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話がどんどん変わる話

絶望の中をゆらゆらゆらゆら生きている。

タコみたいなもんだ。

絶望の中なんて言ったら、タコに失礼か。

タコを美味しいと思うようになったのは大人になってからだ。子供の頃はなかなか噛みきれなくて喉に詰まるし、どうも苦手だった。

喉に詰まるといえば、3歳ぐらいの頃、初めて死というものを意識する大事件があった。

親父が買ってきてくれたカバヤのジューシーを飲み込んでしまい、喉に引っかかって大パニックに陥ったのだ。

あの時は、俺は死ぬ、と本気で思った。洗面台に向かって泣きながらオエオエやってたら、親父が俺の背中をドンと叩いた。

そしたら本当に、唾液にまみれたカバヤのジュージューシーが、コロンと音を立てて流しに転がり落ちた。

ジューシーはレモン味だった。

あれからどうもレモン味は苦手だ。苦手だからとて、嫌いなわけではない。食べれないわけでもない。

でも、こういう話をすると過剰反応する人がいる。「あ、まっさんてレモンだめだったよね?」

その人は悪くないんだけど、食えないなんて言ったことはない。カラアゲに絞るレモンは最高なんだから、好きに絞れば良い。

きっと俺の伝え方が下手なんだな。

好きだと面と向かってストレートに伝えたら「重い」と言われ、口を閉じていたら「あなたは私に真剣にぶつかってこなかった」とかぬかしやがる。

うまくいかねえな。

うまくいかねえと言えばクルマの運転だ。運転好きを助手席に乗せた時に限って、うまくいかない。隣からあーしろこーしろひっきりなしに口を挟まれると調子が狂う。

断言していい。あなたが隣にいないほうが、ひとりで運転してるほうが、俺はスムースに運転できてただろう。

運転免許を取ったのは学生時代。自宅アパートから徒歩1分の自動車学校だった。クルマのハンドルって、こんなにも繊細に反応するんだなと思った。

ちょっとしたカーブで、これぐらいかなと思ってハンドル切ったら、おもくそ路側帯に乗り上げてしまった。

「おいおい。なにやってんの?ハンドルきりすぎ」教官の娘は俺と同い年の学生らしく、きみは親から仕送り幾ら貰ってんのとか、根掘り葉掘り聞いてきた。

◯万円ですと素直に答えてしまった。作り話で適当に答えるということが出来ない。

今まで出会ってきた人の中で、作り話の達人は、自称ボディビルダーの女だ。

本当にボディビルダーだったのかは定かでない。しかし、彼女の話に惹き込まれてしまった。

「ボディビルダーってね。みんなナルシストなのよ。人に見られると興奮するから、その快感が忘れられなくて、それがトレーニングのモチベーションになるの」

ケツの筋肉って、どうやって鍛えるんですかと聞いたら「そりゃあなた、あれよ、裏技よ」と彼女は言った。

裏技?

なんすか裏技って?と聞いたら、彼女曰く、ケツの穴に乾電池を挿し込んで、キュッキュッと締めるらしい。

へーなるほど、そんな鍛え方があるんすねと感心したところで、彼女は急に不機嫌になり「あんた鈍いわね」と席を立ったしまった。

当時は、なんだあのババアと思っていたが、今考えると誘ってたんだろうな。

愛は過ぎ去ってから気づくもの。

사랑은 떠난 후에야 아는지 サランウン トナン フエヤ アヌンジ

愛は去ったあとに分かるものなのか。韓国語の勉強を始めた頃、勉強がてら初めて訳してみた歌の歌詞だ。

ソウルは近代的で日本と何も変わらなかったが、造りが日本と比べると、ちょっと粗いかなと思った。

都会の歩道でも、ところどころ陥没した穴が空いていた。

が、

よくよく考えてみると、日本でも大規模な陥没事故は起こったりしてるし、自国だけ優れているなんて考えはやめたほうがいいな。

なんで他人の悪いところばかり探して、自身の欠点は省みないのだろう。

プロのコメディアンでもないのに、他人をいじって笑いを取る人間が本当に増えた。国民総ツッコミ時代の到来だ。

俺はボケでありたい。ツッコまれるなら、せめてプロにツッコまれたい。なんの実績もない、自分ではボケようともしない無印にはツッコまれたくない。

無印良品が拡大していった時期の勢いはすごかった。

さいたま屋という つけ麺屋もちらほら見かけるようになり、他店舗展開してるのかなと思った矢先、あまり見かけなくなった。

さいたま屋のつけ麺は本当に好きだった。美味しくて安かった。牛丼の吉野家みたいな感じで拡大する予定だったのかな。

上京したばかりの頃は、東京近郊、油そばブームの真っ只中。そこかしこ油そばの看板だらけ。

汁のないラーメン、油そば。当時は斬新で一大ブームが巻き起こっていた。「体調が悪い人は食べるの控えてください」なんて掲げてたが、今となっては油そばほどあっさりした食べやすいラーメンはないな。

これだけラーメンが好きなのに、ラーメンの世界に身を投じなかったのが悔やまれる。

人生が二度あれば。井上陽水も歌ってた。井上陽水はいかれてる。およそ常人には思いつかない歌詞ばかりだ。

昼寝をすれば夜中に眠れないのはどういうわけだ。

そんなの当たり前じゃーん、と一笑にふす連中など、井上陽水はハナから相手にしてないんだろう。

よく、売れる人はどんな世界でも成功するとか言うけど、井上陽水はミュージシャン以外ありえないと思う。

でも、

井上陽水が作るラーメンは美味しいかもしれない。

やっぱりどんな世界でも成功するのかな。

陽水はさておき、近所の細い用水路。

特大の野鯉が沢山泳いでる。あんな細い用水路なのに。ゆらゆらゆらゆら、群れをなして泳いでる。

あんな狭くて、何もなくて、楽しくなさそうな用水路なのに。

絶望の中をゆらゆらゆらゆら生きている。

絶望の中なんて言ったら、

鯉に失礼か。

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