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CityRepair - プレイスメイキングの極意

大自然のMt.Rainerから車で2時間とすこし、ポートランドの市街地に入ってきました。車の交通量も一気に増え、道路も複雑になってきます。

ポートランドといえば、世界でも最も住みたい街として人気があり、お洒落でクラフト文化が盛んなイメージがありました。NIKE(ナイキ)やADIDAS(アディダス)の本社も拠点を構え、小さなスタートアップ企業も集まっているといいます。

一方で、華やかなイメージとは裏腹に、人口増加と開発に伴う急激な地価の上昇が、地元に軋轢を生んでいるという話も耳にしていました。

今回お話を伺った地域の建築家 Mark Lakeman は、後者の課題感から「City Repair Project」を立ち上げて活動しています。また、彼は都市をフィールドとしたパーマカルチャー(Urban Permaculture)の提唱者でもあり、家庭に庭から公共スペースまで横断的な空間を対象としています。

彼の活動を紹介しつつ、彼がどのようにして場所を盛り上げていったのか、その極意を探っていきたいと思います。

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City Repair共同創設者Mark Lakeman

1.City Repair projectとは

City Repair の活動は、非常に直接的です。代表的なものは、道路の交差点にペイントで大きな絵を描くStreet Paintingの活動で、ポートランドを中心に70以上のペインティングを行ってきました。地域コミュニティが協力し合い、無機質で排他的な感じのする道路を人が集まることができる場所に変えてきました。そのほか、道路脇にお茶が飲めるティーステーションの設置や、自然建築のベンチ、人が溜まれる場所をいくつも作ってきました。

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「こうした活動ができるポートランドは行政が寛容だ」と思うかもしれませんが、実はこうした活動はかなり戦略的に、市民の非合法な活動からスタートして長いプロセスの末に実現したものでした。決して合法的に、行政と合意を得ながら進めてきたというわけではないのが、このプロジェクトの特徴です。


Mark Lakeman は元々、大きな設計事務所で働いていました。そこで関わった大規模な開発プロジェクトで、土地に埋まった汚染物質を隠して開発をしようとしている組織的な不条理に悩まされ、離職。7年間の旅に出ました。

引いた目線で都市を見つめるようになり、気がついたそうです。都市のグリッド構造、大きな構造的な欠陥が人間の生活を苦しめていることに。

Markの視座は多岐に富んでいますが、とりわけ女性差別(PATRIARCHY)の問題に踏み込んでいました。女性が都市構造の中から排除されていること。家の中に押し込められて、コミュニティから分断され、権力から遠ざけられていること。そして女性に限らず、社会的に立場の弱い、貧困層や麻薬中毒者といったマイノリティも同じように、大きなシステムから排除されていることに敏感でした。

家族を持った一般的な女性では、野菜や果物を買い物に行ったり、子供を学校に連れて行ったり、友達に会ったり、自分の仕事場に行ったりと、常に家の近くではないところに行かなくてはなりません。ずっと必要に応じて移動を余儀なくされる、行動半径の広い生き方になっています。これは子育てをする女性にとっては、非常に厳しい環境です。

住宅群と道路グリッドに切られた都市構造。大きなシステム的課題。

Markはそうした課題に対して、ローカルから考えるアプローチをとりました。具体的に、一件隣の隣人との付き合い方、目の前の道路や交差点からはじめたのです。

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2.機能的なプロトタイプをつくる

Mark Lakeman は運営するシェアハウス「プラネットリペア」は大きな実験場でした。中古の住宅を土壁で可愛く外装。女性だけで作れる自然建築。小さな農園、野菜の無人販売ステーション。わらや粘土といった天然素材を多用し、一部はアーバナイト(建材などで使い終わったコンクリート)を使って、都会ならでわの実験をしています。

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隣人とのフェンスを取り払う運動もしていて、丁寧にゲートが設けられていたり。そしてゲートを通じて「プラネットリペア」の中庭につながり、ここにもまたお茶をするスペースが。

プライベートとパブリックの境界線曖昧になるよう、わざと設計されています。
建築がたつ前の段階でコモンスペースが計画される場合はありますが、ここのように後から出来てくるケースは珍しいでしょう。

Markは「機能的なプロトタイプ」をつくる必要性を語ります。
安く早くつくることだけでなく、安全基準等の実効的な検証、多くの人に結果を見せることができるからです。

さらにMarkの凄いところは、法制度まで変えてしまうところです。土壁の建築も最初はグレーゾーンの中で進めていたそうです。建築基準法の中で、耐震強度(ポートランドも日本と同じく地震がある)の観点から認められていない工法だったそうです。ですが、自然に優しく、安価で、ちゃんとした強度取れることを、Markはこの場所から実証していきました。

彼がやってきたことをモデル化すると、こんな感じです。

機能的なプロトタイプ

急進的ですが、これがアクティビストの世界だと強く感じました。

3.ストーリーテリングと直接行動

とにかく話し上手なMark。みんなが聞き入ってしまう凄腕のストーリーテラーです。この事も彼がプロジェクトを進めるにあたって大変役立った事でしょう。

TEDに出た彼のスピーチを載せておきます。

優しい風貌と共に、力強く訴える彼の姿に皆が突き動かされたことでしょう。


また、彼はとにかく褒め上手でもあります。大きなアクションにつながっていることを繰り返し話すことで、コミュニティが勇気付けられていきます。

少し話がずれますが、ポートランドにあるホームレスの自治区区域「Dignity Village(尊厳の村)」で、Markが案内してくれた住人のホームレスを勇気付け、涙しているのを目の当たりにしました。

ポートランドには大きなシステム的な不和があります。そのことをわかりやすい物語として伝えること、そして小さく手短な事柄が最も有効的な手段であることを語り、自らも直接的に行動していることが言葉にパワーをもたらします。

※Markは「Dignity Village(尊厳の村)」のコミュニティをサポートしています。 マークの発言がメディアに取り上げられた時の記事はこちら


沢山のお世話になったMark。感謝の印として、僕らからはガーデンの手入れのギフト。都会の中でも大地とつながって、生きた心地が湧いてきます。

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