人口1万4千人の町に9億以上の寄付!ふるさと納税で強まる町の力【多気町役場】
2021年、ふるさとチョイスを運営するトラストバンク社に寄付の相談が舞い込んだ。愛知県在住者からの「地元の児童養護施設に100万円分の寄付をしたい」という内容だった。トラストバンク社はせっかくの寄付金を最大限に活用するため、ふるさと納税に精力的な三重県多気町に協力を依頼。多気町役場 農林商工課・青木和之さんを中心に、寄付金の使い道を考えるプロジェクトが始動した。
急スピードで発展した多気町ふるさと納税返礼品
ふるさと納税の制度がスタートしたのは2008年。納税意識の向上や地方創生、過疎などによって減収している自治体の活性化につなげることを目的とした制度だ。寄付者は返礼品を受け取ることができるほか、寄付金控除によって住民税の税額控除を受けられる。こうしたメリットがあることにより、制度開始直後には多くの自治体や住民から注目が集まった。
多くの自治体がふるさと納税の活用に取り組む中、特に積極的な動きを見せていたのが三重県多気町だ。多気町はこれまでにふるさと納税返礼品として登録してきたのは、特産品である松阪牛や伊勢いも、前川次郎柿、希少トマトでつくった究極の100%トマトジュースなど。ふるさと納税で得られた寄付金の使途は、保育園給食費無料化や中学生までの医療費無料化、地場産業の振興や地域の雇用創出、地域景観の保全や移住支援、「高校生レストラン まごの店」の運営などだ。
今でこそふるさと納税をフル活用し、町の施策充実や活性化に努めている多気町だが、当初から順調というわけではなかった。松阪牛を多気町のふるさと納税返礼品として登録した直後は、全国から寄付金が集まった。ところが程なく、多気町の返礼品は目立たなくなってしまった。というのも、ふるさとチョイスは日本最大級のふるさと納税総合サイト。登録している自治体数は約1600、掲載している返礼品数は42万点を超える(2022年6月現在)。
ふるさと納税によって地域を活性化するならば、もっと力を入れて取り組まなければいけない。そう考えた多気町役場は返礼品事業者を増やすことで、返礼品の増加と高品質化を目指した。青木さんが所属する農林商工課は、地域の事業者と接する機会が一番多い部署。地域の事業者と接しながら、多気町が持つポテンシャルを強く感じていたという。
「多気町には、返礼品事業者になり得る生産者や会社がたくさんあるんです。そこで事業者さんの元に足繁く通い、多気町のふるさと納税返礼品を開拓していきました」(青木さん)
事業者と行政が信頼関係を築くことで、発展していった多気町のふるさと納税返礼品。現在の多気町では、50を超える事業者がふるさと納税返礼事業者となった。ふるさとチョイスに掲載される返礼品数も、スタート直後の2008年はたった2件だったところから大幅に増加。14年に約20品、18年に約100件、22年には約260件にまで成長した。
寄付金100万円プロジェクトで子どもたちにできること
多気町のふるさと納税の規模が大きくなる一方で、町として大事にしているのは「ふるさと納税は通販ではない」ということだという。ふるさと納税担当者の中村進吾さんも「返礼品に金額を付けるということは当然、事業者も責任を持って届けなくてはいけません。しっかりしたものを届けるからこそ、寄付者に喜んでいただけるんですよね」と語る。
ふるさと納税に対してそんな想いを抱く多気町に、愛知県在住者からの寄付に関する協力の依頼が入った。愛知県の児童養護施設に100万円の寄付をしたいが、返礼の内容は決まっていない。ほぼゼロからのスタートとなる依頼だったが、「寄付者や児童養護施設の子ども、多気町の事業者や地域のためになるのであれば」と、多気町は快く引き受けた。
そこで多気町が提案したのが、三重県立相可高校が運営する「高校生レストラン まごの店」と連携した返礼だった。相可高校の食物調理科は、若くして料理人や食の業界へ進むことを夢見る学生の学びの場。教員の指導のもと、調理クラブの生徒がメニューを考案したり実際に調理をしたり、レストランを自分たちで経営しているのだ。2011年にはまごの店をモデルとしたドラマ『高校生レストラン』が放映され、全国的にも有名になった。この高校生レストランで、子どもたちに食事や高校生との交流を楽しんでもらおうと考えた。
「児童養護施設の子どもたちにとって、夢に向かって頑張っているお兄さんやお姉さんがいるということに何か感じてもらえるのではないかと思ったんです」(青木さん)
寄付金を使用してバスをチャーターし、児童養護施設の子どもたちを愛知県から多気町へ招くことを計画。このほか、寄付金の使い道についてたくさんのアイデアが浮かんだ。気候の温暖な多気町は果物の産地としても有名。子どもたちに果物狩りも楽しんでもらう予定もあった。
実現に向けて準備を進めていたところ、2020年に新型コロナウイルス感染症拡大が発生。子どもたちと高校生の交流はもちろん、県をまたいでの移動も延期を余儀なくされた。可能な限り実現を目指した多気町だったが、いまだ続くコロナの勢いを考慮し計画を断念することに。
当初の計画を実行することは叶わなかったが、寄付者の想いに応えるべく他の方法を探し始めた。多気町は松阪牛の名産地。児童養護施設に松坂牛を送るという案が生まれた。寄付額が100万円と高額だったため、松阪牛の大量発注は多気町役場からの信頼も厚い瀬古食品霜ふり本舗に依頼。松阪牛は無事に児童養護施設へ届けられ、子どもたちは松阪牛のBBQを楽しんだ。
「『そちらのやりやすいように』と、時期や肉の種類など、希望をしっかり聞いて下さいました」とは、児童養護施設担当者の言葉だ。
「多気町におじゃまできなくなった後も、メール等で根気よくご連絡をくださって。結果的には、手軽な焼肉スタイルでご提供いただき、子どもたちはお肉を焼くところから楽しんでいました。普段のお肉と比較しながら味わい、『美味しい!』と大満足。その様子を青木さんにお伝えすると、『大変、感銘を受けました。子どもたちの一助になれたら、こんなに嬉しいことはありません』とおっしゃり、かえってこちらも恐縮する思いでした」
また、相談を受けた霜ふり本舗の担当者・永井さんは、こう振り返る。
「皆様でお召し上がりいただくため、数種類のお品を同じタイミングで発送したい。このようなご相談をいただき、希少部位も含めて複数対応させていただきました。私たちは、命をいただいて商売をさせてもらっています。そういった気持ちを忘れずに、愛情を込めて育てた牛をお届ければと思いました」
お礼の品が決まってないなかでのプロジェクトは稀。ではあるが、行政にとっても事業者にとっても、様々なアイデアをふりしぼって挑む。多くの気づきがあったと、青木さんは振り返り、何よりも松坂牛を受け取った子供が喜んでくれたことに安心した。
「青木さんは、町を盛り上げるために、色々なアイデアをひねり出しています。ふるさと納税だけでなくイベントにも関わっているので、いつも忙しそうに、それでいて、楽しそうにあちこち飛び回っておられます」とは、永井さんの言葉だ。
ふるさと納税で町の外に仲間を作る
愛知県の寄付者からの相談を受け、地域の協力を得ながら対応した多気町。ここ数年でふるさと納税返礼事業者の数や返礼品数も一気に増加し、得られた寄付金を地域に還元している。地域の事業者との距離感が近いのは、多気町の大きな強みだ。事業者は困ったことがあったら、気軽に多気町役場に相談する。町役場も積極的に事業者の協力を仰ぎ、町の発展に力を入れているという。
多気町は人口1万4千人ほどの小規模な自治体(2021年1月1日時点)。青木さんがふるさと納税担当者になった当時、よく声にしていたのが「町民と同じ数のファンを町外に作ろう」という目標だった。
「町民と同じ人数の人が外から見守ってくれているならば、地域に課題があってもそんなに怖くなくなるじゃないですか。安心してみんなで解決すればいいと思うんです」(青木さん)
多気町の約1万4千人の人口に対し、2020年にふるさと納税を通して得られた寄付金は9億円以上。寄付者の数は累計で3万人にも上るという。これは単純計算すると町民1人に対して、町外に2人の仲間がいるということ。多気町役場ではこうした数字を発表するだけでなく、寄付者の存在や想いを町民にもっと理解してもらう必要性を感じている。
特に多気町が力を入れているのが、SNSなどインターネットを使った情報発信。行政や地域の自治体ではなかなか手が回らないという悩みを解消すべく、女子大学との連携をスタートさせた。東京都の昭和女子大学、兵庫県の武庫川女子大学が多気町応援プロジェクトに参加。女子学生が多気町のふるさと納税返礼品の商品レビューを手がけ、多気町の魅力を発信中だ。
町内外の協力を得ながら、多気町のふるさと納税はさらに魅力的になっていくのだろう。多気町のふるさと納税担当者である青木さんが、これからも大事にしていきたい想いがある。
「ふるさと納税は単なる通販の購買行動や消費活動ではないということですよね。ふるさと納税の寄付が、多気町の産業や経済、教育などの活性化につながっていっています。寄付者や地域の事業者の想いを受け止めて、その想いをしっかり形にしなければいけません。そういった良い循環の在り方として、ふるさと納税があるのではないでしょうか」(青木さん)
多気町のふるさと納税返礼品は、ふるさとチョイスに多数掲載中。ふるさと納税の楽しみは返礼品だけでなく、魅力ある地域を応援するサポーターになれること。ふるさとチョイスを通して、あなたの想いを受け止めてくれる自治体を見つけてみてはいかがだろう。