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胸中の手記

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感覚に集中しようとして生きると人はどうなるのかという実験をしている人の生活を描いている日記風小説。
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言葉と音の美しい庭

言葉と音の美しい庭

7月15日 月曜日 曇り

朝、まとめて雨が降って
またくしゃみしながら帰ることになるのかと思って
「曇りの予報信じてたのにな。」
と話していたら、帰るころには見事に雨がやんだから、わたしは言葉の力は多少信じています。

これはちょっと馬鹿な信じ方ですけど。

例えば先日旧友に、またギターを手伝ってくれないかなと思うことがあると話したら
「可愛い、か弱い頼み方をしたら聞いてやる。」
「なんだって?

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台所と美と古書と煙草

台所と美と古書と煙草

7月14日 日曜日 曇り

ごはんを作っているとき、美?
食べているとき、美?
出掛ける準備をしているとき、美?
美?美?
いきなり難しい本で勉強しだしたから崩壊したのかと思ったけど違いますよ。

また「審美網領」の話に戻りますけども、美というのはある一定の雰囲気の中にあって、それが上手く表出されると、その表出したものから同じ美が醸し出されるらしい。
だから
せっせとごはんを作っているとき、何か自

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【胸中の手記】美と表現について知る

【胸中の手記】美と表現について知る

7月11日 木曜日 曇り(少し涼しい日)

このわたしには、いきなり表現をしっかり行うことは難しい。
アイデンティティも揺らぎやすく、感動もしやすい。
だからといって美意識がないわけではない。
何がかっこよくて、何が胸に感動を呼び起こすのかはうっすらわかっているのです。
これをどうやって表したり感じたりしているのか、自分でも形にしたければ、様々なものを見て、体験して、感じるのがいい。そして何を感じ

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【胸中の手記】勉強の旅はじまってしまった

【胸中の手記】勉強の旅はじまってしまった

7月9日 火曜日 曇り時々弱雨

荷風先生の「小説作法」を熟読したところ
「これを究むるの道今これを審美学といふ。森先生が『審美網領』『審美新説』を熟読せば事足るべし。」
とあって、「審美網領」を探し、購入しました。
明治32年発行の上下巻、とても古い本です。
これをまた、熟読と書いてあるから文字通り熟読するのであって、意味のわからないところを飛ばしたりはしません。

わたしはいい大人ですから、恐

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【胸中の手記】声が出る方法

【胸中の手記】声が出る方法

7月4日 木曜日 晴れ

熱気の中ですよ。そうだ、今日は週一回の休日。
わたしは大声の出し方を忘れて、両壁の向こうに人がいないようだから、また腹に力を入れて歌を歌っている。
別に大声でなくたっていいけれど、なんだか人生の歪みが反映されているような声がする。

3時間も4時間も、同じところで苦しくなって喉より心が疲れてくる。
いつか、わたしにも、死のうと思った日があった。
アローン・アゲインを歌って

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【胸中の手記】きっといい人間になるからね

【胸中の手記】きっといい人間になるからね

7月3日 水曜日 曇り

町女。心は忙しなく、あらゆる人の誘いをにべもなく断って、溢れ行き交いぶつかり合う人と車の中、景色は見えても心に映す隙間なし。

生活と情緒がシーソーに乗っているわ。

生活のために生活しているんじゃありません。
情緒のために生活をしているんです。

自信のなさを鏡に映して一心不乱に眉を見つめて、これを克服しようと奮闘する。

「自信があれば原稿用紙だってお歌だって目じゃな

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【胸中の手記】枯れた木に思う

【胸中の手記】枯れた木に思う

7月2日 火曜日 曇りのち雨

今日は松の枝に山鳩の姿はなくて
代わりに朝顔の蔓が絡まっている。
山鳩の鳴き声がしない代わりに
幼い子供の泣く声がする。

2月に雪で折れて枯れた梅の木は
花が終わるまで折れたまま咲いて
それきり葉を生やさなかった。
その梅の木にも朝顔の蔓が絡まっている。

わたしはその梅について、何度折れたままの姿見ても
最後の深い強い紅梅色のときばかり憶えている。

その奥には

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【胸中の手記】飴と鞭

【胸中の手記】飴と鞭

7月1日 月曜日 弱雨

あまりに辛口で一度は聞き流そうとしたけれど却って荷風先生の「小説作法」を熟読してみようと思い立つことになりました。

辛口だと思ったはずなのに、今はその通りだその通りだと唸って目を皿のように読んでいる。
2ヶ月ほどの間を空けている間にわたしが変化してしまった。
悪い休憩はお勧めしません。

気掛かりなことや追い払いたいことについて考えて気が散ってお茶を飲み過ぎ、夕飯の買い

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胸中の手記 5月21日 わたしの親友皮膚の中

胸中の手記 5月21日 わたしの親友皮膚の中

5月21日 火曜日 曇り

26時間ほど、食べるのも忘れて、自らの指針というものをはっきりさせたく、考えていたら、どうなったと思う?どうなったと思う?

人間は、食べないと、お腹が減って、変な音が鳴るのよ。別の生き物が中から呼んでいるみたいな音がするのよ。

やっと鳥の肝を煮て、多めに御飯を食べて、安心していたら今度はね、胃がびっくりしたんでしょうね。痛くて痛くて何も出来ない。

胃散を飲むと唾が

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胸中の手記 5月20日 芸達者の武士

胸中の手記 5月20日 芸達者の武士

5月20日 月曜日 雨

少しずつ、昨日の夜から雨が降っていた。
見えないで、音もしないで、ただ濡れるから、わたしは喜んでいなかった。
朝、雨はもっと降っていた。
仕事が長引いて、帰れなくなった。
その間に恋の告白などあった。
わたしは芸達者の武士を慕って
告白をお断りして、後輩の手伝いをした。
後輩は「あとはお任せください。先に帰れますよ。」と言った。
残っていた仕事をしなくてよい連絡があって、

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胸中の手記 5月19日 楽しみ親しみ

胸中の手記 5月19日 楽しみ親しみ

5月19日 日曜日 雨

コインは言いました。
「心から喜んで、人とも親しみなさい。自分のすることを心から喜んで。」
おお、弾く弦から美しい音が出るといいよね。
紡いでいる言葉から、人とわたしの同じ喜びが浮かび上がるといいよね。

雨が降った。わたしは何でも頭を下げる。
道を渡る間少し待ってくれた人、塞っている道を開けてくれた人。
だからわたしも待って、わたしも道を開ける。

コインはこんなことも

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胸中の手記 5月17日 思い切り

胸中の手記 5月17日 思い切り

5月17日 金曜日 晴れ

ちょっと面白い曲(面白いのではなくて、変わっているというのでしょうか)を作ったから、聴いてもらいに行った。仕事をしている方々に。今日のわたしは自己採点が低い。
練習時に完全集中したときとは、明らかに精神状態が違うのです。
結果どうあれ、完全集中のあの気分の良さと納得の仕方が欲しかったというわけです。

しかし完全に目の前の人達を無視してもいいものか、完全に集中してしまっ

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胸中の手記 5月16日 オセロ

胸中の手記 5月16日 オセロ

5月16日 木曜日 曇りと強い風

目が覚めて顔を洗ってパッパと化粧して割り箸と遊んでいるわたしの子どもの代理と遊んで服を着替えて洗濯機を回して鍵と財布と支払いの紙を二枚持って、
玄関を出て階段を下りて道を走って風に当たって立ち止まって空を見た。

「大丈夫だわたしの中には、わたし以外の人もいる。」

コンビニに行って支払って、郵便局に行って、行く途中の公園のベンチで熱心に本を読んでいる日焼けして

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胸中の手記 5月15日 たんぽぽの綿毛

胸中の手記 5月15日 たんぽぽの綿毛

5月15日 水曜日 晴れ

さあ、怒られたり貶されたりして、謝って反省して、本当に願っていることを、自分を慰めながら、諦めることまでは先延ばししてきたけれど、今日も、明日も何とかして、試験をまた受けに行こう。

とても恐い(手書きでは怒られたりが恐られたりに間違っているから、余程恐い)、とても恐いけれど、行ってきます。
自分が何に感じ入っているのか、もっとよく、わかりますように。