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パーマネントライフを求めて

理想の暮らしを追い求めて、僕らが見つけたのはパーマカルチャーの世界。表面的にはテクニカルなヒッピーというような、ジャングルの中で果樹を育て、自給自足しながら裸で暮らしているイメージ。あるいは、行きたくても行けない。少なくとも普通のレールの上からは大きく外れないとたどり着けない、そして引き返すのが非常に困難な禁断の世界という感じでしょうか。そんな禁断の世界の扉をついに開けてみようと思います。
パーマカルチャー(パーマネントアグリカルチャー)というのは持続可能な農業と訳されますが、実態はすごく多面的で、一つの言葉で言い表せられるようなものではないでしょう。
禁断の扉の前に立つ門番は僕に語りかけてきました。この扉は君だけのものだと。禅問答のようですが、これがパーマカルチャーだというものは、誠のパーマカルチャーではないのかもしれません。僕だけのパーマカルチャーとの出会いを求めて、妻と僕と息子のタラとの3人の旅は始まりました。

 

パーマネントライフを求めて、僕らはハワイ島のジャングルにある農場を訪れました。広大な4エーカーの土地に若者が10数名あつまってひとつのファームを運営しています。名前はジンジャーヒルファーム。中には宿泊ができるスペースもあり、僕らはそこに1週間ほどお世話になって彼らと生活を共にしました。創始者の一人は日本人の女性。彼女は画家であって、平和活動家でもあります。

朝起きて、瞑想、ヨガ。その後の時間は、それぞれ決められた仕事について、果物を採取したり、草刈りをしたり、ファームの運営に努めます。お昼はファームで採れた野菜・果物を使った料理をみんなで頂きます。目覚めた瞬間に身構える必要がない、というのはハワイの風土でしょう。外気温は安定して暖かいし、風は涼しく通り抜ける。植物たちも外敵がいないがために巨大化、トゲをなくしていったといいます。マンゴー、パパイヤ、バナナと、豊富な果物に囲まれて安全に、平和に暮らしていけます。

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平和ということを考えた時、根本的な問題として「格差」があるでしょう。「持つ国」と「持たざる国」。経済的な裕福さが、豊かさに直接影響を与える。そんな世界観から外れている点が、パーマカルチャーを支えているように思います。

非暴力な技術の特徴
ー安くてほとんど誰でも手に入れられ、
ー小さな規模で応用でき、
ー人間の創造力を発揮させるようなものではくてはならない。
(スモールイズビューティフル,E・F・シューマッハ,p44)

シューマッハが取り上げた平和のための技術の特徴を見事に網羅していることから、パーマカルチャーの創始者ビル・モリソン /デビット・ホームグレンは永続的な農業の枠組みを考えるにあたってこのことを意識したに違いない、と僕は思うのでした。

 

パーマカルチャーは多年生の樹木や灌木、草本、菌類、根茎などに基礎を置いた多種作物農法として開発されました。これが持続可能な、或いは永続的な農法として慣行農法と区別されるのは、慣行のものが農薬や大量のエネルギーを費やして耕していくことを前提としているがためでしょう。たとえば日本の千年前の農法というのは、田を鋤かなかった農法で、それが江戸時代になって浅く鋤く農法に変わり、その後西洋の方法が入ってきてから深く耕す農法に変わってきたといいます。耕すことの効果も勿論あるのですが、実は土の中の見えない生態系を崩していることを忘れがちです。

ハワイ島は火山地帯ということもあり、溶岩がゴロゴロしているような場所で土質が非常に悪い。つい最近もキラウエア火山が噴火して話題になったような場所です。そんな場所を三十年ほど前に購入し、開墾し続けてきたのがジンジャーヒルファームでした。多品種が密植されているだけでなく、バナナやパパイヤの果樹に周りに刈り取った雑草を粉砕してあつめ、有機物で新しい土壌をつねに作っていく。大量のエネルギーを投入することなく、適度に人の手を入れることで植物の遷移を助けているようでした。

 

計画は当初の意図とは不可避的にズレます。このことをむしろ積極的に取り込んだのがパーマカルチャーでしょう。レヴィ=ストロースは著書「野生の思考」の中で科学技術と対比する形でブリコラージュという概念を生み出しました。ブリコラージュとは、「もちあわせ」でもって何とかする技術のことです。自然の状態において、すべての資材や器具、条件が揃っているということは稀でしょう。特定の意図とは無関係に偶然に様々な物事が決まってくるのです。そうした中で何かを作り上げるということは、条件を全て整えた上でしか機能しない科学が成してきたものとは、異質なものになります。

例えば土作りにしても、コンポストを作るにしても、この道具や材料が揃っていなくてはいけないということはありません。ジンジャーヒルファームでのトイレコンポストでは、日本では籾殻をつかうところ、コーヒー豆の殻を使っていました。身の回りの資源から考えるということが、パーマカルチャーではむしろ推奨されているように思われるのです。

 

パーマカルチャーに関わっていくと、美しさという感覚的な与件を考えるようになってきます。植物が持つ、あるいは自然が持つデザインパターンが美しさを根源的に有しているからでしょうか。ジンジャーヒルファーム での1日の終わりは、みんなで夕日を眺めることで終わります。水平線の向こうに沈み込む太陽を、黄色からオレンジ、そして深い藍色に変わっていくまでをゆっくりと眺めるのです。

今回の旅でもっとも嬉しい思いをしたのは、息子のタラでしょう。毎日、無農薬で安全なバナナ(アップルバナナと言って果物の酸味が強めで最高に美味い)をほうばることができ、幸せを振りまいていました。彼がもし言葉が喋れたなら、こう言ったことでしょう。

パーマカルチャーは美味しい!

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