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宇賀村直佳さん(稽古ピアニスト) ライフストーリー【後編】

 ミュージカルに関わる方々に、これまでの歩みや仕事について伺う長編インタビュー企画『Into the Musical』。最初のゲストは稽古ピアニスト宇賀村直佳さんです。
 今回のライフストーリー【後編】では、青年海外協力隊での活動や、稽古ピアノとの出逢いなどについて伺いました。


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1-1 ライフストーリー(前編)
1-3 ミュージカルの稽古ピアノのはなし(前編)
1-4 ミュージカルの稽古ピアノのはなし(後編)


■ 宇賀村 直佳(うがむら なおか)プロフィール

国立音楽大学卒業後、青年海外協力隊に参加。
2年間ザンビアの大学に音楽講師として派遣される。
帰国後は、数々の舞台で稽古ピアニストを務める他、ライブやイベント、ミュージカルでの演奏活動も行っている。
稽古ピアニストとしての主な参加作品に、『ミス・サイゴン』『レ・ミゼラブル』『エリザベート』『Tootsie』『VIOLET』『ベルサイユのばら~半世紀の軌跡~』『Endless SHOCK』などがある。



【1】  青年海外協力隊の活動に魅せられて

「『これだ!』と思いました」

 興味のある授業を目一杯履修し、仲間からの演奏依頼を次々とこなす。そんな多忙ながらも充実した大学生活も後半に入り、ついに就活シーズンが到来。しかし、音楽を離れて企業に勤める発想はなく、適正テストの結果も散々だった。
 そんな矢先、大学で開かれた青年海外協力隊の説明会で、その活動の様子にたちまち魅了される。

「スライドで見た現地の隊員の方々がキラキラして見えて、『これだ!』と思いました」


【2】  ザンビアでの2年間

ザンビアのナショナルパークにて

 青年海外協力隊員は、派遣された地で何かしらの技能を現地の人と同じ目線で伝える活動に従事する。

「村落開発や教師をはじめ、驚くほど種類があって、クラシックバレエ隊員としてモロッコに行った友達もいました」

 面接審査を受けた宇賀村さんは、見事ザンビアでの音楽隊員に合格。

「『アフリカだー!』って自分が一番びっくり(笑)。その頃、ザンビアはリアルアフリカと言われていて、動物がいて、大地が広がるサファリみたいな場所。私は首都のルサカという町に行きました」


【3】  "じゃあ、何ができるのか"

 現地では、音大の中の音楽教師を目指すコースでピアノとソルフェージュの授業を担当。

学生にピアノを教える宇賀村さん
(派遣先のエブリンホーン大学にて)

「生徒はほとんどが社会人。学校にはピアノがあるものの、生徒が住む村では楽器を買えない状況だったので、大使館に器材を支援してもらうドネーション制度のことで奮闘しました」

 同僚と奔走したが、彼女が帰国後のメンテナンスが難しいことから、あと1歩のところで楽器の支援には至らず、生徒たちの"やりたい!"という輝きと、実際に提供できる支援とのギャップに悩んだ。
「自分の目線だけじゃエゴになってしまう。"じゃあ、何ができるのか"に発想を切り替えるしかない。支援の意味を考えさせられました」

 そこで、日本の楽器店に手紙を書くと、その熱意が伝わり、楽譜を山ほど送ってくださったという。

「せめて役立てばと、送っていただいた楽譜と私のキーボードを置いてきました」

大学主催のコンサートで演奏する宇賀村さん

 葛藤を抱えながらも、ぎりぎりまで支援の道を探り続けた彼女たちの熱い思いは、きっと現地の方々にも伝わっていたに違いない。


【4】  ストレスという概念がない日々

「ザンビアは第二の故郷です」

大学主催のコンサートにて、
ゲストミュージシャンの方を囲んで

 支援について思案する一方で、生徒からは日々抱えきれないほどのエネルギーをもらっていた。
 言いたいことを口にして、楽しい時は憚りなく笑い、子供のようにピュアなザンビアの人たち。現地では、ストレスという概念すら忘れていたという。

審査員を務めた学校のミス・コンテストにて、受賞者たちと

「『姉が結婚するから』と結婚式のオルガン演奏を頼まれたり、セカンダリー・スクールのミスコンの審査員をしたり。自分が日本人だということを忘れる瞬間があるくらい現地に深く入り込んだ生活は、刺激的で、楽しくてしょうがなかったです」

カピニ村にて

 視野が360度に広がり、何があっても受け入れられる。まさに達観したようなその感覚は、今も心の深い部分に刻み込まれている。
「今でもトラブルがあった時は、アフリカだったら・・・と考えると、"大丈夫でしょ!"と大きな心に戻れる。ザンビアは第二の故郷です」


【5】  稽古ピアノを通じてミュージカルの世界へ

 ザンビアでの2年の活動を終え、帰国後はアメリカの大学院への音楽留学も考えたという宇賀村さん。しかし、求められるTOEICのレベルが高過ぎたこともあって断念。

 そんな時、舞台関係者の知人から紹介してもらったのが稽古ピアノの仕事だった。大学時代に劇団四季を観ていたため、ミュージカルには馴染みがあったものの、当然、その内側に足を踏み入れるのは初めてのこと。

 初参加の大地真央さん主演『ワンス・アポン・ア・マットレス』(1)では、まず、自分の演奏で物語が動いていくことに驚かされた。何もかもが新鮮で、とにかく楽しい日々だったという。
「吉野圭吾さんとジェームズ小野田さんのお稽古で弾いたことがきっかけで、コンビの役だったお二人にはとても良くしていただきました」

一作品に全力を投じよう

「今、考えると恐ろしいですけど、ピアノを弾ければやれると思っていた時代(笑)。作品を重ねて、深さが見えてからの方が大変でした」

 
始めてしばらくは、次の仕事が来るかどうかが常に不安だった。しかし、だからこそ「後悔しないように、一作品に全力を投じよう」と心に決め、今に至る。

「先輩方のお陰で何とか繋がった線が少しずつ太くなっていったという感じです」

※(1)『ワンス・アポン・ア・マットレス』:2000年11月、青山劇場にて上演されたミュージカル。


 持ち前の好奇心と、ピアノを通して培った粘り強さ。そして、ザンビアで学んだありのままに生きる尊さ。お話を通して、その全てが、稽古ピアノに臨む姿勢は勿論のこと、今の宇賀村さん自身を支える欠かせない軸となっていることを実感させられました。

 次回以降は、稽古ピアノの仕事内容や、こだわりなどについて迫ります。どうぞお楽しみに♪

【企画・取材編集・撮影:Tateko】

※記事、写真の無断転載はご遠慮ください。


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Vol.1-1 ライフストーリー(前編)
Vol.1-3 ミュージカルの稽古ピアノのはなし(前編)
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※補足(ライフストーリーについて)

ライフストーリーは、インタビューによる語り手(対象者)と聞き手の相互作用を通じ、対象者の人生を紐解いてまとめたものといわれています。現在、多くの分野で研究材料として用いられていますが、本記事はそれらとは異なり、読者の方に語りそのものを自由に味わっていただくことを目的としてまとめました。

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