カメムシのカメ子 第25話 侵略者~  大事な約束。。。2/3

東岸が言ったいきなりの提案に増田もお父さんも耳を疑い一瞬言葉を失った。
今日丸男達をここに呼んだのは状況を整理する為に東岸からもう一度当時の状況を聞きたい、それも出来れば本人達から直接聞きたいとの申し入れがあったからだった。
お父さんとしては丸男達を呼んで話を聞くという事は一応は想定内な事であった。
だが一歩間違えば死んでいたかもしれないのだ。
それを思い出す作業はその時の恐怖がぶり返すかもしれない。
そう考えると丸男達を呼ぶのに若干の躊躇があった。
しかしどれだけ調べても進展のない状況ではもう一度話を整理する必要があるかも知れないと思い、話だけならと連れてきた次第だった。
今日ここに連れて来たのはあくまで詳細をもう一度確認する為で、話を聞くと言う事以外ないはずだった。
それが遺体とはいえ子供達を死の恐怖にあわせた一つ目に会わせるなんて到底了承できるわけはない。
一緒に聞いていた増田もお父さんと同じ考えの様であった。

「な、何を言ってるんですか東岸さん。 たとえ死んでるとしても今あれをこの子達を合わせるなんて・・・・」
「そうですよ。 私も反対です。 私はそのためにこの子達を連れてきたんじゃない。 ただ本人たちの口から事情を聞きたいという事だったじゃないですか。それに思った様な答えが得られなかったとしても・・・・」

増田は何を言ったらいいかまとまらずに取り敢えず思った事を口にしたという感じで、東岸の提案に意を唱えるというのは勿論だが呆気にとられたという感じだった。
その後にお父さんが激しく東岸に食ってかかり真正面から反対の意見をぶつけたが、そのお父さんの言葉を遮るようにして東岸は言った。

「その通りです。私もお子さんたちが侵略者と言っているあの得体のしれないものに、たとえ死んでるとはいえ、もう一度会わせようなんて思ってもいなかったです。ただこちらのカーメルさんが言った実際に会うという事が、もしかしたら今思い出せてない何かが思い出せるかもしれない」
「思い出せたからと言って何なんです。 この子達はあの時死んでいたかもしれないんですよ。そんな恐怖のトラウマを持っているのに、それが蘇りでもしたらどうするんですか」

二人は丸男達を死の恐怖に陥れた一つ目の侵略者に再び会わせるというのは断固として反対した。
勿論東岸にも二人が止めようとする気持ちもよく分かっていた。
しかし自身を侵略者だと名乗る一つ目の事を考えると一刻も早くどんな些細な情報でも欲しかった。
意見をぶつけ合えば合うほどその思いの方が強くなっていった。
「一刻も早く」それが今一番重要な事なんだとその思いを強くした。

「菱形さん。 あなたはこの調査の初めからいらっしゃったからわかるでしょう? あの侵略者は今回回収した二体の他にあと三体もいるんですよ。 この星を侵略しに来たというのが本当であればいなくなった三体はどんなふうに現れどんな手をつかってくるかわかりゃしない。宇宙からやって来たであろう侵略者と名乗る者がやることは我々の世界でおきるかもしれない核戦争がどうのっていうレベルじゃないかもしれないんです。 そう考えれば今いる二体の解明を急がなければいけないのがわかりませんか?」

確かに突然いなくなってしまった他の三体の事や今後の事を言われると東岸の考えにも一理あるなと思ったが、やはり丸男達を直接一つ目と対面させるというのは簡単にはうなづけなかった。

未確認飛行物体として扱われてきたカプセル、そしてその中から現れたという自分を侵略者と名のる化け物。
調査の初期の段階では五体だったのはお父さんもよく覚えていた。
それが突然いなくなった。
丸男達が聞いたこの星を我々の物とするという侵略行為。
それはこの地球上で行われてきた、ある国がある国に攻撃を仕掛けるというようなものとは明らかに違う物になるであろう。
この時お父さんにも何が最善かは答えは出せなかった。

結局、大人達三人の話し合いは平行線に終わり一つ目に会う会わないの判断は丸男達に委ねられた。
判断を委ねられた丸男ももしかしたらあの時の死の恐怖が蘇るかもしれない、いや、それよりカメ子にまたコロを殺された時の悲しみが蘇ればあの絶望の淵に逆戻りするかもしれない。

しかし、東岸が言った事を考えると何かの力になれるのであれば会った方がいいのではないかとも思った。
お父さん達や東岸の間で丸男はどうしたらいいのか頭を悩ませた。
カメ子とカーメルの二人に聞くとどうするかは丸男に決めて欲しいと言った。
カーメルは自分はどっちでもいいが大人達の話を聞いてると自分では決めかねると言い、カメ子の方は秘密の場所へ行く時に丸男の反対を押し切った事が気になっていて自分で判断したくないと言った。
一任される形となった丸男はどうするべきか迷ったが、今回はあの時とは違い一つ目は死んでいる。
それに大人も一緒にいる。
そして何よりカメ子とカーメルの二人が怖がっているのではないとわかったので一つ目の遺体との対面に了承する事にした。
増田とお父さんは最後まで反対の立場であったが最終的には丸男達の意見を尊重し渋々了承するという形になった。

僕達は今、冷たそうな扉の前に立っている。
このドアの向こうに一つ目がいる。
いるといっても遺体だけど、ここにあの一つ目がいる。
突然僕達の目の前に姿を現し、この星を我々の物すると宣言した後、コロを殺し、僕達をも殺そうとした一つ目が。
最後はどういう訳かカメ子の前で断末魔を上げ倒れピクリとも動かなくなった。
遺体とは言えこれから対面すると思うと、あの時の恐怖を思い出す。
正直怖くないといったらうそになる。
あの日から一週間ほどしかたってないのにずいぶん時間がたったような気がする。
それはきっとコロの死を実際の生活の中で受け入れたり、カメ子がカメ子じゃなくなった事や、学校での吾一やモロミとの微妙な関係の事とか様々な出来事が知らず知らずのうちに恐怖の記憶を頭の片隅の方へ追いやっていたのかもしれない。
自分でもわからないうちに記憶や感情が整理されてるのかもしれない。
きっと人はこうして新しく前を向いて行くものなのかも知れない。
だからといってあの恐怖の元凶にもう一度対面するなんて、こういう状況でなければ流石に無かったろうし、会うなんてことも思わなかっただろう。

「いいかい。怖くなったり何か異変を感じたりしたら遠慮なく言ってくれればいいからね。じゃあ開けるよ」

東岸はそう言うと一つ目の遺体がある部屋のドアを開けた。
部屋には大人の腰くらいの高さがあるテーブルがあった。
よく見るとそれは診察台であった。
診察台はクリアなガラスで覆われており中の物には手を触れる事ができない様になっていた。

「あの上に置かれてるのが一つ目ですか?」
「そうだよ。あれが君達が一つ目と言っている者だ」

診察台に寝かされていた一つ目は頭だけが丸く形を残しており、その体は中身がなく所謂皮だけの様だった。
皮といっても人間や動物のそれとまるで違っていた。

「これを見た人はこれが生き物だったなんて誰も思わないんだよ。実を言うと僕もそうなんだ。こうして見るとまるでレーシングスーツにヘルメットだ。君達の話を聞かなかったらこれが生き物だったなんて思わなかったよ。ただ不思議なのはこの頭もそうだけど体のどこにも隙間っていうか中を伺える所がないんだ。刃物で切れ目を入れようとしてもビクともしないし傷もつかないんだ」

確かにこの人型に置かれている状態の一つ目は東岸が言うレーシングスーツとヘルメットの様だった。
丸男にもその様に見えた。
しかしこの不気味な色の頭はあの一つ目に間違いない。
東岸は一つ目の遺体を見つめている丸男にこれが一つ目で間違いがないか聞いてきた。

「これです。これに間違いありません」

丸男と東岸の話してる隣でカーメルがカメ子に声をかけた。

「ちょっと待って。ねぇカメ子何か感じない?」
「うん。カーメルも感じてた?」
「もしかして・・・」

カーメルは不思議そうにクリアガラスで覆われている診察台に近づき中を確認した。
この時カーメルはピキピキと何かにヒビが入るような微かな音を感じた。

「みんな下がって。早く下がって」
「どうしたのカーメル?」
「いいから下がって。みんな下がって。早く」

すると同じ事を感じ取ったカメ子もクリアガラスの中にいる一つ目を制するようにその遺体に両手をかざすとその場の全員に向かって言った。

「生きてる。この一つ目はまだ死んでない」

カメ子とカーメルにしか感じられなかった微かな音は段々と大きくなっていき、やがて丸男や東岸達にも聞こえる様になっていた。

「なんだこの音は・・・・もしかして、あ、あれか?」

音の正体に気づいた増田が診察台を指差した。
そして皆が見つめている中、診察台の上を覆っていたクリアガラス全体にヒビが入ると一瞬で砕け散った。

「逃げて! 早くみんな逃げて!」

一つ目の前でカメ子の絶叫が響き渡った。


#創作大賞2023

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