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初対面の人と放置されたときにすること

初対面の方と二人きりになると、何を話すべきか、あるいは何も話さないべきか、間が持たずに悩むことがある。いつまで続くかわからない、二人きりの時間。――気まずい。

こういう場合私は、せっかくだから「取材」をすることにしている。その方は私の知らない人生や職業を経験しているはずだから。

「そうだ取材しよう」と思いついたのは、たしか前に勤めていた会社で、外部から監査員を招いたときのこと。監査がすべて終わり、帰りのタクシーが来るまでの待ち時間、私と監査員のおじさまが二人きりになったのだ。

――重い沈黙。
た……耐えられない……

私は意を決して聞いてみることにした。

「監査員になるには、現場での経験は必要ですか? 例えば工場を監査するなら、実際に工場で働いた経験がないとなれないのでしょうか?」

監査員になりたくて聞いているのではない。
もしかしたらいつか監査員の小説を書くかも知れないし、という下心からの質問である。

すると監査員のおじさまの表情がぱっと明るくなった。そこからはおじさまがしゃべるしゃべる。おかげで私の最初の疑問は解消されたし、話を聞きながら新たな疑問が湧けば、また質問した。

間が持たないという不安はどこへやら。タクシーが来るまでの間、話に花が咲いた。「小説に書くための取材」と思えば、むしろ時間は足りないくらいである。

これは初対面の人だけでなく、苦手な人と放置されたときにも使える。自分が話して頑張るよりも、相手に得意なことを語らせた方が楽だから。

「苦手」とか「怖い」というのは、よく知らないが故に生まれる感情ということもある。苦手な相手と思っていても、案外これがきっかけで親しくなるかもしれない。

人には沿うて見よ、である。


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