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胸中の手記

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感覚に集中しようとして生きると人はどうなるのかという実験をしている人の生活を描いている日記風小説。
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2024年4月の記事一覧

胸中の手記 4月30日 一瞬前の過去とさよなら

胸中の手記 4月30日 一瞬前の過去とさよなら

夜風が吹いている。夜風の中を走ると空気が止まっていても風になるようです。
汗と水蒸気が混じって、体の面だけが冷たくなっているけれど、暑さがある。
橋の下を走ってすれ違ってゆく二本の電車の中が皎々と、中にいる人々を照らし出して、たくさんの生活の一瞬だけど、わたしははっきり見た。
遠くから見るとあんなに小さい。遠くから見るとあんなに明るい。あんなにたくさん一気に見える。楽しいけれど、橋を通り過ぎた。

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【日記風小説】4月5日 胸中の手記 準じようとして疎かにならず自分から逃げず。

【日記風小説】4月5日 胸中の手記 準じようとして疎かにならず自分から逃げず。

 4月5日 金曜日 曇り

 確かに曇っています。確かなことは。
 確かなことは、鼻が詰まっている。確かなこと、掃除、楽器でコード進行を組み立てるとき、自分から逃げる自分を発見したこと。
 美しさの規準、幸福の規準、楽しさの規準が世にありまして、自分が苦悩することがあるのは、それに順じて、ではなくて、準じていないからだと考えていたけれど、これではまだ浅はかです。

 規準に準じ切れていないからと、

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【日記風小説】4月4日 胸中の手記 恋心よりも日記の時間。

【日記風小説】4月4日 胸中の手記 恋心よりも日記の時間。

 4月4日 木曜日 曇り

 日記。それは重要です。わたくしのように、人を動かすよりも自分を動かすことが必要になっている人間にとっては、感じたことに忠実になる時間もまた重要です。
 たとえば、そうする時間もないまま合羽を着て仕事に行くとね、この、仕事に行くのに合羽を着ている時の自分の考えがわからない。

 雨の感覚も飛ばして、時間のために走って、理想を忘れた感じのまま、寝てしまっている、疲れて寝て

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【日記風小説】4月2日 胸中の手記 くじらの肌の記憶

【日記風小説】4月2日 胸中の手記 くじらの肌の記憶

 4月2日 火曜日 曇り

 どんなに小さな音でも、その音が高まることに役立つ音ならば、それが雨と土のようにわたしを育てるなら、聞き取って、どう響いているのかを確かめよう。

 明らかに空気中に水蒸気が増えているのを感じる。
 湿度計を見るまでもなくそれはみんなの肌が直接知るところなのだ。

 どうしてか、そうすると、鯨になったかのように陸を歩いてしまう。
 恐れていては勿体ないほど日本の季節でご

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【日記風小説】4月1日 胸中の手記 わたしは動力

【日記風小説】4月1日 胸中の手記 わたしは動力

 4月1日 月曜日 小雨

 なんだか、何かを面倒だと感じている夢を見たような気がする。
 知らないご婦人たちの中で、ただ警戒心を表されつつ、その場にいるのだ。
 悲しいことでもあったのか、彼女たちは他人に向かって怒ったような態度をするのは当然だという感じで空気をひりつかせているのだった。

 今の季節には、新芽があちらこちらでとんでもなく美しい、太陽の光を透かしてしまう未完成の緑色の顔を出してい

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