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本当に「自分の力で恋愛する」ということ

『なぜ,私たちは恋をして生きるのか』

『なぜ,私たちは恋をして生きるのか』著者の宮野真生子さんの講座に参加してきました。
婚活サイトや現代の「選択的関係」といった具体例で,恋愛を哲学的に読み解く内容。

例えば大手婚活サイトはあくまで「恋愛結婚」を謳い,「良い条件の相手を探します」とは言わない。
しかし趣味はこの人が合う,この人は仕事だけといった部分的な人付き合いができるようになった現代では,デメリットがある人と我慢して付き合い続ける必要が薄れ,よりメリットの多い人を選びたいという発想になりやすい。

つまり相手を選ぶ(選ばれる)理由は,より「利益」を得られるかどうか。この観点で相手を探したり決定したりする際には,「良い条件」以上に最適なワーディングもないだろう。

『自分の力で恋愛してない』

そこでとても面白かったのが「婚活サイトを使ってまで」「自分の力で恋愛してない」といった他の参加者さんの感想だ。

地縁や血縁が薄れた現代では,良くも悪くもしがらみの少ない環境で「自らを受け入れてくれる関係性」を自分で獲得しなければいけない。その圧力が「自分の力」であることへのこだわりとして顕れていた。

しかしこだわったところで,「自分の力」はどこまで及ぶのだろうか?

年収と学歴がこのくらいで趣味は同じで...といった,複数人が該当する特徴であれば条件で探すことは可能だ。
しかし「この名前でこんな顔のまだ見ぬこの人」と,ピンポイントで相手を探すことはできない。

まだ見ぬ人は指定できない時点で,良さそうな人と自然発生的に出逢えるのを待つしかなく,それは婚活サイトに登録しようが道端だろうが変わらない。

逆説的な表現になるが,これだ!と思う相手は,出逢うまで探せないのだ。
「探す」「見つける」といった自発的に見える行為より手前で,自分の力を介在させるプロセスはどれだけあるのだろう。

(相手を探そうとするところに意思を見るのであれば,婚活サイトに登録した時点で「自分の力」を発揮しているといえるはずだ。しかしそうではないらしい。)

モテる=誰かの条件を満たしやすくなる

例えば「自分磨き」は,まだ見ぬ誰かに出逢う前に行えて,かつ自分の意思が介在していそうだ。

ただ,自分磨きといったモテる努力は,誰かの条件に自分が適合する確率を増やすためにある。つまりモテるとは自分を選ぶであろう人の母数が増えた状態のことだ。(そしてその「自分を選ぶであろう人」は自分の好みとは限らない。決して。)

こちらの選択肢が増えたというよりは,誰かにとっての選択肢にこちらが追加されたと言った方が正しく,意外と受け身な状態ではないだろうか。
すなわち「モテ」も「条件」も,自分の選択肢を増やすことにはあまり効果的に作用しない。

しかもここで特筆すべきは,「モテ」や「条件」がその効力を発揮するのは,あくまで出逢ったり付き合ったりするまでだということ。

モテて多くの相手の条件を満たすことも,その上でより条件に合致する相手を選ぶことも,付き合うまでの成功確率は上げるかもしれないが,そうやって付き合った相手とうまくいくことは担保していない。

自分の力で恋愛するとは何か

宮野さんは,『いきの構造』の「意気地」と「諦め」の概念を用いて講座をまとめた。

関係を築くために必要なのは,相手に合わせ過ぎずに「自己」を失わない「意気地」と,他者をどこまでも「わからない他人」として尊重する「諦め」だと説明する。

これは,まだ見ぬあの人と出逢うための教訓でもなく、付き合うまでを恋愛と呼ぶ態度でもない。
付き合ってから必要になるのが,「意気地」と「諦め」であり,これらはまさしく自分の意思の力である。

つまり本当に「自分の力で恋愛」しなければならないのは,出逢って付き合った後だ。
自分磨きもモテも条件も,付き合うところまでしか役に立たないのだから。

そしてその「意気地」と「諦め」をもって付き合った先にあるものなら,出逢い方がなんであれ「自分の力で頑張った恋愛結婚」と呼んでいいのではないか,と思ったりする。


今回の講座を主催されている磯野真穂さんの上記のnoteも興味深かったです。恋愛や恋愛結婚とは何か,と考える方にぜひ。

自分の研究に関連づけて

また完全に蛇足ながら,地縁などしがらみも後ろ盾もない現代で,恋愛だけでなく趣味や職業決定にも「自分らしさ」を求められる背景に関してはこちらで書いています。(修論の一節です)

↑例えば,流派の教えに従うことが唯一の正解だった茶道の世界で「自分らしいお茶」なんて言説が出てきたり,お茶が仕事になっていったりした裏には,人々が「自分の力」で恋愛しなきゃと思う動きと同じ社会背景があるのではないでしょうか。

現代人は社会的なものに駆り立てられて「自分らしく」「自分の力である」ことにこだわりますが,ただ他人に向けて頑張るのではなく,「自分の力」を発揮すべき場所と発揮の仕方を見極める必要があると思います。


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