書評『地球上の中華料理店をめぐる冒険』(関卓中 講談社)
今まで50を超える国と地域を旅してきた。途中から面倒臭くなって数えるのはやめたので、正式な数はわからない。ぼくは基本、その国の人たちが日常に食べている食事をとる。日本的料理(敢えて和食とは呼ばない)の店は行かない。ただ、ごく稀に消去法の最後として中華料理店を選ぶことはある。どこの国にもあり、中華系の小売店を含めて、この地球には中国人がいない場所はないのではないかと思う。
例えば、フランス領ギアナ。ブラジルの上に三つ並んでいる、ほとんどの人にとっては名前さえ知らない国々だ。
九七年から八年に掛けて、南米大陸をバスと船で一周したときに、これらの国を訪れた。フランス領ギアナの首都カイエンヌには、東京と名の付いた小さなスーパーがあった。もちろん経営は中国人だ。隣りのスリナムの首都、パラマリボは街の中心にガンジーの像があり、中華系商店が軒を連ねていた。旧宗主国であるオランダの黒人選手の故郷であるため、黒人ばかりかと思っていたので拍子抜けした。
二〇〇八年にもうすぐ沈むというツバルに行った。『辺境遊記』で書いたように、実際のツバルはゴミだらけの島だった。環境に関心のある観光客を当て込んで繁盛した商店を経営していたのは中国人だった。
彼ら、彼女たちにはそれぞれの歴史があるはずだ。世界中に散らばる中国人について書けば間違いなく、面白い作品になるだろうなと朧気には感じていた。
『地球上の中華料理店をめぐる冒険』(講談社)は、その通りの本だ。
著者の関卓中は香港生まれ、シンガポール、香港、日本で育った。横浜インターナショナルスクールで高校時代を過ごしたという。その後、アメリカに渡りカリフォルニア大学バークレーで学んだ。英語、日本語、フランス語、広東語、北京語を操る「地球市民」である。
カナダから始まり、イスラエルのハイファ、トリニダード・トバコ、ケニア、モーリシャス、ケープタウン、マダガスカル、ノルウェーに根を張る中国人を訪ねて行く。ぼくが行ったことがある、イスタンブール、ハバナ、サンパウロ、ムンバイ、コルカタ、ブエノスアイレス、そしてリマも、だ。
関の描く辺境の中華料理は実に旨そうだ。中国人は一つの国、文化ではなく、多様であることを改めて感じた。
中国の偉人として知られる鄭和がイスラム教徒であったことは知らなかった。鄭和だけでなく、中国にイスラム教徒が少なくないという。
ペルーで一番多い料理店は「チーファ」——中華料理であることは知っていたが、ペルーの名物料理であるロモ・サルタードが中華料理を祖としていることは初耳だった。
唯一、不満だったのが、他の章で客家について詳しく触れているにも関わらず、サンパウロのリベルダージにある客家中心には言及がなかった。なぜ、どのような経緯なのか、知りたい。
日本版として最後に横浜、そして東京に触れている。北海園、久しぶりに行きたくなった。
旅の好きな人は必ず気に入る一冊。
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