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学校の最上位目的は生徒の自律

2020年2月に、千代田区立麹町中学校と文部科学省初等中等教育局財務課との合同発表会が開催されました。
発表会に向けて様々なやり取りをする中で、麹町中学校の工藤勇一・前校長から現在の教育が抱える課題などについて話を伺う機会があり、そのときのに言われたのが「学校の最上位目的は生徒の自律であるにも関わらず、多くの学校では手段が目的化している」という言葉です。

工藤校長は、メディアなど様々な場面で、多くの学校が当たり前のこととしてやっている学級担任制や定期考査などは生徒が自律するための手段であるにも関わらず、それが多くの学校で目的化していることに対して問題提起されています。
私自身、中学校で学級担任をした経験がある中ので学級担任の存在自体を疑ったことはなく、その考えに目から鱗でした。実際に、麹町中学校では「生徒の自律」という目的に対して効果的か否かを考え、学級担任制や定期考査を廃止しています。

また、工藤校長は文部科学省に対しても「本来、学習指導要領は、生徒の自律に向けた手段であるにも関わらず、学習指導要領の内容や標準授業時数をこなすこと自体が目的化している。文部科学省が行う形骸化した調査も手段の目的化につながっている」と厳しく指摘をしてくれました。
私自身、教育行政に身を置く立場になって、膨大な業務量をスピード感を持ってこなさなければならないので、その業務の目的を考える間もなく、手段である施策をやることだけで手一杯になってしまいがちです。けれど、そんな業務の積み重ねが手段の目的化につながり、学校現場にも影響を及ぼしているのだとしたら、大いに反省すべきだと勉強させられました。

話は変わりますが、新しい組織マネジメントの在り方を提唱している『ティール組織』という書籍があります。この本では、組織の発達段階を
①衝動型(レッド):恐怖支配による組織、
②順応型(アンバー):規則等による階層構造型の組織、
③達成型(オレンジ):実力主義による効率・複雑な組織、
④多元型(グリーン):コミュニティ型の組織、
⑤進化型(ティール):生命型組織、
の段階に分けて解説しています。
ちなみに、②の順応型には軍隊や官僚組織が該当すると指摘されており、私は、現在の学校や教育行政の多くがこれに該当していると捉えています。

既存の順応型組織にもメリットはありますが、問題が複雑化し、変化の激しい時代においては、ピラミッド型で物事をトップダウンで決めて実行していく組織運営には限界があと考えています。
課題の背景にある複雑な構造を一番理解しているのは最前線の現場にいる人であり、トップまで課題が共有されて指示が末端まで降りていくころには課題自体が変化してしまうからです。
なので、多様性と激しい変化への対応が求められる学校や教育委員会は、職員同士が有機的に連携し、各自の判断で学校や組織をそれぞれが経営していく新しい組織体制(ティール組織)に移行していく必要性があると強く感じています。

現状でも機能している組織を変えていくためには、とてつもない労力とエネルギーが必要です。また、一時的に変革をしたとしても元に戻ろうとする復元力が働きます。
その困難性についてはティール組織の書籍で触れられていますが、同時にティール組織に移行するための突破口についても紹介されています。それが「自主経営」「全体性」「存在目的」の3つです。

詳細については著書に譲りますが、このうちの一つ「存在目的」は、学校が新しい組織(ティール組織)に進化していくための重要な要素だと考えています。
そして、紹介した工藤校長の「学校の最上位目的は生徒の自律」という言葉は、まさに学校の存在目的であり、これを学校全体で共有することで、何をすべきか、また何をすべきでないのかの判断が明確になり、教師一人ひとりが考えて当事者として行動できるようになっているのだと思います。

同じように学校の存在目的を意識して学校経営を実践した校長として、「みんなの学校」で有名な大阪市立大空小学校の初代校長の木村泰子先生を紹介したいと思います。木村先生とは、文部科学省の自主的な勉強会で講師をしてくださったときにお話を聞くことができました。
木村先生は「学校の目的は、すべての子ども達の学習権を保障すること」を掲げ、校長として不登校ゼロの学校を実現します。学校の存在目的を校長が常に意識し、学校全体で共有することで、学校は劇的に変わったと話をしてくれました。

この2人のお話は「学校の存在目的」を明確にした学校経営という点で共通しています。
そんな工藤勇一先生と木村泰子先生の2人に、新学習指導要領の改訂で担当課長をしていた合田哲雄氏を加えた対談の内容が『学校の未来はここから始まる』というタイトルで書籍化されました。
私の尊敬する3名の対談ということで、ワクワクしながら一気に読み進めました。3人の対談によって、改めて学校現場が抱えている問題の構造や進むべき方向性が見えてきます

学校全体が最上位目的を意識しながら子ども達と向き合うことで、教員集団が変化し、子ども達が変わっていく
私がこの本を読んだ感想は、学校という従来型の組織から自主経営という新しい組織に向かって進化してくための大切な要素がこの本には含まれているということです。
そして、学校経営を見直すことは、子どもを「育てる」学校から子どもが「育つ」学校へと進化するために避けては通れないプロセスなのだと考えさせられました。

私は幸運にも3人のお話をそれぞれ直接聞く機会がありましたが、なかなかそんな機会は無いと思いますので、多くの教育関係者にこの本を読んでもらいたいと願っています。



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