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鋭いくせに、答えにたどり着かない残念な嗅覚

「感覚の牡牛座」とも呼ばれる牡牛座は五感に優れ、私も例に漏れず、仲間内では感覚が敏感な方に分類される。視力がショボショボなので五感ではなく四感ではあるが、嗅覚に関しては自分でも時々竈門炭治郎かと思う。

子供の頃、家へと続く道の途中で作りかけの夕飯の匂いを察知した、なんてのはまだ序の口で。忘れっぽい元姑と同居していた頃は、二間向こうの台所の火つけっぱなしのにおい、お湯出しっぱなしのにおいがわかるほど進化していた。

私の嗅覚は職場でも役立った。二十代の頃勤めていた生協は、無農薬、減農薬、有機栽培の野菜や、アレルゲンフリーの食品を扱い、食育や環境問題にも熱心に取り組むところだった。毎日のように商品サンプルを試食し、その日は水産担当さんが用意した魚の天ぷら。同僚たちが「うん、味はまあまあじゃない?」と言っている中、
「なんかプールのにおいがする」
そんな感想を言ったのは私だけだった。

外国から来たその魚のルートをよくよく確認してみたら、出荷時に塩素消毒していたことが判明。私が感じた「プールのにおい」はそれだったらしい。販売する前に気づいて良かったと大変感謝されたが、まだ経験の浅い私一人の「プールのにおいがする」という言葉を信じてくれた水産担当さんも素晴らしいと思う。

ちなみに都会暮らしを始めて間もない頃、私はスーパーで買ったきゅうりを味見して吐き出している。すっごい薬臭くて食べられなかった。だから日々の食材は、勤め先の生協で買いそろえることに。こだわりの生協で助かったと思いながら、そういえば実家でも無農薬野菜だったと思い出し、私って素晴らしい食生活で育てられたのだなあと思い知った。

塩素消毒判明などは好プレーだったが、そうじゃないときもある。

ある朝、同僚の男性から漂ってきた香りに、
「〇〇さん、先輩(女性)の部屋と同じにおいがするね」
と何気なく言ってしまったのだが、実は当時、二人は内緒で付き合っていたという。

「あのとき和珪ちゃんの一言さー! マジビビったわ!」
職場で結婚報告をした二人に言われて初めて、あのとき自分が早まった発言をしたことに気づいた。

同期の子にも、あきれられた。
「私もあのときの和珪ちゃんの言葉で、あ、付き合ってんだなーって思ったけど、微妙な空気になったから気づかないフリした」
私はその微妙な空気にさえ気づかなかった(本当すみません)。

鋭いくせに答えにたどりつかない、残念な嗅覚である。

  *

父がいた頃――
冬の脱衣所に入ったときの匂いが好きだった。

先に入浴を済ませた父の匂いと、お湯の匂い。それにヒーターの点火、消化の匂いがまじったもの。これが私にとっての、大好きな冬の匂いだった。

次の冬からは、もう同じ匂いはしない。今日も父の匂いが足りない、と毎晩思うのだろう。嗅覚が鋭いのも、良し悪しである。


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