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ポイントカードは結局スタンプ式がいい

去年は私の名字や住所が変わり、今年は父が他界。二年連続で慌ただしく各種変更手続きに追われた。光熱費や保険などはしょうがないにしても、特に面倒に思ったのは、ポイントカード。

スーパーやドラッグストア、ホームセンターにコンビニなどなど、最近のポイントカードにはクレジットカードの機能やチャージ機能がついている。そういう便利そうなカードには個人情報が登録されているわけで。

おかげで各店舗のサービスカウンターを訪れては、事情を話して変更や解約の手続きをしなければならない。

この事情を話すのが、わりとつらい。特に父のこと。まだ日が浅いときに「父が先日他界致しまして……」と言葉にしなければならないから。

それにひとつ解約するたびに、父の生きた痕跡が街から消えていくようで、しんどい。

カード自体も、チャージタイプは店に返すし、クレジットカードの機能がついたものは切り刻まなければならない。

だけどのちのち父宛の郵便物が届くのも、それはそれでつらいから、解約手続きは今のうちにやっておかなければならない。年会費が発生するものは特に。

でもまあ、私のはだいぶ前に行きつけ以外のカードを処分していたし、父もクレジットカードは持っていたものの一切利用はしていなかったから、比較的少ない手間で済んだとは思う。

  *

葬儀が終わって、ひととおり体調を崩して、急ぎの契約変更を済ませて、ようやく行きつけの美容院で髪を切ってもらったときのこと。

会計時に親しい美容師さんから「ポイントカードある?」と聞かれ、「ありまーす」と財布から出して、気づく。

そういえばここのポイントカードは、昔ながらの紙製のカードで、スタンプを押していくタイプのものだ。何十個かたまると割引券として使えるのだが――

懐かしさとともに、すごく、安らぎを覚えた。私が子供の頃、商店街のポイントカードは皆このタイプだった。当時はこの分厚いカードを何枚も持つと財布がキツくなって嫌だったけど。

今となっては結局のところ、ポイントカードは昔ながらのこのタイプが楽だ。もともと店側に名前や住所を登録しているわけではないから、変更になったとて、なんら影響はない。家族が他界してもカードを捨てるだけで済むし、そのまま手元にとっておいたっていい。

それにスタンプがたまっていくのを見るのは、スタンプラリーやラジオ体操のカードのようで、ちょっと楽しい。

逆に現代の便利なカードは、残金やポイントを確認するのに、機械やらレシートやらを経由しないとわからない。

ここでふと考える。私はここ数年、口座引き落としのものはなるべくクレジットカードを利用するように切り替えていた。一枚のクレジットカードに集中させて、稼いだポイントを支払いに当てれば、出費が抑えられるから。

だけどこれって、私が死んだとき、月額課金制のものとかどうなるんだろうか。口座は凍結されるから引き落としはかからない。でも利用を止めない限り請求はされるだろう。

父の場合は通帳を見れば、どこと関わっていたかがわかる。でも私の場合は通帳だけではわからず、クレジットカードの利用明細を見なければならない。そしてオンライン関係がほとんど。

私は「黒革の手帖」と称したただのミニノートに、「有事の際はよろしく」と書いて、各種アカウント名やパスワードをすべて記載している。

とは言え、万が一、親不孝で母より先に逝った場合、こんなオンライン関係の事後処理など母にはお手上げである。

――そういや前に持病絡みでうっかり死にかけ、その後無事復活できたとき、病室のベッドで慌てて月額課金していたものを解除した覚えがある。あのときは本当に「あ、私、死んだわ」と思ったから。意識が戻ったとて、こりゃいつまた死にかけるかわからんぞと「立つ鳥跡を濁さず」を心がけたものだった。

現代は日常を便利にはしてくれているが、いざというときには面倒なことこの上ない。

ポイントのためにあれこれクレジットカードへ集中させるのはやめようか、とさえ思ってしまう。人はいつ死ぬかわからない。父だって今年死ぬ予定じゃなかったはずだ。

かと言って毎日死後のことを考えて暮らすのもどうかと思う。とりあえず、あまり手に負えないシステムには手を出さないでおこう。

母は今回の後始末に相当辟易したらしく、年に一度の自動車税なんかは自動振り込みにしないで手で支払おう、口座も利用が少ないところは閉じよう、と決めたようだ。

  *

父のポイントカードをいくつも解約し、父の生きた痕跡を街から消してしまった罪悪感を抱いていたけれど。

よくよく周りに目を向けてみたら、地元にはいっぱい、父の仕事の証が存在していた。小学校、お寺、道端などあちこちに。父は物作りに長けていたから。

店で買い物してたまったポイントよりも、これらの方が魂を感じて父らしい。

父の生きた証は、ここにちゃんとのこされている。そのことに、気づけて良かった。


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