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夢の続きの夢を見る

他人の夢の話を読んで何が面白い?と思われるのは覚悟のうえで。

数日前、記憶にある限り、初めて夢の続きの夢という体験をした。夢か現かあいまいなまま切れ切れにストーリーが続いていくというのではなしに、いったんはっきり目が覚めて、でもまだ起き出すには早い、と寝床にいるうちにまた眠ってしまうまでの時間が10数分はあったはず。

私は精神分析的な「深層心理が夢で表現される」という象徴論にはあまり興味がない。が、夢に出てくる出来事や事物が実際のどんな経験に結びついているかとか、夢はどのように記憶されるかについて、体系的な調査があったら知りたいと思う。残念なことに、夢の記憶はトシとともに保たれなくなっていくようで、自分の場合「こういう夢を見た」とまとまった筋書きを書けるのは成人前の数例に過ぎない。多くの夢は数日の間に忘れられてゆき、近年は目覚めたとき「夢を見ていた」ことは覚えていても、それがどんな夢だったかは思えていない。ただ、異なったストーリーの夢の断片に同一のテーマが現れ、それが妙に気になることはある。この数か月、自室の窓側に物置スペースがあり、常々そこを片付けようと思っているが、忙しくて片付けられないことに悩んでいるというモチーフが多くの夢に現れ、全体のストーリーは「あったはずだが思い出せない」ときも、「片付けねば」と思っていたことは忘れない。

さて、自分の場合、記憶に残っている夢の特徴は以下のようなものである。
・ストーリーは現実にあることではないが、実在の人物や経験、読んでいた本の内容等が所々に現れる。
・夢の中で自宅や職場など、普段の生活の場が出てきた場合、「この部屋は自宅の自室」といった自覚はあるが、置かれている物やその配置は現実のものと異なっている。
・見ているときは色がついている*が、繰り返し思い出すうちに、だんだん色が失われてゆき(というか○○はこの色でよかっただろうかという疑問が生じはじめ)、白黒に落ち着く。
・基本的に音がない(頭の中で本の登場人物の全部のセリフを読んでいる感じ)。悲鳴や点呼への返事など、反射的に自分が声を出す場合は実際に声を出している(修学旅行の時、夢の中で点呼され、大声で返事して同室の人々の目を覚まさせてしまったことがある)。
・他人の姿がない。目の前に知人がいて自分と話しているとか、道路に大勢の人が歩いているというのは分かっていても、目が覚めた後はどの人物も「透明人間」で、具体的な姿かたちが思い浮かばない。一方でアニメのキャラなどは目に見える形で出てくる。

さて、幼少期からの記憶にある夢はだいたい恐怖体験である。最初に覚えているのは4、5歳のときのもので、見知らぬ街を叔母に連れられて歩いていたが、山(と幼いころは感じていたが、芝生の上の階段を上り下りしていたから大きな公園か切通しの坂道というところだろう)を降りると自分の周りに誰もいなくて途方にくれたところで目が覚めた。街を歩いている時、ショーウインドウにマヨネーズのチューブが飾られていたのを覚えている。マヨネーズは幼少時から嫌いなのだが、まさかこの夢がきっかけだったということはあるまい。

今でも怖いのは、小学校5年の時のもの。校庭の隅に男子生徒がうずくまっているのでどうしたのかと肩に手をかけたら首が落ちた(その生徒は手塚治虫「三つ目がとおる」の主人公)。驚いて逃げ出し、何食わぬ顔で教室に戻ったが、周りが自分のほうをチラチラ見て「人殺し」と噂しているように思えて仕方がない、というところで目が覚めた。

グリム童話「ねずの木の話」に似たようなシチュエーションがある。継母が前妻の生んだ息子の首をはねた後、胴体とつないで座らせて置く。妹(これは実の娘)がやってきて兄に話しかけるが返事がないので怒って肩を小突くと首が落ちる。妹は自分が兄を殺してしまったと思い込んで泣き出し…

この話を読んだとき、自分はもう中学に入っていたから、小学校時代の夢に直接のつながりはない。が、特に思い当たる現実のエピソードはないのに「自分のせいではないがその首を落とした人物を殺した犯人にされる」という符合はなにか「昔話の原型」を感じさせる。

数日前の夢も超ド級の恐怖体験であった。大筋はこういうものである。

1 自分は実年齢よりずっと若く、勤務先の独身寮にいるらしい。連日の夢のモチーフどおり、今日は物入を片付けねば、と思っていると、建物の中に食人鬼がいるという話を耳にする。名前は●●●(アルファベット3文字。普段仕事でよくサイトを見ている外国の官庁の略号。ここに「ちゃん」をつけて読んでいる)で、若く美しい娘の姿をしている(が、自分の頭の中では、猫面人身の化け物で、しかも一つ目)。ついさっき、○○氏(現実の同僚)が食べられてしまったという。恐怖に駆られてなぜかエビシューマイの包みを持って寮の裏口に出る。鬼の気配を感じ、シューマイを一つだけ裏門の前に置く。裏門を出るとすぐ海か河か、大きな水の流れがあり、そこに入って泳ぎ始める。

一度目が覚めたあとの夢の続き。

2 寮を出たあと、自宅通勤の別の同僚のところに行って話を聞いてもらったらしい。その同僚によると、●●●ちゃんは寮を離れて町に出ているが、それは私を付け狙っているからだということである。今のうちに寮に戻って入り口を封鎖し警察を呼べというアドバイスがあり、寮まで車で送ってもらうことにする。車中で寮の前のバス停(現実の自宅の前にあるものに似ている)を見ると、数人が並んでいるが、その後ろから鋭い視線が放たれており、●●ちゃんが自分のいる場所を感知したことを直感する…

ここで夢は終わる。多分このストーリーの発想のもとは、既に我が家に用はないが、本屋に行くとつい立ち読みしてしまうローティーン向け怪談集「意味が分かると怖い4コマ」シリーズ(湖西晶著、双葉社)であろう。怖いのが「殺される」ではなく「食われる」であったのは、このシリーズの中で、「殺してから食べる」ではなく「生きながら食べる」ことを示唆する少女食人鬼のエピソードがあったからと考えられる(死に方としては最も忌避したい…)。

こんなことを考えていたら、昨夜は現実の恐怖体験をそのまま写した夢を見てしまった。
「現実」はこう。夜中に台所の棚を開けたら何かの虫が手の上に乗ってきた。えっもうゴキブリが出現か?と慌てて振り払い殺虫スプレーを振りかけて戸を閉めた(虫の正体はまだ見る気力がない)。

夢の中では、風呂場でゴキブリの卵を見つけ、シャワーで排水溝に流そうとしたら、親ゴキブリが出てきたので、風呂場をかけ出ようとした(ところで目が覚める)。奇妙なのは「夢では現実にあるものとないものが入り混じる」法則がここにも適用されていたことで、ゴキブリと並んで現実には見たことのない茶色で胴体がオクラにそっくりな虫がゴキブリの後を這いまわっていて、これもたいへんに気味悪かった。

明日の朝は夢を記憶していないことを祈ろう。

*学生時代の友人の実話。某銀行の就職試験を受けて面接のとき、「昨夜見た夢」を話せと言われ、「空に赤い月が…」と言ったとたん、「夢って色がついているんですか?」と遮られ、即座に面接が終わってしまった、と。面接担当者が「色付きの夢を見る」=「個性が強く周囲になじみにくい」と考えて篩い分けの基準にしているようだったというが、その根拠は何だったのだろうと今でも謎である。

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