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Ramberk【ランベルク】
2024年10月27日 18:41
「ママ~!」保育士とともに門の近くまで歩いてきた男の子が駆け出した。その勢いで肩掛けカバンがバタバタと跳ね回っている。「甲斐ちゃん、帰ろっか。」お迎えに来た母親は男の子にそう言うと、保育士に軽く会釈した。森山 あずき。27歳。母ひとり子ひとりの生活を営むシングルマザー。女手一つで子供を育てるため、昼間はパチンコ屋、夜は週3でラウンジで働いている。決して美人というわけではない
2024年10月29日 01:17
石塚を皮切りにちょっとしたカラオケ大会で盛り上がりだしたところで3人組の客が入ってきた。「あ、いらっしゃ~い。ボックス席どうぞ~。」”すみちゃん”が応対する。「ごめんね大山さん、石やん。」そう言うとすみちゃんはボックス席のお客さんのほうへと着いた。どうやらすみちゃんの”上客”がいるようだ。「あら~・・・。」大山がちょっと残念そうにしている。なるほど大山のお目当てはすみちゃんらし
2024年10月31日 01:49
(参ったな・・・。)同級生の大山や”それなりに”石塚の事を知っているすみちゃんが「奥手」と揶揄する通り、石塚はあまり女性慣れしていない。恋愛経験がないわけではないが、それも片手の指でお釣りがくる程度である。どうにか雰囲気を和ませようと頑張って話をしようと試みても、思うように会話が続かない。普段のあずきであれば、自分からどんどん話を盛り上げてくれるのであろうが、さすがに今はそ
2024年11月2日 13:18
ゆっくりとふすまが開き、あずきが顔を覗かせた。「あずちゃん、もしかして眠れないの?」スマホをダイニングテーブルに置いて、石塚はあずきと向き合う。これは思った以上に精神的に参っているのかもしれない。早めに何か対策を考えないといけない、石塚はそう思い始めた。「あの・・・出来たら傍に居てくれませんか。」「えっ?」石塚も寝室にまで立ち入るのには抵抗があった。いくら自分がすみちゃんの”友
2024年11月5日 00:03
「石やんありがとね、あずちゃんのこと。」閉店後の店内で、石塚と同い歳の陽子ママが言う。すみちゃんから一通りの事情は聞いているのだろう。「あんな話聞いて頼りにもされちゃ、何もしない訳にはいかんでしょ。」そう言って石塚は一瞬すみちゃんに視線を移す。何か言いたげな顔だ。だが今はママと話をするのが先だろう。石塚は車での通勤や親御さんへの連絡など、自身の考えを陽子ママへと伝えた。「車は
2024年11月6日 01:38
石塚は先週末にあずきを送っていった時とは逆の方向へと車を向けた。あずきが焦って声を掛ける。「石やん?」「ちょっと遠回りするね、見られたくないし。」「あ・・・。」あずきが安堵する。石塚なら大丈夫、そう思っていたはずの心が思わず揺らいでしまったのが恥ずかしくなった。「それでさ、あずちゃん。」「はい?」「オレの勝手な考えかもしれないけど、しばらくお母さんの所に居た方がいいんじゃ
2024年11月8日 02:22
あずきは石塚から視線を外したまま、ゆっくりと語り始めた。「アタシがまだ小学校に入る前に、父は病気で亡くなったんです。それからはずっと母が一人でアタシを育ててくれました。」「高校を出てすぐに働き始めて、母には少しでも親孝行出来たらと思って頑張ってました。そんな時”アイツ”と出逢ったんです。」石塚は頷きながら、あずきの話に耳を傾けていた。「最初はすごく優しくて、アタシが我侭言って
2024年11月10日 01:52
”覚悟”。すみちゃんの言葉は石塚の想像以上に重かった。あずきから事情を聞かされたということは、自分も向き合わなければならないということだ。あずきの心に刻まれた深いキズ。日頃見せる明るい表情の下に隠された暗い闇。石塚は目を細め、じっくりと考える。即答出来ずにいる石塚にすみちゃんが続ける。「私は自分で旦那を選んで、子供も産んだ。私が今こうしてる原因の半分は私。でもあずは選ぶ事も出
2024年11月11日 00:33
月曜日の夜。閉店作業を終えて帰ろうとしたあずきは、数人の警察官に囲まれた石塚の車を見て慌てて駆け寄った。「あずちゃん。一緒に事情を説明してくれるかな?」石塚は職務質問を受けているところだった。この辺りでストーカーらしき人物がいると警ら中の警官に、あずきを迎えに来て車で待っていた石塚が引っ掛かったのである。「この人は違うんです。」あずきは自分が通報した案件で、石塚はそのために協力
2024年11月12日 09:14
男が抵抗をやめ、石塚が馬乗りの状態のままで半ば放心していると、入口から警官が入ってきた。数人の警官の後ろにすみちゃんが居る。どうやら従業員用の裏口から抜け出して通報したらしい。石塚は立ち上がるとそのまま壁に寄りかかった。「裕哉!大丈夫?!」心配そうに声を掛けるすみちゃんに対して、石塚は人差し指でそのおでこを軽くつついた。「あのさぁ、”ここ”で裕哉って呼ぶなよ・・・。」そう言って