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ULTRAS 世界最凶のゴール裏ジャーニー

ジェームス・モンタギュー(著)
田邉雅之(訳)

僕は昔FC東京の「熱狂的サポーター」だった。

シーズンチケットを持つ”ソシオ”であっただけでなく、アウェイのほぼ全ての試合に帯同。週末に開催されるリーグ戦だけでなく平日(当時は水曜日だったと思う)に行われるカップ戦にも必ずスタジアムに足を運んだ。

もちろん、ゴール裏に。

試合開始の3時間前くらいにはスタジアムに到着し開場とともに中に入る。ゴール裏は自由席だがだいたい座るところは決まっている。周りに陣取るメンツも固まっていて、互いに個人情報は知らないものの何となく信頼関係を感じている。そこでしばらくサポーター仲間とたわいのない話をしたり、ボーッとして時間を過ごす。

試合開始前40分、選手が入場するとともに雰囲気が一気に変わる。ゴール裏全員が立ち上がる。僕も自作したゲームフラッグを掲げる(確か「帝都東京」と書いたと思う)。

選手紹介の場内アナウンスにゴール裏が呼応し、テーマソングである”You'll never walk alone”の大合唱、そしてチャントが終わることなく繰り返される。僕も普段であれば絶対に出さないような大きな声で歌い続ける。

サッカーをリアルで観戦したことがなければ理解できないかもしれないが、プレーする選手たちとスタジアムは呼応する。そのリズムがシンクロすることが1シーズンに1, 2回ある。スタジアムが物理的にうねり、選手は躍動し、ありえないプレーにより感動的な結果がもたらされる。凄まじいグルーヴがドライブしていく

この超現実的な感覚を味わいたいが故にゴール裏に通う人は少なくない。そしてこの感覚を味わってしまうと現実に戻ってくることは難しくなる。解決が不可能に思われる困難な状況を、強い想いと行動によって、それが重なった結果として時に覆すことができる、という体験を持つからだ。

これは僕の個人的な体験を書いたものだが、この本にはそういう体験が実は世界で普遍的なものであることを書いている。世界中の"ULTRAS”に属する人々はこの成功体験を持っている

もう一つ。ULTRASはある狭い範囲における特定の象徴(場所)に対して強烈な帰属意識を持つ。歌や合図、アウェイに遠征することや、時に暴力を含めて強い身体性を伴った帰属意識という意味で、一般的な”コミュニティ”とは一線を画す。故にULTRASは極左、極右化する

強固で堅牢であろうと思われるものをグルーヴで破壊する極左、極右集団を体制側が放っておくわけがない。政府や警察機構はULTRASを弾圧し、その権利を制限していく。

この本には「ウクライナ」の章があるが、プーチンがなぜウクライナを「ナチス化」と呼ぶのか、個人的にはとても良く理解、納得できた。ヨーロッパでなぜ政治家がULTRASと腐れ縁のような関係を続けているのか、全てがこの本の中に書かれている。

ゴール裏は「反逆者」を生む
それは時に薬となり、時に猛毒となる。
極めて人間らしいことだと思う。

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