見出し画像

『ねじ子が精神疾患に出会ったときに考えていることをまとめてみた』

長い題だ。手書きの文字とイラストが殆ど全部を占めている。医学書からのまとめや注意点が活字でまとめられているのが、ほっとするのか、違和感を覚えルのか、それは読者次第だろう。
 
森皆ねじ子。ナース世界では特に有名である。医療現場の人であり、漫画家である。その「手技」を解説した同様の本は、その世界では非常によく読まれている。なんといっても、看護師の技術や心得について、実にリアルに説明がされていて、分かりやすい。的確な知識と態度、メンタルな心がけなど、イラストならではの形で、そして実にリアルな対処法など、専門ナースの知りたいことが満載なのである。それで看護雑誌の最新号には、ワクチン接種の手技と注意点が本と同様に掲載されている。
 
ナースの妻もかつてこの人の本から多くのことを学んだ。私は医療現場で働く者ではないので、それを役立てる場面はあいにくない。だが、このを見たとき、ときめいた。精神疾患は、私のひとつの関心事であるからだ。
 
精神医療は心理学と共に、私がいろいろ調べたり考えたりする分野に関わってくる。書店でぱらぱらと見たら、現場における注意や薬の処方の意味などが、とても分かりやすく伝わってくる。これは即座に購入、と手に掴んだ。するとショッピングのポイントでちょうど買えることがレジで分かったので、すべてポイントで支払ったという次第である。
 
本書は、心の病とは何かという問いかけから、統合失調症、躁うつ病、さらにそのうちうつ病に絞った対応がとられると、神経症、それからパーソナリティ障害が幾種類から続く。そして子どもの精神の世界を描き、それが治療というよりも教育であるという考えには確かにそうだと教えられた。最後は依存症について。こうなると、自分を含め、いつ誰もが陥っておかしくないものと自覚されるだろう。
 
精神疾患は、自分で自分を判断できないところが辛い。宗教の世界でも「洗脳」ということが起こりうるが、自分の意志でこうしている、と主張する人を動かすのは難儀である。へたをすると人権侵害で訴えられるのである。そこで本書でも、精神医療の困難なところもよく描きながら、しかし治療をしなければ死を招くこともしばしばあることから、「困った」人については、周囲も関心をもって接する必要性を強く訴えている。
 
キリスト教の神学校にも、牧会心理学なる過程があるかと思うが、牧会というものがどこまでをカバーしているのか、また実践的に学んでいるのか、それは医療現場のものと比べて、あまり人間を知るためには期待できないのではないだろうか。そして、牧師自身が心を病んでいるケースも多々見かける(これは私はかなり高率だとみている)。キリスト教が一般的な国であれば、牧師専門の精神科がある病院もあるらしいが、日本ではとてもそんなことはできない。しかし教会には、不思議なくらいに、いや当然のことのように、心に問題を抱える人が集まってくる。本書は一つの学びにもなりうることだろう。
 
だが、本書の最後には、厳しく太い釘が刺されている。この本を読んだくらいで、分かった気になるな、という戒めである。心の病についての知識が少しばかり得られたからといって、そんな程度で患者に対するとき、患者を殺すようなことを平気でやってしまう虞が十分にあるのだ、として、幾度もその釘を刺している。
 
知ることは大切だが、それを使うためには、弁えなければならないことがたくさんある。そのボーダーを守る決意を怠らないならば、本書は大いに人を知る助けとなるだろう。必ずしも医療現場の者ではなくても、知っておきたいことが満載である。これが、内科や外科などの知識とは異なるところである。それは、自分自身というものが関わる分野だからである。自分が正常で、あの人が異常だ、などというような見方は、厳に慎まなければならないのである。(森皆ねじ子・照林社)

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?