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「石」の巻 2日目の夜

前回のあらすじ

2日目は、今回の旅のメインとなるルートの、特に大切な部分を自転車で走り抜け、港町女川で美味しいご飯を食べたところまで。

後は石巻まで主要道路を走るだけとなった。
楽しみは夜の日本酒。

まず港から一気に急な坂を直登する。

確信犯で飲んでしまった日本酒が、汗に変わる。

だいぶ登った所に「津波浸水ここまで」の標識。

恐ろしい高さだ。

登り切ると、ほぼフラットな道を石巻へ。

まだ足に力がある。街が近づいてくる。

着いた。

チェックインしてシャワーを浴びる。

洗濯物を持って近所のビジネスホテル兼コインランドリーへ。その名もコンビニホテル。

自転車に乗っている時だけでなく、夕飯を食べに外に出るだけで汗をかくので、一日2セットは衣類の洗濯が必要で、コインランドリーはありがたい。

洗濯物を入れて部屋に戻ったら一瞬で寝てしまった。

起きて、コインランドリーで衣類を軽く乾燥機にかけ、部屋へ戻ると、もう午後七時だった。

いよいよ10年ぶりのニュー魯曼停さんだ。

とは言うものの、普段Facebookでマスターの日常を見ているので、1年ぶりくらいの気持ちでもある。

大きくドアが開いていて、マスターと奥さんが遠くから見えた。

久しぶりだ。カウンターとキッチンに少しだけアクリル板がある以外は、なにも変わらない気がした。

やっぱり最初はハートランド。

すっきりとした、緑の風のようなハートランドが夕暮れ時に最高だ。

今日教えてもらった、雄勝の壁画やニューこのりさんの穴子天の話などをする。お通しの枝豆、味がついていてスッキリした醤油に八角の隠し香りがうれしい。

息子さんは酒蔵で働いてらっしゃって日高見だと記憶していたが伯楽星だった。伯楽星、すごい!

今日は日本酒をたくさん飲もうと楽しみにしていた。すべておまかせで。

最初の一杯がこちら。


マスターと、あたごのまつ

伯楽星の酒蔵さんが醸す、本醸造。

キレイだ。キレイなのに薄くなくて、料理の邪魔をしないけど、ツマミなしでも永遠に飲み飽きないような絶妙なバランス。醸造アルコールの特性が最高に活かされていて、これはすごい酒。

帰りにお土産で買いたいから買えるお店を聞いたら、東京駅の地下のはせがわさんだった(笑)

なにか乾き物でいいので、とオツマミを頼むと、モロキュウを出してくださった。

「あ~、汗をかいてきたから、こういうのがありがたいよなぁ〜、さすが」と味噌をつけて食べる。

うん? 味噌?

あれっ。あれっ?

まさか。

お猪口一杯に盛られたお味噌のようなものをもう一度キュウリにつけて食べる。

「コッコレッ、ウニじゃないですか!」

ウニ味噌がお猪口の中で大海原状態。

滅茶苦茶旨い。

これを味わい切るには、日本酒を6杯ぐらい飲まないと、バランスが…

今日は地元の高校の同窓会が盛大にこのホテルで開かれていたので、来店されるお客さんも多い。

マスターが忙しい時は、斜め前にある画面で流れるジャズのライブを見て、遠くの大きなスピーカーからの緩やかな音を楽しむ。

昼は自然の奏でる音の中にいて、夜は日本酒を飲みながらジャズのライブを見ているなんてなんて豊かな時間なんだ。

飲むほどに、まるで先週も来ていたかのようなくつろいだ気持ちになってくる。マスターの仕事の合間に、少しずつ、石巻のまだ行っていないエリアの話をうかがった。牡鹿半島、今回は行っていないけど、いつかゆっくり行ってみたくなった。シーズンを外して、海辺の民宿で、海の幸を味わいたい。

以前中沢新一さんが石巻で講演されたそうで、その時に縄文人は三角のものに神が宿ると信じていて、金華山はまさにそういう形で、石巻には縄文人が集って住んでいた、とうかがった気がする。(酔っていたので話半分で読んでください)

(これだったのかな↑)

金華山はクライミングにも適しているということで、そんな動画も、目の前の画面でライブ映像を停めて見せてくださったりした。

そんな時、若いカップルが私の隣に座った。

仲が良さそうで、落ち着いた声でゆっくりお酒を選んで飲んでいた。

なにかのはずみで話が始まった。
偶然初めて魯曼停さんに入ったそうだ。

彼らは石巻出身で走るのが2人とも好きだそうで、男性の方は箱根駅伝にも出場するような選手だった。

いまは石巻で仕事をしていて、石巻が本拠地となるツールド東北の仕事もされているという。

話が弾む。

今日走ってきたルートを言うと、ふと彼から「遺構大川小学校に行かれましたか?」と聞かれた。

私はもう、遺構は必要を感じない限り見ないことにしていて、それは十分見て分かったから。大事なのは悲惨なものを見続けるよりも、そこから立ち上がって新しい未来を作っている人達を見たい、と話してふと目の前を見ると、まさにこの二人がその、光だった。

マスターの年代と、彼らの年代が、偶然ここで、出会い、縄文時代からの石巻DNAがこうしてバトンタッチされていく。

そして、そんな光の一瞬に出会えた。

観光とは光を観ること。

最高の観光が出来た。

若い彼らは、スマートに軽く飲んで帰っていった。オススメの場所も教えてもらった。

私の砂時計ならぬウニ時計も、そろそろ終わりに来ている。

最後にまた、「あたごのまつ」をお願いする。


ウニ時計と酒時計。
そろそろ終わりですよ〜。

もう思い残すことはない。そしてこれ以上飲むと、醜態をさらす時間に入る。

あと2杯は行けたが、それは次回のポイントにとっておこう。

奥さんが下さった「部屋に戻ったら食べて下さい」とお土産に下さったフルーツと、マスターからホップソルトを頂いてお店を出た。汗をかき日本酒を飲んだ私の身体に優しかった。

最後に握手したマスターの手は、変わらず大きかった。


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