意外と知られていない研究の世界における信用の積み重ね
みなさんこんばんは、福田達也です。
先日知り合いの方と、最近の悩みごとである通販での物の選び方が難しくなっているという話をしていた時です。その話の中で、私たちは信用できるかどうかを、どのようにして判断しているのだろうかと話をする機会がありました。
その話の一つとして出たのが、アカデミックの世界での信用がどのようにして作られているのかという事です。研究者の中では常識だということも、その世界を知らない人には意外と知られていないこともあるんじゃないかと思ったので、記事にしてみました。
今までの知見の上に少しずつ積み上げていく
最初に、そもそもとして研究という分野がどのようにして進められているかについてです。
研究というのは、今の世の中全体の最新の知見に対して、新たな課題や明らかになっていない事を見つけ、それに対して仮説を立て検証をすることで、今までになかった知見を得るというプロセスの繰り返しです。
世の中全体の知見という膨大な知の泉に対して、自分が新たに一石を投じて、誰も知らなかった何かを明らかにしていく。予想できるようにそうそう簡単にできることではありません。
これについて、博士課程に進む時に、自分が言われて確かになと思ったことがあります。世の中全体の知識というのが、風船のような大きな大きな丸であるとします。その中で、研究者として一人前になるということは、風船の小さな一箇所、そこを突き抜けて尖らせていくことだよと。
ピアレビューという仕組み
とはいっても、そんな研究の世界において、自分がやった事が今までにない新しい知見なのかを確かめるのは非常に困難です。
そこで、研究の世界ではピアレビューという仕組みが作られています。これは、研究者が新たに論文を執筆したり、国際会議に論文を投稿する際、既にその領域で活躍している複数の研究者に対して、チェックを依頼することです。
このチェックには、それぞれの論文が専門家から見て既存にない新しいものなのかどうか、誰もが簡単に思いつかないような画期的なアイデアなのか、検証のプロセスは確かなのか、既存の研究の調査が足りているか、改善するべき点は何か、といったことをスコアやコメントとして指摘します。
そして、このピアレビューを並べて、ある基準を超えているものが、実際に論文誌や国際会議に採択されるわけです。更に、ピアレビューのプロセスにおいては、バイアスがかからないように著者に対して自分が利害関係者でないことを事前に宣言する必要があります。
研究の世界ではこうやって一つ一つの論文の品質を担保しているわけです。
Citation(参考文献)とcited
そしてもう一つ、その研究がどれだけ世の中に価値をもたらしているのかが明確になるのがcitation(参考文献)です。
どれだけ新たな知見であったとしても、その裏側には膨大なこれまでの知見の積み重ねが必要です。なので、一つ一つの前提に対して、それが従来のどの知見から来ているのかを明らかにするのが参考文献です。
そして、参考にされる側からも、どれだけ参考にされたかを表す指標(cited)があります。沢山参考にされた論文は、それだけ多くの価値を世の中に提供していると判断されるわけです。
このようにピアレビューによって品質を担保し、citationの数によってその価値を定量化しているのが研究の世界であるといえます。
性善説が成り立つ世界
では、この仕組みをビジネスに取り入れられないかというと、ことはそう簡単ではなかったりします。
この研究の領域における仕組みは、それぞれが嘘偽りなく研究をしているという性善説を前提として成り立っているからです。それぞれが真実であるという前提があるからこそ、一つ一つのレビューが間違いないと信じられるわけです。
とはいえ、世の中の研究者の中には、自分の業績のために嘘を書いたりする人がたまに現れます。
それでもこの仕組みが成り立ち続けているのは、研究の世界が同時に再現性を重視しているためです。特に自然科学の領域では、その研究成果が他の人でも再現可能かどうか厳しくチェックされます。その結果、たとえ最初は論文誌に掲載されたとしても、多くの人のチェックの結果再現できないと慣れば、嘘だと発覚するわけです。
このように自浄作用があるからこそ、この仕組みが成り立ち続けているとも言えるでしょう。
終わりに
今回は研究の世界において、信用や価値がどのようにして積み上げられているのかについて紹介しました。
自分の慣れ親しんだ領域のことでも、改めて書いてみると新鮮に感じる所がありますね。この記事が、読んだ皆様の参考になれば幸いです。
本日も読んでいただき、ありがとうございます。
また次の記事でお会いできることを、楽しみにしています。
終わりに
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