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「アダマン号」の乗り方

ベルリン国際映画祭で最高賞をとった映画「アダマン号に乗って」
今週、NHKのニュース「ゆう5時」で企画を作りました。来週月曜までNHKプラスで見られるからぜひ。
(下のリンクで、企画の冒頭から見られます)

企画を作るくらいだから、もちろん多くの人に見てほしいんだけど、この映画はちょっと変わった映画。ドキュメンタリーだけど説明はほとんどない。ナレーションも名前のテロップも。
基本的に、何も「事件」は起きないし、淡々と時間は過ぎていく。
いわゆる「社会派」ドキュメンタリーを期待した人は裏切られた気持ちになるかもしれないし、疲れている時に見たら、かなりの確率で睡魔に襲われるかもしれない。

ニコラ・フィリベール監督の映画はいつもそんな感じ。最初はとっつきにくく、でもそこを乗り越えると笑、後半ぐんぐん面白くなってくる。

(もしできるなら、Amazonで見られる過去作「人生、ただいま修行中」で予習してもいいかも)


「取り説」じゃないけれど、彼の映画を楽しむにはコツがいる。一番はストーリーの展開やメッセージを求めてはいけない、ということ。本当に「アダマン号に乗るつもり」で見るのがおすすめです。誰か友人に連れられて、見知らぬ場所にやってきた。そんなつもりで、眺めてみましょう。

何人かの登場人物が出てきます。その中にはきっと「ちょっと気になる人」がいるはず。まずは、その人をマークしましょう。きっと中盤にはその人ののインタビューがあり、その人がどういう人で、どんなことを考えているのか、ゆっくりとわかってきます。
ぼんやりとしていた輪郭が、徐々にはっきりしてくるのです。
それはまるで転校や引っ越しをした時のように。

初めての街に立った時、すべてはよそよそしく見える。道も人も店も、皆同じに見えて何の手がかりもない。道の真ん中で、途方に暮れる。
でも。少し経つと風景が変わって見えてくる。知ってる道ができて、会釈する人ができて、馴染みの店もできる。

よそよそしかった街は、自分が知っているどこかの街に似ているように見える。そんな時、僕らの距離は近づいている。

ニコラ・フィリベール監督はインタビューで話してくれました。

「私は誰かに何かを教えるためにドキュメンタリーを撮るのではない」

「私が無知であること、そこから映画作りが始まる。私たちが生きている世界をもっと知りたい。そのために他者と出会いたいのです」

「アダマン号に乗って」、そしてニコラ・フィリベール監督の全ての映画は、その「出会いの過程」を追体験する為の映画です。
監督がアダマン号の人たちと出会って、刺激を受けて色々なことを感じた。
そのプロセスを見る人に共有してもらい、自分と同じようにわくわくしてほしいと監督は考えている。
それは受け身では難しいこと。だから、できるだけ心の扉の開いた状態で、映画館に足を運んでほしいと思います。

(見る人に、そんなことを要求する映画なんて、他にはないですよね)


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