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河原千恵子
2019年10月9日 17:01
(結婚して5年。二人で一緒にいるのに、どうしてこんなに淋しいのだろう)10月の空は、薄い雲におおわれている。ソファに横になった夫は、窓の遠くを見ている。夫の体はそこにあるが、心はどこか別の場所をさまよっている。ひそやかな淋しさが、少しずつ奈津子を浸蝕していく。ささやかな小川が長い年月をかけて地形を変えてしまうように、そのかすかな淋しさがいつかすっかり自分を作り変えてしまうのかもしれない
2019年10月16日 22:09
(同じマンションの住人・丘野と心温まる会話を交わし、ひととき心がなごんだ奈津子だが、家に帰ると現実が待っている)夕飯の買い物をして家に帰ると、夫はソファで本を読んでいた。「どこ行ってたの?」「プラネタリウム。市民センターにあるでしょ」朝、出るときは夫はまだ寝ていた。彼はいつも「起こされるよりはほうっておいてもらったほうがいい」と言うので、お昼の心配などはしなくてすむ。「そしたら、丘野
2019年10月17日 22:03
(楽しそうに帰る父子を見送ったその夜。けたたましいサイレンの音で、奈津子は目を覚ました)マンションの廊下が騒がしい。サイレンは、救急車1台というような音ではない。心臓が締め付けられるようないやな気持ちがした。奈津子はベッドに起き上がった。隣のベッドで、夫が目を覚ました気配がした。「騒がしいな」不快そうな声だった。「うちのマンションか」奈津子はベッドからすべりおりる。「奈津子?」「行