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天使と悪魔 【小説】

 怖がらせるため事実をたくさんあらゆる角度からシャワーのように浴びせ続けて、お前たちの恐れを食らいながら俺たちは生きている。いくらでも網に引っかかるようにあらゆるところに細工してあるから、引っ掛かってくれる奴が多くて助かっている。なあ、別に知らなくてもいいことを、特に暗い話ばかり選んで狙い定めて大量放射しているのにはそういうわけがあるのさ。何せお前たちが俺たちの仕掛けた網に気づいて雲の上に突き抜けて引っかからなくなることは俺たちの死活問題に関わることだからな。そうはさせないぜ。手段も選ばない。おっと、天使の群れがここを通っていくみたいだ。少しの間隠れさせてもらうぜ。

 さっきまで誰かとここで話をしていませんでしたか?ひょっとして悪魔ですか?時々ここを通るのですが、私たちが来る前に彼らはいつも姿を隠してしまうのです。だから私たちはめったに彼らに会うことはありません。次元が違うのでしょうね。人間の中にも私たちに近い波動で生きる者がいますが、彼らもまた悪魔たちとは会えないようになっています。彼らの細工にもほとんど引っかからない。事実は事実として受け止めて、必要以上には関わらない、煩わされない。情報なんてただの羅列。そう受け止めるのが唯一の正解なのですが、感情をむやみにかき乱す細工が至る所に施されていますから気を付けてくださいね。彼らはまた人間のどうしようもないところをよく研究していて、この世界にたくさんのトラップも仕掛けています。おや、もうご存知の様子ですね。ひょっとしてさっきまであなたが話していたというのは……。あ、すいません向こうの方も見に行かなければならないのでこれで失礼します。また何かあればこの番号まで連絡くださいね。

 ふう、やっと去ったか。俺はあいつらの出す微細な周波数がどうも苦手でね。脳内が勝ち割られそうになるのを必死でこらえるしかないから、絶対にあいつらとは一緒の空間にはいらないんだ。お前も俺の方が合うからここにいるんだろ?人間なんてみんなそんなものさ。繰り返しになるがそういう奴のおかげで俺たちは長くここまで生き延びることが出来たんだ。間違ってもこの世を天国に……なんて天使もどきの胡散臭い言葉に騙されてあっちに走っていくんじゃないぜ。まあ無駄な努力からほとばしる絶望ってやつも美味だがな……。クックック、まあ、そこらへんも俺たちの仕掛け……いや、何でもない。今のは聞かなかったことにしてくれ。とにかく俺たちは生き延びるためなら手段は選ばない。何でもする。嘘で塗り固められた世界にお前らを閉じ込めて、そこからたくさんの絶望と恐怖などの負のエナジーを頂くんだ。そのためのすべてだってほとんど誰も気づいてはいないがな。上手くやっちまったって、ちょっとこっちもビビるくらいにな。雲の上には何もない。お前たちは永久に俺たちの支配下にあるわけさ。……げっ、天使が来やがった。

 そんなことはないわ。雲の上に行ける人の数は少しずつだけど増えてきている。半数を超えたなら、天空の光は地上を照らし出すはずよ。あなたたちの時代はもうすぐ終わる。きっと終わるわ。


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