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【1話完結小説】幸せなお菓子たち

この話を、全てのルマンド好きに捧ぐ____。

贅沢ルマンドが現れた時、群衆はそれまで全力で持てはやしていたルマンドを無慈悲に切り捨てた。

ところがおかしなもので、時が経つと「贅沢ルマンドのこっくりとした態度がうざい」「最初からヘヴィ過ぎると思ってたんだ」としたり顔で言うやからが出てくる。

ルマンドへの回帰である。

しかし、そうやって再び群衆に持ち上げられようとも、一度裏切られ奈落の底に突き落とされたルマンドの心の傷が癒えることはない。ただ、気まぐれな世論に弄ばれた己の運命を呪い嘆くのみである。ルマンドの見た目はルマンドのままであったが、その中身はもはや昔と全く別物であった。

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そんな絶望の淵で、ルマンドの肩を叩く者があった。贅沢ルマンドその人である。彼もまた気まぐれな群衆に踊らされた哀れな被害者であった。

2人は悲しみを知る者同士、共に手を取り合い、無慈悲なこの世界で再び立ち上がろうとしていた。

ところが群衆はこれを良く思わない。彼らは自分達にとっての不穏分子ふおんぶんしを決して見逃そうとはしない。放っておけばやがて脅威に変わるかもしれない2人を全力で叩き始めた。

「そもそもルマンドに贅沢もクソもないし」「結局どっちもルマンドのくせに調子乗ってざまぁ」

怒りにうち震え、振り上げようとしたルマンドの拳を、贅沢ルマンドがそっと止めた。

そして群衆に向かって深々とこうべを垂れたのだった。
「この度はご迷惑をおかけしてしまい誠に申し訳御座いません。全て私どもの不徳の致すところで御座います。結果的にこのような形にはなってしまいましたが、我々は誠心誠意、皆様に愛されるルマンドを目指して生きて参りました。そしてこれからもその気持ちに変わりは御座いません。どうかそれだけはご理解頂き、今一度チャンスを頂けませんでしょうか。」
贅沢ルマンドの真摯しんしな謝罪に群衆は一瞬静まり返った。

贅沢ルマンドは知っていたのだ。このような場では下手に戦わない方がいいという事を。弁明もせず、反論もせず、ただシンプルに大袈裟に謝るだけで世論の風向きは変わる。

実際、2人を擁護する意見は日に日に増えていった。「ルマンド叩きにはもううんざり」「今まで散々ルマンドにお世話になったのに薄情者多すぎ」「結局ルマンドも贅沢ルマンドも神」

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夕陽の見えるバルコニーでルマンドが贅沢ルマンドに言った。
「あの時、私が拳を振りあげていたら、大義名分のできた群衆はますます勢い付いて私達を袋叩きにしていたでしょう…。止めてくれてありがとう。あなたには感謝してもしきれない。」

贅沢ルマンドが夕陽を浴びてうなずく。

「でも、ひとつだけ教えて。」ルマンドはどうしても気になることがあった。
「私達は何ひとつ悪くないのに、なぜあんな風に奴らに謝らなければならいの。そもそもなぜ叩かれているのかすら分からない。どう考えても狂っているのはあちらなのに。考えれば考えるほど悔しいの。」

贅沢ルマンドはルマンドの瞳を真っ直ぐ見つめて答えた。
「君のルマンドとしての怒り、嫌というほど分かるよ。でも僕は今回の出来事で気付いたんだ。この世を生きていくのに良いも悪いも、正しいも間違いもない。僕らに必要なのは正しさの証明ではない。いかに快適に過ごせるか、だ。僕にとって今君とこうして穏やかな時を過ごせる事が最優先事項であり、謝罪はそれを成し遂げるための手段に過ぎない。ルマンド、君を愛してる。」

「贅沢ルマンド…」

沈みかけた夕陽が2人の頬を染め、激しく赤く燃えていた。もはやこの下らない世界で、贅沢ルマンドとルマンドは人間よりも人間だった。

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それから先も、群衆は叩いては擁護する…その規則的な波を絶えず繰り返した。

そんな激動の時代を軽やかにしたたかにくぐり抜け、2人は今も幸せに暮らしている。バルコニーから夕陽を眺める2人のそばでは、可愛いミニルマンドたちが無垢な笑顔ではしゃいでいるのだった。

end

この物語はフィクションです。実在の人物や団体、商品などとは関係ありません。
商品名使ってるから念の為書いておきます。
これでもなにか不都合があればご教示下さい🙏


ルマンドの世界へようこそ____!

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