カメムシのカメ子 第41話 侵略者~ 一つ目ベータ。。。5/8
「こうやると開くんだ」
ベータがカプセルの中心に手をかざすとかざした辺りが淡く光り出した。
すると光り出したところを中心に光の筋が上下へ伸びそれぞれが上部下部に達するとカプセルは音も無くゆっくりと左右に開いた。
カプセルは閉じている状態だと切れ目や継ぎ目の様な物は全く見当たらず前後左右はおろか上下さえもわからないというのが見た目の印象で何の情報も無ければこのカプセルが乗り物であるという事がわかる者はいないであろう。
しかし開いた状態のカプセルを見るとその構造が理解できた。
つくり自体はシンプルで大きな楕円形の箱を二つ付け合わせた作りになっており、その後側半分は人がすっぽりと収まる空間になっており、前半分だけが開く所謂観音扉きの作りになっていた。
「こっちのを開ける事はできないの?」
東岸はもう一つ、今は閉じてしまっているカプセルを見ながら言った。
「そっちはジーク様のカプセルだからおいらじゃ開けられないよ」
そう言うとベータはほら、とジークのカプセルに自分のカプセルを開けた時と同じ様に手をかざして見せた。
何の反応もしないジークのカプセルを見ながら、ベータはカプセルは一人に一つづあてがわれその操作はあてがわれた本人にしかできないんだと説明した。
「じゃあ逆にジークやドールが君のカプセルを開けようとしても開ける事はできないのかい?」
「それはおいらもわからない。 でもドール様だったら開けられると思う。だってこれはドール様が作ったものだから」
東岸との話の途中、ベータのカプセルは制御装置が働きその扉がゆっくりと閉まっていった。
その時突然館内に緊急を知らせる非常ベルが鳴り響いた。
「どうしたんでしょう?」
「なんだろうな。 増田君確認してみてくれ」
増田が内線で確認すると研究所に向けて未確認飛行物体が二つ飛ばされて来た事がわかった。
そしてその二つは研究所の入り口付近に落ち今警備の人間が確認に向かってるという事だった。
「ドール様だ、ドール様が誰かをこっちに向かわせたんだ」
ベータの顔が青ざめた。
「一つ目がやって来たって事?」
カーメルの口から一つ目という言葉が出るとカメ子の顔つきが変わった。
「東岸さん。すぐにその警備の人達を止めて」
カメ子は東岸にそう言った後、ベータになぜドールがこちらに人を向かわせるのか思い当たる事はないか聞いた。
「わからない。わからないよおいらには」
脅えるベータにカーメルも強い口調で問い詰める様に聞いた。
「わからないじゃないわよ。すぐそこに来てるんだから。ドールは何か言ってなかったの?」
カーメルに迫られ更に脅えたベータだったが何かを思い出した様だった。
「そうだジーク様だ。ジーク様の遺体だ。ドール様はジーク様の遺体を調べればなぜジーク様が死んだのかわかるって言ってた」
一つ目の目的がジークの遺体の回収に来たのだとわかると、東岸は一も二も無く走り出した。
「あ、東岸さん、待ってください。一人で行ったりしたら何があるかわかりませんよ。東岸さん!」
増田は慌てて止めたが、その声は東岸には届かなかった。
「増田さん大丈夫よ。私達も一緒に行くから」
そう言ったあとカーメルは脅えているベータの事を気にかけているカメ子に先に行ってるからと声をかけ増田と共に東岸を追った。
「大丈夫よベータ。 あなたは丸男と一緒にここに残ってるといいわ。 丸男、ベータの事お願い」
「うん。任せといて。カメ子も気をつけてね」
丸男の父菱形角児も丸男とベータにここにいれば安心だと言うとカメ子と一緒に出て行った。
二人きりになった丸男はなんとか脅えるベータを励まそうと何度も大丈夫だよと言ってみたが、ベータの脅えは丸男の思った以上だった。
「きっとジーク様の遺体を回収しに来ただけじゃなくおいらの事も殺しに来たんだ。 おいら恐いよ」
「そ、そんな。だってベータだって同じ一つ目の仲間じゃないか。いくらなんでも殺しに来るなんて・・・」
言い終える前にベータが大きな声で被せる様に言った。
「おいらはドール様の命令に背いたんだ。そんな奴をドール様が許して置くはずがないよ」
”許して置くはずがない” その言葉を聞いて丸男はジークの最後の時を思い出した。
確かに自分の思いを遂げるまでの執念は凄まじいものがあった。
あの執念はきっと仲間であろうと邪魔だてする者や言う事を聞かない者に対して容赦はないのだろう。
ここまで脅えるベータを見るときっとドールもジークと同じかそれ以上のものがあるのかもしれない。
この時丸男は自分自身も一つ目の恐怖に脅えていた事を思い出していた。
そしてあの時どうしてあの恐怖から抜け出すことが出来たのかも考えていた。
「なあ丸男、一つ聞いていいか?」
「なに?」
「はじめに到着した場所でジーク様とカメ子が戦っていたとき一度はみんなで逃げたのになんで戻って来たんだ?」
「なんでって、カメ子が一人で戦ってるのに自分だけ隠れてるわけにはいかないと思ったんだよ」
「もしかしたら殺されるかもしれないんだぞ。それにあのまま逃げたって誰も何も言わないよ」
”殺されるかもしれない” その言葉を発する時ベータの声の調子は上がっていた。
それはやはり死の恐怖がちらついてるせいなのだろうと丸男は思った。
今のベータにどんな事を言ってもなんの助けにはならないのかも知れない。
しかし丸男はこうして質問に答えていくことでベータの心を支配している死の恐怖から抜け出すための答えが見つけられる様な気がした。
「確かにそれはそうかも知れないけど、あの時はそんな事は考えてなかったよ」
「そうかぁ。おいらにはよくわからないけど凄いなぁ丸男は」
「凄くなんかないよ。 ベータだってそういう場面にあえばきっと同じ事するよ」「いや、おいらだったら怖くって動けないよ。今だって怖くて仕方ないのに」
”今だって怖くて仕方がない” 丸男にはそう言うベータが少しおどけてる様にも見えた。
もしかしたらこうして話を聞いてあげてる事でほんの少しでも気持ちを落ち着かせてることが出来てるならいいなと思った。
丸男はそんなベータに自分からも聞きたいことあるんだと真剣な顔でベータを見つめた。
「ねぇ、ベータはこれからどうするつもりなの?」
「どうするつもりって、もうドール様の元には帰れないし、かといってこのカプセルでは宇宙に飛んでいくことなんてできないし・・・・」
「ならうちへおいでよ」
「えっ、丸男のうちへ? いいのかい?」
「うん。カメ子もカメムシの世界からやって来てからずっとうちにいるんだよ」
「でもおいらこんな姿だし丸男の家に行ってもきっと迷惑がられるんじゃないか」
「そんなことないよ。さっきまでいたのが僕のお父さんでお母さんは家にいるけどそんな事思わないよ。きっとわかってくれるよ」
「本当かい? 本当ならおいらも嬉しいよ」
じゃあ決まりだねと言う丸男に対しありがとうと返すベータの顔は照れているように見えた。
ベータの顔には大きな目が一つあるだけなので顔に現れる表情から気持ちを察するのは難しいはずなのに丸男はベータと話しているとその気持ちを察する事ができた。
自分でもそんな風に感じることが不思議だったがきっと少しずつベータと心が通じ合って来たからだろうと思う事にした。
そして丸男はおもむろに立ち上がると、じゃあよろしくとベータの前に手を差し出した。
ベータは座ったまま差し出されたその手を優しく握りしめた。
丸男にはこの時もベータの顔が照れている様に見えた。
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