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シアターコモンズ '20 レポートブック

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日常生活や都市空間の中で「演劇をつかう」。 「シアターコモンズ」は演劇的な発想を活用することで、 「来たるべき劇場/演劇」の形を提示するプロジェクトです。 ここでは2020年… もっと読む
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#シアターコモンズ

宇宙を心に宿す、喚起の劇場──ナフーム『Another Life』『軌道のポエティクス』評

宇宙を心に宿す、喚起の劇場──ナフーム『Another Life』『軌道のポエティクス』評

塚田有那
(編集者、キュレーター、一般社団法人Whole Universe代表理事)
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 「さあ、目を閉じて、ゆっくり呼吸してみよう」。そんな声からパフォーマンスは始まった。ほのかに赤い光が灯る室内で、観客は全員目を閉じる。息を吸って、ゆっくりと吐き出す。体内をめぐる息のありかに集中していくと、少しずつ力が抜け、腰かけた椅子の感触を感じながら、体はどん

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人間は深い淵──リーディング・パフォーマンス 市原佐都子『蝶々夫人』評

人間は深い淵──リーディング・パフォーマンス 市原佐都子『蝶々夫人』評

森岡実穂(オペラ演出批評)
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 市原佐都子によるオリジナル部分と、プッチーニのオペラ《蝶々夫人》の台本抜粋を組み合わせた戯曲『蝶々夫人』を、観客数十人で読み合わせるという「上演」が、シアターコモンズの「リーディング・パフォーマンス」として企画された。時期は2月下旬から3月上旬、新型コロナウィルスの流行によって各所の演劇上演が次々中止されていった頃で、シア

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生き延びる(ための)トリック──シャンカル・ヴェンカテーシュワラン『インディアン・ロープ・トリック』評

生き延びる(ための)トリック──シャンカル・ヴェンカテーシュワラン『インディアン・ロープ・トリック』評

髙橋彩子(演劇・舞踊ライター)
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 広場に現れた奇術師が空にロープを投げ、弟子の少年と共にそれを登り、少年の身体をバラバラにして地上へと降らせたり、その身体をまたもとに戻したりするという「インディアン・ロープ・トリック」。シャンカル・ヴェンカテーシュワランが、インドで古くから行われ、何世紀にもわたって誰も解明できなかったこのトリックをどのように表現するの

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「私」から離れて隣り合う──キュンチョメ『いちばんやわらかい場所』レポート

「私」から離れて隣り合う──キュンチョメ『いちばんやわらかい場所』レポート

芝田 遥(制作者)
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独自の嗅覚とクリエイティビティをもって、現実に分け入り、複雑かつリアルな感情や矛盾を引き出すアートユニット、キュンチョメ。3月上旬に開催されたワークショップは、「ぬいぐるみ」を媒介に、参加者それぞれの無意識下にある「やわらかい場所」を探り、刺激するものだった。制作担当の芝田遥が、その一部始終と、自らの経験を報告する。

 約20名

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「正面」から/を問うセ(ルフ)リフ(クレション)──リーディング・パフォーマンス 中村大地/松原俊太郎『正面に気をつけろ』評

「正面」から/を問うセ(ルフ)リフ(クレション)──リーディング・パフォーマンス 中村大地/松原俊太郎『正面に気をつけろ』評

山﨑健太(演劇批評)
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 「正面に気をつけろ」。参加者自らが戯曲を読むという形式をとるリーディング・パフォーマンスにおいて、この言葉は単に突きつけられる警告としてでなく、それを発する自らの立場をも問い直すものとして響くことになる。

 演出家の中村大地によって参加者に与えられた指示は以下の通り。

○人物
・『正面に気をつけろ』を、4人の「もう死んだ者た

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「隔離」と「感染」のデジタル・ドラマトゥルギー──ジルケ・ユイスマンス&ハネス・デレーレ『快適な島』評

「隔離」と「感染」のデジタル・ドラマトゥルギー──ジルケ・ユイスマンス&ハネス・デレーレ『快適な島』評

岩城京子(演劇パフォーマンス学研究)
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関心経済の格言は「我シェアする、故に我あり」 西洋ルネサンス時代の一点透視図法は「人間の驕り」によって誕生した。「私」という白人男性である主体が「絵」に描かれた客体を、秩序だったかたちでコントロールしたい。そのために、歪み、濁り、ひずみ、ブレ、闇、醜さ、見苦しさなどのカオス的混成体であるリアルを、明晰な尺度に収め

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水槽のなかの脳は何の夢をみる?──小泉明郎『縛られたプロメテウス』考

水槽のなかの脳は何の夢をみる?──小泉明郎『縛られたプロメテウス』考

中村佑子(映画監督・作家)
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 3月6日、その日は新型コロナウィルスの国内感染者333名、死者6名が発表された日だった。風邪気味だった私は、自分が無自覚な保菌者だったらいけないと、数日自宅で静養し、症状がおさまったその日、お台場へ向かっていた。
 東京湾に広がる空はよそよそしいほど蒼かったが、コロナは物音もさせずこの都市に侵入し、私たちの与り知らぬとこ

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