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変わらないために変わり続ける

離島の海士町にある島前高校が生徒数減の影響で廃校の危機に直面したとき、島まるごと学校化や島留学などの高校魅力化プロジェクトの挑戦を始めたのは、高校が廃校となれば島から子育て世帯の流出が加速することで過疎化が一気に進み、島は無人島になるという危機感からでした。

また、役場が第三セクターを立ち上げて、CASという新しい冷凍技術を離島で初めて導入し、出向した役場職員が商品開発から販路開拓までの6次産業化の挑戦に取り組んだのも、魚価の低下や燃料代の高騰の影響で、このままでは島の漁業が成り立たなくなるという危機感からです。

その危機感の根底にあったのは、離島の美しい田園風景や漁師が船で沖に出る風景、そして神楽や民謡などの島の伝統・文化を守り、そして未来に継承するという強い想いです。
挑戦すること、変化することは目的ではなく手段であり、守りたいものがあるという揺るぎない目的があることが、どんな困難にも立ち向かう原動力になっているのだと2年間の出向経験で感じることができました。
このことを、役場から第三セクターに出向した奥田和司氏は「変わらないために変わり続ける」という言葉で教えてくれました。この言葉は私の中で強く心に残っています。

驚くべきことに、この「変わらないために変わり続ける」という考えは、一部の役場職員だけでなく、DNAのように海士町全体に浸透しています。だからこそ人口減少や少子高齢化、財政難という環境の変化に立ち向かい、生き残るために進化を続けることができているのだと思います。

そんな海士町がさらに進化を遂げようとしています。その一つが、離島に出版社を創るという挑戦です。小さな離島が、持続可能な社会の曳舟(タグボード)として進むべき未来を引き寄せる知の発信基地になるべく「海士の風」という名前の出版社を立ち上げました
その記念すべき第一冊目の本のタイトルが『進化思考』(著者:太刀川英輔)というタイトルの本になります。変わらないために変わり続ける、進化し続ける海士町にぴったりの本です。

本は4月21日に出版されます。Amazonで予約が開始されていて、ビジネス書ランキングで上位に入るなど注目されています。私は一足先に試作版を読ませてもらいました。創造性と生物の進化とを関連付けながら、創造(変革)に必要な視点が具体的な事例も交えながら分かりやすく書かれています
海士町の新しい挑戦を応援してほしいという想いもありますが、何よりも、変化の激しい時代の中、意志を持って進化しようと挑戦している人にとっても参考になる本ですので、是非、多くの方の手に取ってもらいたいです。

また、未来の挑戦者を育てる多くの学校・教育関係者にも本書を読んでもらいたいです。私が本著を読んで学んだのは「創造性教育」の観点から見えてくる現状の学校教育に足りていない部分と、そのために必要となる部分について新学習指導要領が示している方向性と重なる部分が大きいということです。

進化思考では「変異」と「適応」という2つの視点で生物の進化と創造性について述べられています。著者は、進化のプロセスを暗闇の中で玉入れをすることに喩えていて、読み進めていくと、これまでの学校教育は「適応」(暗闇にある玉入れのカゴの大まかな位置を探し当てること)に関しては強みとして持っている部分もあるけれど、「変異」(暗闇の中でタマをたくさん投げ続けること)に関しては欠けているところが多いことがよくわかります。
進化思考の本では、さらに「変異」を9つに、「適応」を4つに分けて解説しています。私は元理科の教師として生物の進化とイノベーションの過程とのリンクに驚きながら、興味深く読ませてもらいました。

私がこの本を読んで頭によぎったのは「変わらないために変わり続ける」という海士町で出会った言葉でした。その島から生まれた『進化思考』という本が海士の風となって多くの人に届くことを願っています。

「進化思考」に書かれている「変異」と「適応」の視点

(変異)
 変量―極端な量を想像してみよう
 欠失―標準装備を減らしてみよう
 融合―意外な物と組み合わせよう
 逆転―真逆の状況を考えてみよう
 分離―別々の要素に分けてみよう
 交換―違う物に入れ替えてみよう
 擬態―欲しい状況を真似てみよう
 転移―新しい場所を探してみよう
 増殖―常識よりも増やしてみよう

(適応)
 解剖―内側の構造と意味を知ろう
 系統―過去の系譜を引き受けよう
 生態―外部に繋がる関係を観よう
 予測―未来予測を希望に繋げよう


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