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創作エッセイ:"本気の恋"に回数制限はない

最低な人に貰った花たちが私に自信をくれた

いつも花で気持ちを伝えてくれていた彼。
最後に会った日、彼は私に「水仙」をくれた。

水仙の花言葉:『うぬぼれ』『自己愛』

私は嬉しかった。

なんでか分かる?

「恋多き女」で何が悪いの?

「好き」って言われたら好きになっちゃう。
「可愛い」って言われたら好きになっちゃう。
「君が1番」って言われたら好きになっちゃう。

交際期間が短いとか、別れてから次が早いとか関係無い。
いつも本気で恋してる。毎回「この人が最後の人」って思ってる。
だた、相手が運命の人じゃないだけ。

ある人と友達が行きつけのバーで知り合った。
友達と彼の友達が新しいお酒を取りに行ったタイミングで、彼の方から「今度2人で会わない?」と言われ連絡先を交換した。
その時はフリーだったし、少し年上に見えた彼も両手に指輪してなかったから「こんなおしゃれな出会い方もあるんだ。大人っぽくて素敵。」って少し舞い上がって相手にしてしまった。

何度か会ううちに彼の方から「付き合いたい」と言ってくれた。
可愛いひまわりの花束と一緒に。
花言葉なんてこれまでの人生で一度たりとも気にしたことなかったけど、彼をもっと知りたいと思って調べてみた。
「恥ず。」
そう呟きながら暗くしたケータイ画面で、にやけた私と目が合った。

彼とはなかなか予定を合わせづらくて、たまの平日夜にしか会えなかった。
それでも全然寂しくなかった。
彼はどんなに忙しくても笑顔で会ってくれて「今日もちょっとしか一緒に居れなくてごめんね」なんて言いながら、いつも可愛い花をくれたから。
ジャノメギク、パンジー、モモ …
品種によってはモチーフの小物なんかくれたりした。
「変わり種ばっかり」なんて文句たれつつ、毎度花言葉を調べるのが楽しかった。
なるべく枯らせないように頑張って、危なくなったらドライフラワーにして部屋に可愛く飾った。

彼が来るたびに部屋が華やかになっていった。
私の心も、花たちを見る度に「花言葉」を思い出して華やかになっていった。

半年経ったある日、「あの人の嫁です」と名乗るおばさんから電話が来た。
全然意味分からなかったし、パニックになった。
でも、目の前の花たちを見たら心配がすべて吹き飛んだ。
だって。

「嫁だから何?」
<は?>
「嫁だとしても、彼の好きな人は私。」
<何言ってんの?>
「事実じゃん。」

そうだよ。だって、こんなにも好きでいてくれてんだもん。
毎度飽きるぐらい気持ち伝えてきてるんだよ?
それが…嘘なわけないじゃん。この人おかしいよ。
結婚したけどその後に運命の人と出会うなんて、別に無くは無い話でしょ?

<とにかく別れてって言ってんの!>
「なんで?好き同士って言ってんじゃん。」
<だから、あの人は私と結婚してるから。>
「でも運命の人じゃないんだって。たまたま先に出会っただけ。なんで分かんないの?」
<は???分かってないのはそっちでしょ!?>
「はあ…あんたと話しても意味が無い。あの人に代わって。」
<無理。今出掛けてて居ない。>

ピンポーン ♪

彼だ。

「ただいま」
「おかえり」

ほら。今もこのおばさんじゃなくて私を選んでる。

「ねえ、今出掛けてるんだよね?こっちにいるよ。"ただいま" だって。」
<え…は…?>
「あみちゃん…?誰と話してんの?」
「変なおばさん。ねえ、おばさん。忙しいからもう切るね?」
ピッ
「変なおばさんって…大丈夫なの?」
「うん!なんかよく分かんなかったけど、大した用事じゃなさそう!」

プルルルル…

次は彼の携帯が鳴る。
一瞬画面を見た彼は「え」という顔をしたが、その場で切った。
「ほら。やっぱり私なんじゃん。」
小声でそう呟いた後、何も知らない顔をして彼を心配してあげた。

「ねえ、鳴ってるよ?出なくて大丈夫?」
「まあ大丈夫だよ。緊急ならまた…」
プルルルル…
「本当に大丈夫?」
「うん…」ピッ
プルルルル…
「ねえ。」
「ちょっと…ははっ。流石にうるさいな。ごめんね。少し出てくる。」
「うん!ご飯作って待ってる!」

「はあ…運命の相手でもないおばさんなのに…いつかはこうなってたって、さっさと諦めて自分の運命の人探しに行きなよ。笑」
そう言いながら包丁を握る手は震え、気付いたら目の前が水中みたいにぼやけていた。
「最近の豆腐って目に染みるの?笑」
涙が止まらない理由なんて考えたくもない。

気付いてたよ。
どんなに忙しくたって、たまの平日夜だけしか空いてないわけないじゃん。どこのブラック企業だよ。
彼の家に行ったこともないし。うちの方が職場から近いだなんだって言うけどさ…じゃあ一緒にここに住めば良いじゃん。
それでも「一緒に住もう」とか「本当に私だけ?」なんて聞かなかったのは、"信じてた" とかそんなしょうもない理由じゃない。

何より…
「今までくれた花たち…どれも "愛" が無い。」

言葉に出した瞬間、今までふさぎ込んでた気持ちが全部出た。

"本気の恋が無惨な終わりを迎えること" にビビってた
傷付きたくなかった
"価値観の違い" とかよくある理由で静かに終わりたかった
大好きなのに…なんで…

どれだけ恋愛したって、失恋の苦しさに慣れることなんてない。
毎度苦しくてしんどくて耐えられなくて…自信を失う。
「また…またか~…もうほんと。上手くいかないな~…」
誰が聞いてるでもないのに明るく振舞ってみても涙が止まることはなかった。

泣き疲れて寝落ちてた…
時計を見ると深夜2時。
いつもなら彼が既にこの家を出てる時間。
もちろん彼の気配はない。
察した。

ああ。終わったんだ。

なんだか部屋中の花たちが可哀想に見えた。
せっかく生まれてきたのに、
一番綺麗な最高の瞬間に摘まれて、
クズの気持ちを伝えることに利用された。
そんな風に見つめていると、ふいにこの花たちの「花言葉」が浮かんだ。
今度はあのクズの気持ちとしてではなく、この花たち自身の言葉として。

可哀想なんかじゃない。
そうだよ。
誰のために生まれたと思ってんの。
誰のために恋してると思ってんの。
誰のために最高に仕上げてんの。
「うちら自身のためじゃんね。」

あいつがどんだけクズで結婚してて嘘の気持ちを伝えてたとしても、私が彼を好きだと思う気持ちは嘘でもなんでもなかった。
本当に大好きで、彼への好きな気持ちで全身潤って、めちゃくちゃ健気で明るくて綺麗だった。ちゃんと最高の彼女に仕上がってた。

私は彼へメッセージを送った。
「私を好きになって幸せだったでしょ。最高の彼女だもん。」
返事はなかった。

これからも私は運命の相手を探して恋愛し続ける。
その度に可愛くなる。綺麗になる。
そして自分の一番綺麗な最高の瞬間をいつか "運命の人" に届ける。

「枯れてる場合じゃない。潤わなきゃっ!」

「恋多い女」で何が悪いの?:後日譚

あれから半年後、久々にあのバーへ行ったらあいつと再会した。
私が来るのを友達から聞いて待ってたらしい。
「今、少し良い?」
こういう気遣いの言葉にも、「大人の気遣い」なんていちいちときめいてたのが懐かしい。

「あれから元気?」
「まあ。」
「俺、離婚したんだ。」
「へえ。」
「あの日くれたメッセージ…」
「ああ、あれね。その通りでしょ?」
「あのメッセージのせいで離婚したんだ。」
「…は?」
「"一時の迷いだった" って説得してる時に、"最高の彼女" なんてメッセージ…最悪だよ。」
「何が?」
「『一時の迷いなら』って納得してくれそうだったのに…お前の "彼女" ってメッセージで長期間相手してたことがバレたんだよ!!」ガンッ

まじか。自分が不倫してたことを棚に上げて台パンしてる。
こいつと別れて本当に良かった。
これが運命の相手だったら…添い遂げないといけなかったら…秒で来世行く。

「お前には言いたい事が山ほどあるけど、まあ半年一緒に過ごしたよしみで言わないでおく。」
「はあ。」
「ちゃんとありがたいと思ってるか?はあ…お前はそういう奴だよ。」
「はあ。」
「チッ…これ、やるよ。花好きだったろ?だから、お前にお似合いな花を持って来てやった。」
「花が可哀想だから貰ってあげる。」
「そんな言い方しか出来ねえのかよ…やっぱ別れて正解だな。」ガタッ

「花は元々好きだったんじゃなくて、あなたがくれてたから好きに…」とか、前の私なら言ってただろうな。
今じゃスラスラと嫌味な言い方が出てくる。
「ふふっ」
自分の変わりようにツボりながらそっと花を見ると、これまで見たこと無い白くて可愛い花が目に入った。
すぐにネットの検索機能で花を確認すると「水仙」だと分かった。
「水仙の花言葉は…へえ…。」

クズ男からどんな扱いを受けても、理不尽にどんな言葉をかけられても、私は自分をちゃんと愛せてるんだ。ちゃんと大事に出来てるんだ。
そして、最低でクズな人間が見ても「私が私を愛してる」ことが目に見えて分かるんだ。
最高の褒め言葉じゃない?
ってか、

「私って最高過ぎない??」

"惚れやすい"?
人の良いところを見つけることが得意なの。
どう考えても素敵でしょ。

"飽きやすい"?
意味の無いことに時間を割かない、って合理的な考え方が出来る。
成功者に多いんじゃない?

"恋人のスパン早い"?
逆に未来無い相手にいつまで時間使ってるの?

"アッチの経験豊富"?
経験なんて何事も多い方が良いに決まってる。
ってか、良い歳して純潔が良いなんて…あんたがキモいわ。
まあ、言わないんだけどね。

"人によって態度違う"?
当たり前じゃん。
私を大事にしない人を大事にして、何になるの?

"自分を可愛いと思ってる"?
自己肯定感低い人が面倒な女になるって知らないの?
それに、可愛くなかったら相手にされないでしょ。

"失恋が多い"?
それだけ多くの人と恋して一緒に過ごすことが出来るってこと。
順応力が高くて魅力的な証拠だと思わない?

"恋多き女"?
どれだけ傷付いても決して人間を嫌いになる事はないって証明。
こんな素晴らしい才能を兼ね備えてる私が大好き。

「恋多き女」で何が悪いの?


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