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大久保 百恵さん(57回優勝) インタビュー Vol.3-2

 前回に引き続き、ミュージカルオーディションショー・第57回スマッシュキャバレーで優勝した大久保百恵さんのインタビューをお届けする。

★前編はこちら(スマッシュキャバレー編Vol.3−1)


5 「朝日のイメージを映像として出して歌ってました」

 舞台で活躍中の歌の先生から、使う声を緻密にメイキングすることを学んだという大久保さん(詳細はVol.3-1へ)。
 しかし、ステージを拝見して何より驚かされたのは、それだけの計画性を持った上で、枠にとらわれた形式的な表現に陥ることなく、確かに役として息づいていたことである。中でも特に印象に残ったのは、決勝のラストで、過去に傷を持つ少女が陽の光に希望を見出す場面で放たれた神聖な雰囲気だ。

決勝のステージで歌う大久保百恵さん。

「決勝の曲の最後の方は、日の出のギリギリのところをイメージしていて、今日はずっと朝日のイメージを自分の中で映像として出して歌ってましたね。映像として目の前にその状況を出した方が歌えることが多いかもしれないです、私。」

 正面を見つめ、不思議な引力に導かれていくように歌う彼女の姿は、その澄んだ歌声と相まって鮮烈な印象を残した。そして、もうひとつ深く心に残ったのは、歌い終えた後の余韻である。音が消えてもなお残る研ぎ澄まされた空気は、彼女が見つめけ続けた朝日を、多くの観客が確かに共有していたことを物語るかのようだった。


6 「私だけのパフォーマンス」とは

声と、見た目と、歌いたい曲

 さて、ここからは当日のプログラムに掲載されていたコメントを通して、パフォーマーとしての葛藤や気づきについて伺ってみた。

― プログラムに、「顔に合う曲」に関する悩みについて、「歌いたい曲と使う声と表現と見た目、全部合わせて私だけのパフォーマンス」という考えに至ったというコメントがありましたが、ご自身の個性や演技についてどんな気づきがあったのか、よろしければお話しいただけますか?

「『顔に合う曲』と前回も書かせていただいたのですが、私が持っている声と、顔の見た目と、歌いたい曲が全然マッチしていなくて。私は、見た目は結構若めで幼く見られがちなので、客観的にはポップな感じの曲が合うんじゃないかなと思っていましたが、歌いたいのは芯の強い女性の曲が多いので、ちょっと強めの声を練習していたんです。」

 ミュージカルのパフォーマーにとって、声、見た目、そして歌いたい曲はどれも重要な要素だ。しかし、それらのイメージは必ずしも合致するとは限らないため、得てして、ルックスと声や、歌いたい曲と自分の雰囲気とのズレに悩む者は少なくないように思う。

ステレオタイプからの脱却

「でも、それ(芯の強い女性の曲)も、この顔で歌ったところで、それはそれで私なんだなっていうことに気づいて。」

― そこに気づかれたのは、何かきっかけがあったのでしょうか?

「前回、スマッシュキャバレーに出て、皆さんがお好きな曲を歌ってらっしゃったのを見て。
あとは、先ほど(Vol3-1の4章)もお話した、大学を卒業する直前にレッスンを受けた歌の先生が、この間、動画で『Tomorrow』のカバーを上げていらっしゃって。その方は綺麗で割と若く見えるタイプの方なのですが、すごく芯があるメッセージ性の強い声を持っていらっしゃって、『この人が自分の声で歌ったらこうなるんだ』っていうのを見て。」

― 既成のイメージではなく、自分の声と・・・

「自分の見た目で。そうですね。」

 正解は、自らをステレオタイプのイメージに近づけていくことだけではないのだ。

ギャップの中に隠されたヒント

 お話を伺って、自分の素材で、歌いたい曲を、自分が思うように歌うことで表現できる世界があることを再認識させられた。声、見た目、曲の間に生じるギャップの中にこそ、その人らしい表現や妙味が宿るヒントが隠されているのではないだろうか。
 そして、今回、大久保さんの独特の引力が観客を魅了したように、演者が思い思いの方法で繰り広げる “自分の表現”を会場全体で楽しもうという雰囲気に満ちた場が、スマッシュキャバレーであるように思う。


7 日本語での上演のために創られたミュージカルを届けたい

― では、最後に、今後の展望や夢などあればお聞かせいただけますか?

「今後は、日本で創られたオリジナルのミュージカルを届けたいなと。ブロードウェイの作品も、もちろんすごく素敵ですし、表現方法やストーリーも色々あるじゃないですか。だけど、日本語の質感やイントネーションってすごく大事だなと思っていて。なので、創る側なのか、やる側なのか・・・もちろん、やる側ではありたいと思っているんですけど、日本語での上演のために創られたミュージカルを、今後、子供たちをはじめ、多くの人に・・・というと壮大ですけど。」

― 素晴らしい夢ですね!何より、それは日本人だからこそできることでもありますよね。

「そうですね、はい。」

― 今後のご活躍と、ご活動の展開を楽しみにしています。

「ありがとうございます。頑張ります!」

―  今日は貴重なお話をありがとうございました!

 声や演技に対する明確なイメージ力、自らを取り巻く状況を客観視した上で前向きに受け入れる強さ、そして、パフォーマーとしての自分と向き合う洞察力。インタビューを通して、ともすると深く考えずに過ぎ去ってしまいがちな場面でも、安易に流されることなく丁寧に向き合って答えを出していく、大久保さんの聡明かつポジティヴな生き方の一端に触れたような気がした。
 そして、そんな彼女なら、日本のオリジナルミュージカルづくりという壮大な夢にも、きっと一歩ずつ着実に歩みを進めていくことができるのではないだろうか。長引くコロナ禍の中で様々な道を模索するミュージカル界において、彼女のような頼もしい存在が、パフォーマー、或いはつくり手として、業界を牽引していってくれることを強く期待したい。

(Tateko)


■大久保 百恵(おおくぼ・ももえ) プロフィール

神奈川県出身。2020年に洗足学園音楽大学ミュージカルコースを卒業。ただ歌が好きだった幼少期に劇団四季のファミリーミュージカルに出会う。市民ミュージカルや中高での合唱、演劇の経験を経てミュージカルの道に進む。夢は、命ある限り沢山の人の人生をミュージカルや歌を通して応援すること。現在はフリーで活動中。


文章・企画構成:Tateko
写真:中山駿

協力:SMASH CABARET 
https://smashcabaret.com/
   中目黒TRY

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