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問題を解決するのが仕事

文部科学省から岩手県教育委員会に出向して1年2ヶ月が経過しました。県教育委員会は、文部科学省よりも学校に近いことから、現場感覚がより一層求められる一方で、県全体の旗振り役としての役割も担っていることから、広域行政の視点も必要となるなど、とても勉強になっています。

このようなマクロとミクロの視点を持つことの他に、現在進行系で学んでいることが、問題解決型の仕事のやり方です。これは、とてもシンプルで、学校現場の問題を発見し、それを一つ一つ解決していくという手法のことなのですが、実はこれがとても難しく、奥が深いです。

行政で仕事をしていると、どうしても現状の枠組みの中で可能なことからスタートしてしまいがちです。これは「フォアキャスティング」と呼ばれる思考法です。限られた予算の中で何ができるのか、今ある法律などの制度の中で何ができるのか、不足している人員の中で何ができるのか、といった既存の枠組みの中で無意識に考えてしまいます
この手法自体を否定するつもりはありませんし、限られた経営資源や環境の中で、できることからまずはやっていくという考え方は大切だと思います。

一方で、そのような仕事のやり方だけでは、構造的な問題の解決にはつながらないのも事実で、対処療法だけではやがて限界が訪れ、問題はより深刻化し、職員の負荷も増してしまいます。
たくさんある課題を構造的に捉え、レバレッジポイント(テコの原理で言うところの「支点」)を見つけて、既存の枠組みに囚われることなく問題を解決していくことが求められます。「バックキャスティング」と呼ばれる思考法です。それこそが行政にしかできない仕事です。

けれど、これを実行しようとすると2つの壁に直面します。その一つは予算の壁です。
これは教育に限った話ではないものの、特にも教育行政の分野では、この予算の壁が高く立ちはだかります。その理由はいくつかあると思いますが、私は次の3点が特にも影響していると考えます。

①教育委員会は首長部局とは独立した組織であり、教員経験者である指導主事が多いことや知事部局との人事交流も比較的少ないことから、予算に関する知見を持っている人材が他部局と比べて少ない
②教育分野は、その効果を図る尺度が多様(学力や非認知能力、いじめ・不登校等)であり、また効果が現れるのに時間がかかることから、政策効果をエビデンス(客観的な数値等)で示すことが難しい
③人口減少・少子化により、対象となる児童生徒は減少傾向にある中で、いじめや不登校、貧困等の子どもを取り巻く環境の変化から課題は増加傾向にあり、機械的に児童生徒の減少に応じた予算の縮減を図ることができない

このような中で予算を獲得していくことは、非常に難しいことなのですが、それでも、問題を解決しようと思ったら避けては通れません。逆に、これを避けてしまうと、教員の負担(時間外労働)に依存することになります。学校現場の抱える課題を構造的に解決するためには、予算の議論は不可欠です。

岩手県教育委員会では、昨年度から国の予算を活用してすべての県立学校に無線LANを整備するだけでなく、独自の予算で半数近い県立高校に大型提示装置を導入し、全校に拡大しようとしています。また、臨時交付金も活用して、すべての県立学校にエアコンを整備する方針を打ち出すなど、これまで財政負担が大きくなかなか手をつけることができなかった環境整備の部分について大きく進展することができています。

これは、教育委員会が一丸となって、今の学校現場が抱える問題、特にも岩手県の場合はハード整備が子どもたちの学びの質の向上には不可欠であると考え、財政当局をはじめ関係者に現状を訴え、対話を重ねることで、実現することができました。

ちなみに、バックキャスティングで問題を解決することの2つ目の壁は、解決すべき問題を発見することです。これは国にいても県にいても、小さな町にいても難しいことだと感じています。
課題自体はたくさんあります。基礎学力を上げる必要がある、就学前教育の質を高める必要がある、多様な生徒を受け入れる環境を整える必要がある、などなどです。
けれど、それがどのような問題に起因して生じているのか、たくさんある問題の中で何が構造的なネックになっているのか、というところを見極めるのがとても難しく、まさに行政としての専門性が問われます

大型提示装置など十分なICT環境が整っていないのに、Wi-Fi環境だけ整備しても使い勝手が悪くICTを活用した授業は進みませんし、真夏の汗だくの中で授業の集中力を上げるのにも限界があります。
現に、大型提示装置を導入した学校では、その効率性・効果から教師が進んでICTを授業に取り入れています。ICTの活用には、教師の意識改革や研修不足だけが問題なのではなく、そもそも活用が進まない構造的な問題を浮き彫りにしたからこその対応でした。

タイトルにある「問題を解決するのが仕事」という言葉は、岩手県の教育長である佐藤博氏の言葉なのですが、教育委員会の仕事は、学校現場が抱える構造的な問題を見つけること、それを根本的に解決するために、知恵を絞り、厳しい交渉を重ねることなのだと、日々、勉強させてもらっています。

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