カメムシのカメ子 第42話 侵略者~  一つ目ベータ。。。6/8

カーメルと増田がジークの遺体の部屋へ来るとジークの遺体の前で呆然としている一つ目がいた。

「まさか、これがジーク様なのか?」
「そうよ」

カーメルがその後ろ姿に声を掛けると一つ目はゆっくりと振り返った。

「誰だ貴様は?」
「あたしはカーメル。カメムシのカーメルよ」
「貴様がジーク様をこの様な姿にしたのか?」
「そうよ。あたしがやったの」
「そうか。なら話が早い。我々の調べたところではこの星のどのような武器をもってしてもジーク様に危害を加える事はできん。それどころかそのお体に傷一つでもつけれる事など出来ない事はわかっている。ならばなぜジーク様はこんなお姿になってしまったのか。我々の知りたい事はそれだけだ。貴様はどんな術を使ってジーク様程のお方をこの様な姿にしたのだ。答えろ!」
「答えろってずいぶん偉そうね。でもね、はいそうですかなんて簡単に教えられるわけないでしょ」

カーメルは余裕をみせようと軽口をたたく様に言った。
それは一つ目を目の前にした自身の恐怖心を払うのと同時に気持ちを戦闘態勢に切り替える為でもあった。
その後ろで増田が何かが始まる気配を感じたのか一歩二歩と後ずさりし始めた。

「そうか。では力ずくで聞くまでだ」
「力ずくってあなたそのジークを見てなんとも思わないの?」
「もちろん。俺も貴様がどんな術を使うのかわからんうちは慎重にいくさ。ただ一つだけはっきりしてる事がある。 ようは・・・」

そこまで言うと一つ目はその顔に一つしか無い大きな目を細めニヤリと笑うかのようにゆっくりとそして自信たっぷりに言った。

「貴様に近づかなければ良いのだろう?」

カーメルがその自信ありげな一つ目の言葉がなんなのか考えていると、一つ目はもの凄い速さでカーメルの後ろにいる増田の背後に立った。
そしてその首に腕を回すとどうだと言わんばかりな態度でカーメルを睨んだ。
その勝ち誇るような一つ目にカーメルは唖然とした。
ベータの話ではドールとジークだけが別格でその他の一つ目の能力はそれほどでもないと聞かされていたので正直この一つ目の動きの速さは想定外の事だった。
もしかしたらジークやドール以外の一つ目達は能力は低いのかもしれないがこの動きの速さを武器としているのかもしれない。
しかし今ここでその速さについて行けないことを悟られてはまずいと思ったカーメルはなるべく普通を装うようにした。

「偉そうなこと言って人質とるの? あたしに向かって来るのかと思ったわ。そんな卑怯なことしないであたしに直接向かってきたらどう?」
「そんな挑発にはのらんよ。 それよりこいつは貴様の様な術が使えないから少しでも距離をとろうと下がっていったんだろう? そうなるとこの星の奴らは貴様の様に何か特別な術を使えるものとそうでない者がいるという事だな。 どうだ俺の推理に間違いはないだろう?」
「どうかしらね。ま、中々いい推理ではあるって事だけは言っとくわ。でもちょっと詰めが甘いわね」
「なに?」

一つ目が振り向くとそこには遅れてやって来たカメ子がその動きを制するように両手をかざし立っていた。

「ほう。もう一人いたのか。何人いるのだ? 全員でかかって来い」

”もう一人” その言葉でカメ子もカーメルもこの研究所へ飛んで来たカプセルの数は二つだったのを思い出した。
もしかしたらどこかからか狙っているのかもしれない。
カーメルは目の前の一つ目から目を離さないで見える範囲を気にしながら言った。

「確かここに飛んできたカプセルは二つ。あなたの他にもう一人いるはずよね? ねぇもう一人はどのにいるの?」

すると一つ目は冷淡な口調で答えた。

「俺達の目的はジーク様の遺体の回収。それとドール様の命令に背いた者の処刑だ」
「命令に背いた者ってベータのこと?」
「そうだ。 我々には敵前逃亡するような奴など必要無い。 それに今ごろはもう一人の刺客がベータを探して出して始末している事だろう」

カメ子は二人来たうちの一人がベータを探すために別行動をしていると聞くと、目の前の一つ目の動きを制するように出していた両手をだらりと下げた。
そしてその場で呆然とした。

「どうしたのカメ子?」
「丸男もいるの。丸男もベータと一緒にいるの」
「ほう。それではそいつも一緒に始末されている事だろう。 残念だが詰めが甘いのは貴様たちの方のだったな」

そう言うと一つ目は不気味に目を輝かせ増田の首に回した腕に力を入れた。

「た、助けて」

首を絞められた増田が苦しそうな声を出す。
一つ目はカーメルとカメ子との間合いを図ろうと少しずつだがすり足で慎重に移動しようとしていた。

「動かないで」

カーメルがそう言うと一つ目は動きを止めたが、さらにその腕に力を入れた。
この時増田は言葉を発することが出来ず苦しそうに呻くだけであった。
そこへカメ子より少し遅れて来た菱形が呆然とするカメ子に言った。

「カメちゃん。今はこいつを倒して増田さんを助ける事だけを考えるんだ。丸男の所には私が行く」
「お父さん」

不安な思いが口をつくカメ子。

「大丈夫だよ。 丸男だってそう簡単にやられやしないよ。それにベータだっているんだし。カメちゃん達はこいつを倒してから来てくれ」

そう言い残し菱形は丸男の所に向かった。
目の前にいる一つ目の言う事が本当なら丸男はもうベータと共に殺されてるかも知れない。
例え生きてるとしても菱形が向かったところでどうにもならないのは明らかだった。
そう思うとカメ子は怒りに震えた。

「許さない。丸男に何かあったら絶対に許さない。お父さんに何かあったら絶対に許さない」
「ほう。どう許さないというのだ。早く見せてみろ」

一つ目は増田を捕らえた時のスピードにカーメルがついてこれなかったのを見て速さでは自分の方が勝っていると確信していた。
後は二人のどちらかを挑発し、ジークを倒した術を出させればいいと考えていた。
ここへ来た一番の目的はジークの遺体の回収ではあったが、それはジークを倒した者がどのような術やどのような武器を使って倒したのかを調べる為だったので、ここまできたら遺体の回収ではなく二人のうちどちらかがその術を見せてくれるだけで良かった。
それをその目に焼き付けカメ子やカーメルにも勝ってるスピードでこの場から逃れたのち、それをドールに報告すれば目的の達成になるからだった。

「さあどうした」
「見せてあげるわ」

そう言うとカメ子は一つ目に向かって両手をかざした。
一つ目は増田を盾代わりにしてカメ子からの攻撃を待った。
この時カメ子は自分の出す力が増田にどの程度影響を与えるか考えた。
人間である増田は一つ目ほどではないにしろ自分が本気で力を出すとなにがしかの影響があるかもしれない。
そう考えるとどの程度の力を出せばよいのか迷いがあった。
一つ目はそんな戸惑いをみせるカメ子を興奮した様子で挑発してきた。

「どうした!何をしているのだ! こいつを助けたくはないのか!早くしろ!」

一つ目に挑発されるカメ子を見てカーメルもこの状況で増田の安全を確保するのはどうしたらよいのか考えていたが正面からいくしかないと考えがまとまるとカメ子に向かって叫んだ。

「増田さんはあたしがなんとかするからカメ子は一つ目を倒す事だけを考えて」

カーメルの声を聞き気持ちが固まったカメ子は無言で大きく頷いた。
その二人のやり取りを見てカメ子からの攻撃に備える為にさらに身構えた一つ目。そこへカメ子はかざした手に力を入れた。
一つ目は自分に向けられたその手が何を意味するのか分からず一瞬戸惑った。
が、次の瞬間一つ目は突然悲鳴にも似た叫び声をあげ苦しみ始めた。
それは自身が逃げる為に人質として捕らえていた増田を突き放す程耐え難いものだった。
一つ目は増田を突き放すと同時に膝から崩れ落ちその体にまとわりついた目に見えない何かを剥ぎ取ろうと必死でもがいたがやがて断末魔の叫びをあげると立ち膝のまま天を仰ぐように後ろへ倒れるとその目を閉じた。
そしてそのまま一つ目はぴくりとも動かなかった。



#創作大賞2023

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