【1話完結小説】アナログバイリンガル(408文字)
シゲゾは荒廃した町でアナログバイリンガルをしている。
大昔滅んだ異国の本が発掘されるたびにそれを翻訳し、人々に娯楽を提供する唯一無二の仕事だ。
特に今手掛けているシリーズものは好評で、人々は次回作を心待ちにしている。
シゲゾはそんな自分の仕事を誇らしく思い、日々やりがいを感じていた。
ある朝、シゲゾが海岸を散歩しているとジップロックに入ったタブレットが漂着していた。
電源を入れると唐突に物語が始まる。
その見慣れたタイトルは、まさに今手掛けているあのシリーズ。
「…え!?」
画面の中で俳優達が動いて喋っている。
この言語を話す者はもういないので、音声はとても貴重な資料だ。
しかも何と、画面下側には字幕翻訳まで表示されている。
「…面白い!」
約2時間、夢中でその物語を堪能した後、タブレットを海岸の岩に叩きつけ、砂に埋める。
それからシゲゾは走って帰宅し、自分の翻訳した“急げ!ポッター君”の最新話を何食わぬ顔でリリースしたのだった。
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