないから謎に謙遜な気持ちが出てくる。それでも、みんな良い反応をしてくれるわけで。正直楽しくなってる自分もいて、充実した幽霊ライフ(?)を送っていた。

いくらか時間が経つとこの過ごし方に飽きてしまったので、そもそも何故ここで浮遊霊やってんのか考えてみることにした。
「家族に愛されて育ち、人間関係もまあ特別苦労せず、楽しい社会人生活を送り…やっぱ、後悔なんて無縁過ぎる。無意識的なところってこと…?」
そうなってくると自覚は難しい。自覚が先か記憶を無くして徘徊するのが先か…

そんなある日、気になる学生グループがここを訪れた。
サークルかな?男女4人ずつの8人グループで、ほのかに青春のかほりがする。…なるほど。とりあえずちょっと先で立っておくか。通り過ぎざまに小石投げつつ軽く話しかけちゃお。

…おっ来た来た!うわっ、無意味に緊張してきた!!よし、あとちょい。
いくぞっ!せー…

「「「えっ…」」」

ウッキウキで準備していると、気弱そうな男の子と俺様っぽい男の子と目が合った。その場で3人して固まる。

え、何秒経った?てか、こっからどうするのが正解?びっくりさせる感じ??世の中の先輩霊(?)たちはどうされてる???もう動くタイミング見失って見つめることしか出来ないが????

「おい…お前ら何してんの?もしかして…」
「…いや、何でもねえよ。」
「ぼ、僕が躓いてびっくりさせちゃったみたい!ごめんね、佐々木くん。」
「ああ。」

2人は一瞬目配せをし、私を見なかったことにしたようだ。
「良かったああああ。この人たちが空気読める人間で本当に良かった!あのまま動き出すタイミング見つからずに生涯終えるところだった!!…いやもう死んでたわ。笑」
「ふはっ。」
「…え?」
「あっ」
気弱そうな男の子が、私の声が聞こえているかのように吹き出した。
「あの…私の馬鹿みたいな独り言…聞こえてました…?」
コクン
後ろから追いかけてそっと問いかけてみると、彼は周囲にバレないよう静かに頷いた。
「嘘でしょ!?恥ずかし過ぎる!!!」
1人であわあわしていると、俺様っぽい男の子とまた目が合った。
「もしかして…君も聞こえてる…?」
コクン
「まじか…」

なんということでしょう。こんなにも心の声をぶちまけて良いのは、少女漫画のトゥンクのシーンだけなのに。久しぶりに「恥ずかしい」という感情を抱き、全力で悶え苦しんだ。

…そうだ。せっかくだし彼らに話し相手になってもらって、この世にどんな未練があったか考えてみるか!とりあえずグループに憑いて行って、彼らが帰るタイミングで聞いてみよう。
ちなみに、気弱そうな男の子は前田くんで、俺様っぽい男の子は佐々木くんらしい。

「ねえねえ。君たち、私のことしっかり認識出来てるじゃん?もし良ければ、私の話し相手になってくれない?この世にどんな未練があってここにいるのかさっぱりだから、さっさと探して成仏したいんだけど。」
前田くんは目をまん丸く見開き、佐々木くんは少し眉がピクリと動いたが、知らん顔をしていた。
「あっ、もちろんタダでとは言わない!私の話し相手になってくれてる期間は、守護霊として頑張ってお守りするよ。」
2人はうんともすんとも言わなくなってしまった。
まあそうだよね。冷静に考えて、取り憑かれるってことだし。
「変なこと言ってごめんね。別に無理矢理とり憑こうってしてる訳でもないし、そのまま帰ってもらって大丈夫だよ!ありがとね。」

彼らはそのまま帰って行った。変なおばあちゃんと男の子を乗せて。
まあ、話し相手になってくれたら守るって言ったしね。無事に帰ることを祈る。

…数日後。

「君たち、この間友達と来てた子だよね?2人だけでこんなとこ来て大丈夫?」
「あの時のお姉さん…!!えっと…この間の話は、まだ有効ですか…?」
「もちろん!よく覚えてたね。」
「ええ。…その…今まで見てきた霊の中で、1番生き生きとしてて…初めて生きてる人と見間違えたので、印象に残ってるんです。」
「そっか。…じゃあとりあえず、契約成立って感じだね!」
「…はい。」
「…まあ実質取り憑かれる訳だし、良い気はしないよね。…もし何か悪影響が出たり、一緒に居たくないなって思う事があれば、お祓いに行ってくれて大丈夫だよ。」
「…え?そしたら、お姉さんは…?」
「ここに戻ってくるだけ!大丈夫。私は悪霊ではないから、ささっと剥がすだけみたいだよ。笑」
1度興味本位で人に付いて行った際、その人が心霊スポット巡りをしている配信者だったようで定期お祓いをされており、秒で剥がされた。そして、気付いたらここに戻って来ていた。なんとなく不甲斐ない…

「ひとまず、この場所からは離れた方が良さそうだから、君の家に向かう途中で話そうか。」
「「はい。」」
話せる人が来ているとどっかから知った霊たちが集まって来ていたので、いったん彼らに憑いて行くことにした。

久しぶりに人と話せて舞い上がっていた私は、ひたすら喋り続けてしまった。30分ほど話した後、今日の本題を聞いてないことに気付いた私は急いで話題を変えた。

「てかごめん、本題聞いてなかったね。今日はどうしてあそこに?」
「あの…以前友達とお邪魔したじゃないですか。あの後、実は大変な事が起きて…」
「あ〜…連れて帰ってたしね。」
「「…!!」」
「やっぱりですか!?」
「うん。おばあちゃんと男の子。」

彼ら曰く、あの日に憑いて行ったであろう2体がサークル内で暴れ回っており、短期間で5人が事故に遭い2人が怪我をし、3人が破局したらしい。とんでもないな。

彼らの守護霊となった私は、2体をプ●キュアばりに成敗したった。その日から、彼らは私の話し相手をしてくれるようになった。

「2人は将来何になるの?」
「…それ関係ある?」
「あるある!それに、こう見えて人生の先輩なんだから、聞きたいことあるなら何でも聞いてよ。」
「…」
「…ぼ、僕は今の勉強が好きなので研究職が良いなって思ってます!そのために院に進んでるので。」
「え!すごいじゃん!どこで研究したいとかあるの?」
「えっと…ドイツの大学から出た論文で、とても興味ある研究を見つけたので、そこで一緒に研究出来るようになれたらなって…」
「まじ!?カッコ良い!!1つの物事をそこまで突き詰められるなんて、才能だよ!!」
「でも稼げないだろ。」
「まあ…」
「こら!なんてこと言うの!!」
「俺は研究職じゃ稼げないのを分かってるからこそ、大手に就職する。好きなだけじゃ世の中上手くいかないだろ。金持ちになってから好きに生きる。」
「なるほど?確かにそれはそれで素敵な考えだし現実的ではあるよね。」
「それに、そっちの方が社会的に評価されやすいしモテるだろ。あとは…落ち着きたくなったタイミングで家族欲しい。研究職と違って生活が安定するだろうから、タイミングは自由に決められるだろ。」
「うっ…」
「…まあ、言いたい事は分からんでもないけど…」
「ちなみに、お姉さんならどっちと結婚したい?というか、幸せになれると思う?まあ聞くまでもないだろうけど。」

…非常に答えづらい質問。生きてたら、正直佐々木くん一択。私の人生がずっと輝いていたのは、両親が惜しげ無く私に投資してくれてたからだと思ってるし。習い事や留学、友人との付き合いやオシャレなど、いくら出してもらったか分からない。そして何より、そこまで投資してくれてた両親には、安心して自由に暮らせそうな相手を紹介してあげたい。後はシンプルにお金ある方が自慢できるし、様々な場面で苦労や我慢をしたくない。人生何があるか分からないしね。

でも、既に死んでいる今ならどうだろう。もうどうせ子供を授かることもないし、両親に納得してもらう必要もない。それに、お金があっても使うことがないし、どうせこの先何もない。そんでもって、「社会的な評価」を気にしている人は、相手にもそれを強く求めるはずだし心が休まらないかも。そうなると…私が求めるのは "一緒にいて苦じゃないこと" だけ。

「うーん。今の私なら前田くんと一緒の方が穏やかに過ごせそう…笑」
「やった!…って今の私?憑きやすいとか…?」
「どんな選び方だよ。」

生きてるうちであれば前田くんのようなタイプは、「どんなに良い人だったとしても、お金が無きゃ将来苦労する」「家族が心配する」とか言って検討することすらなかったと思う。それなのに今は「穏やかで優しい人・一緒にいて癒されそう・良いお父さんになりそう」なんて、彼自身のシンプルな評価で魅力を感じて、2人の未来まで勝手に妄想してる。
私、ハキハキして仕事できる佐々木くんみたいな人じゃなくて、穏やかで癒し系の前田くんみたいな人に魅力を感じるんだ…
死んで初めて、 "好きな男性のタイプ" を自覚するなんておかしな話だけど、それだけ私にとって "将来を意識すること" が足枷になってたんだと思う。無意識に自分の好みを抑え込んでたなんて…

「死んだ今の方が自分を理解できてる…」
「え?」
「何?何か思い出したの?」
「ううん。」

そっか…私は "人を本気で好きになれない" わけじゃなくて、 "本気で好きになれる人と恋愛してなかっただけ" だったんだ。第三者目線で意見を言えることが私の強みだったのに、こんな単純な物事さえ見れてなかったなんて。

自分の好きなタイプぐらい、死ぬ前に気付きたかったな~…そしたら本気で人を好きになる事が出来たかもしれないのに…まあ、もう遅いけど。ギリギリ今世で気付けたし、来世に期待かな!

「あれっ…お姉さん…手…」
「え?」
見ると右手が透けていた。
「え!!うそ!!成仏できるかも!!!」
「は!?今の会話のどこにそんな要素あったんだよ。」
「うーん…本当に好きなタイプを始めて自覚したって感じ?」
「意味分かんねえ。」
「それって…ぼ、僕のこと…」
「…おバカ。そんなにちょろいと危ないよ。」
「うっ…」
「それじゃ…短い間だったけど、お世話になりました。元気でね!!」

ピッ…ピッ…ピッ…

ん?何の音?

「…眩しい。」
「「…!!!」」
「はるか…?」
「…ママ…?」
「はるか…!!パパ!!先生呼んで!!」

Look at me.:後日譚

交通事故に遭い、数か月寝たきり状態だった私は、ある日突然何事も無かったかのように起きた。
寝てる間、とても長い夢を見たような気がするけど何も覚えていない。まあ、覚えてないということはそれほど大事じゃなかったんだと思う。

あれからずっと釈然としない。なんだかずっと頭の中に靄がかかっているよう。でも、具体的に何にモヤッとしているのかが全く分からない。
頭を強く打って長いこと寝たきりだったし、事故の後遺症かな…?

退院後、何人かとご飯に行ってみたが、みんなエリートで総じて話が上手いから特に差を感じられず、義務的に出身大学や会社について質問する日々。容姿も問題無いしダメな理由が見当たらないのに、何故か未だにピンと来る人に出会えない。
正直面倒だしこの辺かなってラインの人でいったん決めようかな…

仕事もプライベートも充実してて、相も変わらず家族や友達から愛されてる。楽しくて明るい順風満帆な生活。それなのに何か大事なことを忘れているような満たされない感覚がずっとある。

なんか分かんないけど疲れたな。癒しが欲しいかも。

「毎度実家に帰るのもあれだし、いっそのことわんちゃん飼っちゃおうかな…うーん…」
「あれっ…お姉さん!?」
「えっ…うそ。…生きてんの?」
突然後ろから声がし振り返ると、そこには気弱そうな男の子と俺様っぽい男の子がいた。
「えっと…」
「ねえ。自分のことどんぐらい理解してるの?」
「え?」
「前にお姉さんが『今の方が自分を理解できてる』って仰ってて…」
「…!!…前田くんと…佐々木くん…?」

長い夢を思い出した。
そして気付いた。

私を苦しめていたのは…
私を理解しようとしなかったのは…
私を見ようとしなかったのは…
"私自身" だったんだ。

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