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野球少年を襲う病魔〜痛くない野球肘がある?part4〜

前回に引き続き上腕骨小頭部離断性骨軟骨炎についてお伝えしたいと思います。今回は分離期後期の病態・症状についてです。part1からお読み頂き、次に進まれると理解しやすいかと思います。

※離断性骨軟骨炎は疾病です!病院で経過をしっかり診てもらいましょう!(整骨院の先生やトレーナーの方々は、発見、疑いある選手がいた場合、病院と連携をとり対応しなければなりません。スポーツ障害ではなく、疾病ということを理解してください。)また、医師でも見解が異なりますので、より野球肘に詳しい医療機関を受診されるのが望ましいです。

症状・病態〜3つの期分け〜
透亮期(外側期・中央期)
分離期(前期・後期)
遊離期(病巣内期・病巣外期)

分離期後期(病態・症状)
分離期でも後期へ進行したということは、元に戻らない状態ということになります。分離期後期は中学生に多く平均的には13歳前後と言われており、後期では軟骨下骨の殻と母床との隙間に水、繊維性組織、軟部組織などが介在し、互いを別のものにしようと働きます。この働きが強くなると結果的に分離を完成させてしまうのです。分離してしまった骨同士は元に戻る可能性がほとんどなく、手術になることが多いです。
透亮期(初期)では、痛みがなく発生している離断性骨軟骨炎は分離期後期頃に初めて運動時の痛みや違和感がでてきます。この段階で病院を受診される例が多いようです。前期でも痛みや違和感がでている選手もいますが、少ないです。
現在、全国的に広がりがでてきた野球肘検診はこの離断性骨軟骨炎をなるべく早期に発見し、処置をしようといった活動になります。筆者も現在、茅ヶ崎市、横須賀市を中心に企画、実施を医師とともに活動しております。

分離期前期(12歳前後)のイメージ↓
軟骨下骨の殻が出現するのが分離期前期となります。
詳しくは前回をお読みください。

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分離期前期(殻が母床の外側と癒合する)↓
癒合すると軽い運動時に発生するメカニカルストレスに対応できるようになります。透亮期(初期)で発見し、経過観察をしている選手は、この段階で打撃の開始許可がされる場合が多いようです。
この分離期前期で外側と癒合し、その後、病巣も修復され治癒していきます。離断性骨軟骨炎の修復過程は「透亮期→分離期前期→治癒」となります。上手く修復できないと分離期後期へと移行していきます。

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分離期後期(13歳前後)のイメージ↓
繊維性組織、軟部組織などが介在し、元に戻る可能性は低く、手術等を選択される場合が多いです。筆者が離断性骨軟骨炎で悩む約100名の選手達で手術になってしまった選手は14歳前後が多いです(詳しくは前の記事をお読みください)

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分離期後期MRI(上イメージと角度を同じにしております)↓
分離期の前期・後期を判断するためには、MRIが有効とされています。エコーやレントゲンでは殻と母床との間に水、繊維性組織、軟部組織などが介在していることを確認する事ができません。

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どのようにして分離期前期→後期へと変化するのか?
大きな要因は上記にもある運動時のメカニカルストレスです。離断性骨軟骨炎になっていると気付かず運動を行っている結果、透亮期→分離期前期→後期へと移行します。しかし、運動を中止しても後期へと病態が進行してしまう選手もいます。これは分離期前期から分離期後期へと進行していく過程の中で、骨の発育が深く関係していくようです。分離期前期では12歳前後の第二次性徴期(前・中)の選手が多い傾向にあります。骨の発育において、「骨を壊す→骨を再生する」を繰り返します。特に成長期では元の状態以上へと骨を戻そうという働きが高まります。この働きの主役は血の中に入っている破骨細胞・骨芽細胞によって行われます。という事は、それらの細胞を行き来させる管も大事になってくるという事です。上腕骨小頭部に栄養を与える栄養血管は上腕骨小頭部の後ろ側から骨端線に入り小頭部へ栄養を与えていきます。しかし、栄養血管は第二次性徴期(中・後)では骨端線が閉じる傾向(大人の骨になる)となり栄養を送る際に抵抗が大きくなってきます。また、閉鎖前でも栄養血管の抵抗が大きい選手は治りづらいという報告もあります。筆者もエコーにて血管抵抗を計測することがありますが、現在のところこれといって皆様にお伝えできるものはありません。筆者なりに指標としてはいます。
骨端線の閉鎖は大人の骨になった証です。分離期後期への進行は繰り返される運動時のメカニカルストレス、骨の発育、栄養を送るシステムに何かしらの問題が発生したことによる影響ではないかと言われております。離断性骨軟骨炎に詳しい先生方は、骨の発育状態と病巣・症状等を包括的に評価し治療方針を決定される様です。この離断性骨軟骨炎は野球肘の中でも発生率が低く、スポーツ整形外科の先生方でも上手く対応できない先生もいます。より野球に携わっている先生のもとに足を運ばれるのが良い選択と筆者は思っております。

栄養血管の抵抗が小さい骨端線の閉鎖傾向にない場合のイメージ↓

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栄養血管の抵抗が大きい骨端線閉鎖傾向にある場合のイメージ↓

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まとめ
上腕骨小頭部離断性骨軟骨炎の中でも、今回は分離期後期についてお伝えさせて頂きました。12歳前後の分離期前期では元に戻る可能性は高いですが、13歳前後の後期へ移行すると元に戻る可能性は極めて低くなります。この1年ではの間には第二次性徴期があり、骨の発育と深く関わっています。
分離期前期か?後期か?が治るか治らないかのデッドラインとも言えます。なるべく、この期にならないように、発見された場合は医師の指示に従い、速やかに運動を中止してください。また、なるべく早期で発見できるように、地域で行われてる野球肘検診へ積極的に参加しましょう。地域でされていない場合は、各チーム、個人的に行動されると良いかと思います。野球の長期育成を達成するためにも健全なる身体の確保は前提となります。

野球長期育成研究家
吉田干城

参考文献



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