【1話完結小説】存在認識
小学校が小学校であるのは、そこに小学生や先生達が居て、彼らが「僕は小学生だ」「私は小学校教師だ」「ここは小学校である」と認識しているからにすぎない。
その証拠に、放課後になって生徒達が帰り、スポ少の野球少年達が帰り、遅くまで明日の授業の準備で残っていた最後の先生が引き上げてしまうと、途端にソレは小学校ではなくなってしまう。ソレを“小学校”として見る者が一人もいなくなった時、ソレが小学校でいなければならない理由がどこにも見当たらないからだ。
縛りから解き放たれたソレは、自在に形を変え、一部はスライムのように地面にとろけて落ちているし、別の部分は伸縮を繰り返しながら夜の闇に溶け込んでいる。日中被っていた仮面を外し、それまで抑え込んでいた何かを発散するかのごとく、一心不乱に乱舞するのだ。このトランス状態が長期間続けば、ソレが完全に正気を失ってしまうのも時間の問題だと思われるが、いつもすんでのところで新しい一日が訪れて、最初の先生が出勤してくる。
先生はいつも通り「さあ今日も小学校に着いたぞ。今日は国語の時間に小テストをするぞ。」などと考えながら入ってくるものだから、ソレは「ああそうだ、私は小学校だったのだ」と思い出し、居住まいを正すのであった。それから一人、また一人と生徒や先生達が続々と小学校にやって来る。朝の会が始まる頃にはみんなの認識によって小学校は完全に小学校に戻っているのである。
もしこの先、廃校にでもなって生徒や先生達が一人もやって来なくなった時、ソレは一体どうなってしまうのだろうか。誰にも“小学校”だと認識されないままのソレはきっと本当に解き放たれてしまうだろう。自由になってこの場所ではないどこかへ…周辺の畑や信号機や家々を破壊しながら…飛んで行ってしまうかもしれない。私はずっとそんな心配をしているのです。
…ところで、あなたがあなたであるのはどうしてですか?
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