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夢中で書いたものほど、書いたときの記憶がない

私の記憶では、初めて書いた小説はたしか、20代中頃か後半だったと思う。

子供の頃、「将来なるなら、マンガ家か小説家のどっちかだなぁ」などとえらそうに思っていて、「絵描き期」と「物書き期」を交互に繰り返していた。とはいえ、どちらかというと「絵描き期」の方が多く、専門学校でPhotoshopに出会ってからはさらに加速した。

だから小説家への憧れはあったものの、学生の頃、実際に小説を書き上げたという記憶はなかった。

――という話をしたとき、同郷の親友であり、「和楽風天わらくふうてん」の相方でもあるはじめ☆から、衝撃的なことを言われた。

「はあー? 何言っちゃってんの? 中学の頃、ワープロで小説書いてオレに渡してきたじゃん」

ドヤ顔で言い放つ親友。
そんなわけない。

「はあー? 私、中学の頃小説なんて書いてませんけどー? マンガと勘違いしてなーい? お互いノートに描いて交換してたやつとさー」

あの頃私たちは交換日記ならぬ交換マンガを描いていた。はじめ☆は才能があったと思う。私をモデルにしたギャグマンガは、今でもふと思い出してはくつくつと笑ってしまう。

「え、和珪わけいちゃんマジで覚えてないの?」
「覚えてないも何も、その当時小説は書いてません!」
「いやいや。書いてたよ。 『〇〇〇〇』っていうタイトルでさ。ホッチキスで綴じてオレに渡してたじゃ――」
「ぎゃああああああああ!!!!!」

一瞬で何かが蘇った。

そのタイトルには、たしかに覚えがある。
しかし何を書いたかはまるで覚えていない。

「しょうがないよね、呼吸だもん。和珪ちゃんが覚えてなくてあたりまえだよね」
はじめ☆は私の生態のことを「書呼吸かこきゅう」と呼んでいる。

「あとギリシャ神話のまとめみたいなのも束で渡されたよ」
「本当ごめんなさいいいいいい!!!」
それは覚えている。
ギリシャ神話が大好きで、図書室にあったギリシャ神話の本をまとめたのだ。

「小説、今でも持ってるよ」
「えっ、読みたいかも! 私何書いたんだろ」
「えーと、たしかこのへんに……」
「ワクワク」
「……あれ? あれ?」
「どうした」
「あー……。ないね」
「ちょっとぉおおおお!」

何を書いたかまったく覚えていないが、楽しい中学時代だったことは間違いない。

無我夢中で書いたものというのは、無我というだねあって、記憶があまり残らないようで。今でも執筆中の小説を読み返していると、
「……これ、誰が書いたんだろ」
とつぶやくことが時々ある。


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