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歯の治療中に宇宙の真理を試す

私のこれまでの人生は、とかく激痛に襲われることが多かった。腹痛のように体内から突然、ということもあれば、治療や処置のため押さえつけられ耐える、というパターンもある。どちらも鎮痛剤を飲むひまもない状況だし、なんとかして今すぐ痛みを消し去りたい。

それ故、自分の意識でもって痛みをコントロールできないものかと、あれこれ試してきた。

最近興味を持ったのは、量子力学などの分野で、この世に存在するすべてのものは粒子でできている云々、という話。宇宙の真理とも言えるこのツブツブ情報でもって、激痛回避実験を試みたい。

  *

私の体調はここ数年すこぶる良く、激痛に襲われることも滅多になかったが、たまたま歯の詰め物が取れたことで歯科通いすることに。ついでに虫歯の治療もしてもらうことになり、絶好の実験機会が到来した。

麻酔をされての治療だったが、神経に近かったせいか、途中からキーンという痛みに襲われた。焦りつつも、すぐに実験に取りかかる。

私は粒子……私は粒子……。すべてのものは粒子である。私の体も、治療の器具も、すべて粒子。それがほぐれて、形を失って――
宇宙空間をイメージしながら心の中で唱える。

……痛い。

それから、粒子は振動していて、だからそれぞれに固有の周波数や波動があって。外科治療みたいなのは強烈な波動の乱れを起こして――

いぃ……痛い。

だからこの歯の治療も、きっとものすごい振動と波動の乱れがあるわけで、その乱れを穏やかに整えるイメージでもって、この痛みを和らげ……和ら……痛いぃぃ!

歯科医が手を止めた。
「……痛いですか?」
どうやら私は、かなりのしかめっ面をしていたらしい。

「ええと……」
痛いっていうか、痛いけど、でも宇宙の真理を試してて、もう少し練度を上げればもしかしたら痛みが消え――

「麻酔増やしましょうか?」
「えっ」

麻酔を増やす? そんな簡単な方法があったとは。いや、でも、私は宇宙の真理を……

「……お願いします」

人間とは弱い生き物である。

何年か前、母から「あんだは我慢強いねえ、よくそんな痛いの我慢できるねえ」と感心されたことがあったが、我慢強いのではなく、我慢しなくてもいいということに気づかなかっただけかもしれない。


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