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更新のための9つのステップを超えて:ハンドルを再び握るまでの道のり①

「ああ、そういえば、自分はいつかまた運転できるようになるのだろうか。。」

倒れてからちょうど1ヶ月後に、妻から「免許更新のお知らせが届いたよ」と言われた時に思ったことです。当時の私は、まだ一人でトイレに行くさえ困難な状況でした。

もともと僕は車(およびバイクが)好きで、まだ急性期の聖路加の病院のベッドの上にいたころから、webCGなどの車ニュースサイトを見ていました。

そんな中で、ふと思いました。自分は運転できるんだっけ?ということ。さらに言うと:

右足が動かないなかで、どうやってアクセルを踏むんだっけ?
右手が動かないなかで、どうやってハンドルを握るんだっけ?どうやってウインカーを出すのだっけ?
というか、この手持ちの免許は、果たして更新できるのだっけ?どういう条件が付くのだろうか?

などなど、さまざまな疑問があります。

というわけで、今回は、脳卒中になった僕が、どうやって免許の復活を行ったのかをお話したいと思います。4回に分けてお送りします。

1回目は、免許の復帰に当たってなにが必要なのかという準備編をお届けします。回復期の病院でのドライビングシミュレーターによる支援や、国立障害者リハビリセンターでの実車評価など、聞いたこともないトレーニングが含まれます。

2回目は、いよいよ免許センターでの更新です。私の場合、東京都の江東試験場です。ここで失敗すると、もう2度と免許を取れなくなるのでは?というハラハラしながらのやり取りです。

3回目は、自分の車の改造編です。右麻痺の僕がどうやってアクセルを踏むのか?など、施した改造をお伝えします。

最後の4回目は、僕がこれまで受けた、自動車関係の公的支援についてです。自治体でやっているものもあれば、警察でのものもありとバラバラなので、僕が受けているものを一覧でお見せしたいと思います。

脳卒中後、初めての免許の更新ステップ

さて自動車の更新ですが、ざっくり言って、以下のような手続きとなります。あくまでも、僕の例です:

  1. 最寄りの警察にて、脳卒中用の診断書をもらう

  2. 診断書に見解もらうため、普段通っている病院にてサポートしてもらう

  3. 国立障害者リハビリテーションセンターにて、実車評価を行う

  4. 病院にて、診断書を作ってもらう

  5. 免許センターにて、6ヶ月の失効+一定の病気であるとの申告の上、診断書を添えて申告

  6. 面談と適性検査を行う

  7. 免許条件の確認

  8. 普通の免許の更新手続き(写真撮影、更新時研修など)

  9. めちゃくちゃ条件付きの免許を発行

いままでの更新は、8だけをやればいいので、いかに大変かが伝わるかと思います。では、順を追って見ていきましょう。


警察署で診断書をもらう。

これは最寄りの警察署でもらうことができるものです。

これは、 脳卒中をやった人が必要になる書類です。
僕の場合は、最寄りの月島警察署に取りに行きました。 2021年3月の退院から、あまり間をあけず、2021年の6月ごろに取りに行きました。代金は無料です。

診断書に見解もらうため、普段通っている病院にてサポートしてもらう

私の通っていた初台リハビリテーション病院では、 このようなフローチャートで患者さんの運転サポートを行っています。

少しわかりにくい表ですが、要は、自動車運転したい人には、1,2,3の各段階での評価を行い、それをパスした人には、先程の公安委員会宛の診断書に先生のサインをしますよ、というものです。逆に言うと、診断書に先生のサインをいただけない限りは、免許の更新は一切認めないという厳しいものです。

僕の場合は、机上評価(なぜ運転したいか等のヒアリング)と、ドライビングシミュレータに1度だけ乗りました。

初台にあるドライビングシミュレーターと同型のモデル。
【出所】ホンダのプレスリリースより


このドライビングシミュレーターは、人によっては最大4回まで練習できます。しかしこの訓練は、医療制度で決められた外来リハビリの時間内に行わなければなりません。週1回45分しかない貴重な外来リハビリの時間の4回(1ヶ月分)をこれだけに費やすことはできません。私の場合は、当時は殆ど動かなかった右腕のリハビリにこそ時間を費やしたいという確たる希望がありました。

そこでOT(作業療法士)さんと相談の上で、次の実車評価を国立障害者リハビリテーションセンターでやるという条件で、初台におけるドライビングシミュレーターは1度で免除してもらい、次のステップである、実車評価に進めました。

国立障害者リハビリテーションセンターでの実車評価

ここは、埼玉県所沢市にある、障害を負った人のケアを行う場所です。

ここの一部門に、障害を負った人の自立支援局というのがあり、そこで運転支援をやっています。

ここで、「初台に通っていること、そして、評価してほしいこと」を伝えて、予約をとります。僕が行ったのは、2021/9/16です。初台でドライビングシミュレーターに乗ったのが、2001/7/9でしたので、随分と日が経ったのですが、ちょうどコロナの第5波が来ていた頃です。普段なら一日に何人も受け入れている場所ですが、コロナ対応のため、1日1人しか受け入れていないということで、その日になりました。

このセンターで実施している運転評価とはなんなのか。以下、ウェブサイトから引用します。

 一般の教習所で実施している運転適性検査のほかに、障害の特徴を見極めるために視機能を評価する視野検査(上・下・左・右・左上・左下・右上・右下の8方向)、運動機能を評価するアクセル、ブレーキ操作力検査器、注意機能を評価するCRT運転適性検査器、実車を使った運転操作力の評価(運転操作評価表)、実車を使った運転基礎感覚の評価(運転基礎感覚評価表・習熟訓練用)などを行います。これらの結果を基に総合的に運転能力を評価して支援目標、支援方法、留意点(頸髄損傷者の例・習熟訓練)(脳卒中による高次脳機能障害者の例・習熟訓練)などを策定します。

【出所】国立リハビリテーションセンターのウェブサイトより

といった具合で進めていきます。では、時間を追って見ていきましょう。

午後のテストは、ペーパーテストから

午後の検査の一発目は、運転適性があるのかを審査されます。ここでは、「警察庁方式運転適性検査 K型」とよばれるものをやります。これは、教習所で誰もが受ける試験です。懐かしいですね。

ここのスコアが悪くても運転免許とは関係なく発行されるようですが、一応やります。これの狙いは、脳卒中や高次脳障害などによる判断力や動作の正確性を見るためです。大体、説明込みで50分程度です。結果、問題なしとのことでした。

つぎに、運動能力を図るためのテスト群です。

例えば、以下のシュミレーターでは、合図と同時にブレーキを思い切り踏み込みます。これにより、反応の時間を見るのと、踏力を見るわけです。僕の場合は、今後運転に使う左足での瞬発力と踏力が評価されます。

ほかにも、視野の検査など、通常の教習所ではやらないものなどがあります。残念ながら、ブログに載せたいので写真を撮らせて欲しいと言ったのですが、NGとのことでした。。

ドキドキの実車訓練


つぎに、いよいよ実車訓練です。

ここに現れた車は、何かが少し異なるものでした。車種は、日産のティアナで、かなり走った様子を持っていますが、どこが変かというと、まずは左アクセル装置です。
普通、アクセルは右足で操作するのですが、右麻痺の人は、左足でブレーキの横にアクセルバーを出して、これで操作します。

【出所】フジオートのウェブサイト

図示すると、通常は右図のように、右足でアクセルとブレーキを操作しますが、私のように右足がまだ動かない人には、左図のように左足1本での操作になるわけです。普段右足だけで操作している方々は、一瞬面食らうと思います。AT車の場合、フットレストが定位置で、のほほんと過ごしてきた左足に繊細なコントロールが求められる大役が任されたのです。僕も緊張しました。。

これに加えて、フォークリフトのようなステアリンググリップと、左ウィンカーレバーの3コンボがきました。

【出所】ホンダの福祉車両のウェブサイト

左ウインカーレバーは、左手だけでウインカーの操作ができるものです。

【出所】ホンダの福祉車両のウェブサイト

こうして、操作系が大きく変わったティアナが現れました。
「これで走るんスカ?」というのが感想で、どれだけ脳内シュミレーションしてもうまくいく気がしません。「が、仕方ない。なんとかなるだろう」と思い、コースにでました。その時の動画がこれです。

実車による評価といっても、よくある自動車教習所でやるのとおなじです。外周、クランク、踏切を越える時の一連の挙動などで、これを左アクセルでできるか?というメニューです。

で、これで、午後いっぱいの運転支援が終わりました。

果たして、結果は?

教官からは、「運転、OKです。詳しくは、初台リハビリテーション病院のOTさんと共有しておきますから。」というものです。

「キター」これは久しぶりに嬉しい瞬間でした。

最後に、代金(確か、3千円くらい)の支払い方法を教わって、一連のレクチャは終わりました。

で、帰りの車では爆睡でした。
とにかく疲れるんです。最大の要因は、左アクセルです。慣れない事があると「早く慣れなくては」とまた焦るので、それも疲れを増幅します。。
一方で、当初懸念していた高次脳機能障害の影響などは、これといってなかったのはよかったです。

さて、いよいよ、試験場に行く準備ができました。
次回は、東京都にある、江東試験場での様子をお届けします。

参考文献

https://www.jaot.or.jp/files/page/draive/draive-untensaikaisiennokiso.pdf


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