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【想像させて】ジャンボパン。


「どう思う?」
「それはイケると思います!」
「じゃー決まりだ!」

町の一角に出来た新しいパン屋さん。
通りは小さいお店が立ち並び、向かいには大学がある。
流行り廃りの早い学生をターゲットにするお店はどこも
常に新商品の開発に精を出していた。

「太田さん、そこのお店。この間からチョコレートのたこ焼き始めたの知ってます? 結構賑わってますよ!」
「なに!? クゥー! 先越されたか!」
「私たちもなんか考えましょ!」


その晩、店長の太田とバイトの川崎は、
散々話し合った結果、ついに新作を思いつく。

「……お金の形をした大きいパンですか?」
「どうだ? 縁起物としてもウケそうじゃないか?」
「……ご縁、つまり五円玉ってことですよね?」
「ああ、そうさ! お前パソコンで五円玉を拡大コピーしてくれ。まずは型を作る」
「はい……」


それから5日後。太田と川崎は試行錯誤しているが、
真ん中に空くはずの穴がキレイに出ず、苦戦していた。

「こんなの一つ一つ手でキレイにくり貫いていたら、時間なんぼあっても足りんな……」
「そうですね……。僕3個中1個失敗してます……手先器用じゃないんで、丸むずいっす!」
「おい、まるでダメじゃないか」
「いっそ空いてなくてもいいんじゃないですか?(笑)」
「妥協すんのか? お前妥協すんのかよ?」
「いえ……でも……」
「わかった川崎! 五百円玉にしよう」
「え? いいんですか?」
「ああ」
「だったらすぐ正確なもの出来ますね!」
「よし! 拡大コピーしてこい!」
「はい!」


それから5日後。太田と川崎は試行錯誤しているが、
外側のギザギザがキレイに出ず、苦戦していた。

「やっぱり耳が汚くなるなぁ」
「型なんですから、仕方ないんじゃないですか?」
「でもせっかくならキレイに出来た方が話題になるだろ」
「太田さん、こだわりすぎじゃないですか?」
「そのまんま大きくすることが大事なんだ! 学生たちだけでなくて、ちゃんと作れば大人も子供たちも喜んでくれるはずだ! うわ大きい! って」
「まぁそうですね。ちなみにこれいくらで販売するんですか?」
「まあ、結構なサイズだし、300円くらいかな」
「え? なんか気持ち悪いですね」
「なにが?」
「五百円玉を300円で買うのって」
「気になるか? じゃー500円か?」
「はい。500円でいいんじゃないですか?」
「高すぎるだろ……」
「でも、お昼これ一つあれば十分お腹いっぱいになりますよ」
「まあ、そうだけどよ。……いいや! そしたら中にチーズでも入れて、まず500円で様子見てみるか」
「チーズいいすね!」
「川崎、お前そこでコーヒー買ってきてくれ。さすがにちょっと疲れたわ。お前も好きなの買っていいぞ」
「あざす!」

太田はポケットに入っていた五百円玉を手渡した。
それを握ると、川崎は三軒隣にある自販機へとダッシュした。


「太田さんは……エメマンっと! あ! あっ!! えーっ!!!!」

川崎は何も買わず、再びダッシュで太田の元へと戻った。

「太田さん! これ!!」
「ん? コーヒーは?」
「違います! これ見てください!!」
「なによ?」
「なんか……新五百円がマイナーチェンジしてました…………」
「なんだって!? なによこれ!!(怒)」
「外側はゴールドですが、中はシルバーです! どうしましょう……」
「やってくれたな日銀! あのヤロー!」
「どうしましょう?」
「ヤメだ!ヤメだ! 疲れた! もうたくさんだ!」
「そんなぁ〜……」
「ヤメだ!ヤメだ! 五百円玉はヤメだ! 1円玉にするぞ!」
「え?」
「五百円玉はちょこちょこ変わりやがるから、変化してない一円玉にしよう!」
「……、一円玉のパンを500円で売るんですか?」
「なんの問題もない! チーズも入れる!」
「でも……なんか幻滅しませんか?」
「形が1円玉だってだけで、美味けりゃいい!」
「僕が学生だったら、ちょっと……」
「じゃーパンで、最新の五百円玉のゴールドとシルバーをどう表現するんだよ? そんなことしたらコストばっかかかって儲けなんか出ないんだよ!」


それから5週間後。二人は、なんとかかんとか
ジャンボお金パンを完成させた。

※この物語は想像です。登場する人物名、団体名は実在のものとは関係ありません。

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