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人間的な"面白さ"を辿るが近道。

どうも、こんにちは。岩淵です。皆さん、お元気でしょうか?

初めましての方に簡単に自己紹介をすると、僕は現在、大学院博士課程で都市計画・建築分野で研究しながら、URBANIX株式会社という小さな会社を経営している27歳です。

さて、今回のnoteですが、「【街づくり研究者と考える】"トレンドの芽"をいち早く察知するために大切なこと」と題して、流行り廃りがどういうメカニズムで起きているかを考えていきたいと思います。


はじめに

流行り廃りはあらゆる分野で起きています。例えば、ファッション業界では、トレンドの変化がとても激しいです。ある時期にスニーカーコレクターのコミュニティが注目され、特定のブランドやデザインに関心が集まったと思えば、次のシーズンには別のスタイルやブランドが台頭し、コミュニティの関心が移行したりします。他に、SNSの例をとると、Facebookが初期には大きなコミュニティを形成したと思えば、後にInstagramやTikTokなどのプラットフォームが台頭してきました。

つまり、コミュニティは常に急速に変化しており、新しい興味や関心が生まれる一方で、古い関心が衰退することを意味しています。流行り廃りは、その時々のトレンドや社会の変化に合わせて変化しているということです。

「新しい」という言葉には、「先進的」や「最先端」という意味合いに加えて「一番乗り」のようなニュアンスも入っています。既に世の中に存在しているモノ・コトであっても、その価値をいち早く見つけて上手く世間に伝えることができれば、流行をつくる側になることもできそうです。

そんなことを考えていたら、街の流行り廃りというのは、コンテンツの流行り廃りを理解するための良きサンプルであるように思えてきました。そこで、今回は、流行り廃りついて、街づくりの観点を踏まえながら、皆さんと一緒に考えていけたらと思います。

街の流行り廃りって何だろう。

街にも流行り廃りがあります。例えば、高円寺や吉祥寺のような古着屋に溢れ、文化的な魅力に溢れ、多くの人が訪れる街があったと思えば、下北沢のように再開発が進み、チェーン店が増え、カルチャー色が強い古着屋さんは別のエリアに移転する…みたいな現象も起きていたりします。

ここで言いたいのは、再開発の良し悪しではなく、地域は常に、経済的、社会的、文化的な要因が複雑に絡み合いながら変化し続けているということです。街の流行り廃りについて理解するには、その現象と変化を注意深く見て、考えることが重要です。

ジェントリフィケーション(都市の高級化現象)

街の流行り廃りについて、イメージを持ってもらうために、街づくりの分野でよく言われる「ジェントリフィケーション」について触れてみたいと思います。ジェントリフィケーション(英語:gentrification)は、その言葉の通り、gentry(ジェントリ)=紳士(しんし)という意味合いを持っており、それまで安く庶民が住んでいた地域が再開発され、より高い階級が住むようになり、元々いた庶民が住めなくなるような現象です。都市研究では、ネガティブな文脈で語られることも少なくありません。

ジェントリフィケーション(gentrification)とは、地域に住む人々の階層が上がると同時に地域全体の質が向上することを意味する。「都市の富裕化現象」や「都市の高級化」ともいう。イギリス・ロンドンを中心に確認された現象で、1964年、ルース・グラスという社会学者の『Aspects of change(変化の側面)』という書籍で初めて使われた用語だ。

ELEMINIST(2020), ジェントリフィケーションの意味とは 日本と海外の事例から解決策を考える
(https://eleminist.com/article/619)

今回特に触れたいのが、このジェントリフィケーションというのが「段階を踏んで」生じているということです。簡単にまとめるとこんなプロセスで変化しています。

第1段階:経済的に荒廃した状態

初期段階では、経済的に衰退しており、多くの空き家や閉店した商業施設がある地域のパターンが多いです。日本の文脈で言うと、高齢者が元々多く住んでいたけれど、後継の移住者がおらず空き家が多くなったエリアです。

このような荒廃した地域は賃料が安いです。安い賃料に惹かれてくるのが、アーティストや若者、起業家などです。面白いことを始めようとする人や新しい挑戦しようとしている人は、安い固定費を求めます。なぜなら、新しいことを挑戦するには、失敗するリスクが高いからです。既に確実なニーズがわかっているのであれば、都心部のデパートなどで大きく始めるのが合理的です。でも、そうでない場合は、やはり安価な場所から始めるのがセオリーです。「先駆者」は、このように、安価な生活費と、文化的・社会的表現の場としての潜在性に魅力を感じ、エリアに移住してくるのです。専門用語では、「ジェントリファイヤー」と呼んだりします。

重要なのは、初期段階でこのエリアは「一般的に」認知されていない状態である、と言うことです。感度が高い、かつ、既に創作している人、起業している人、活動している人がその嗅覚で見つけている場合がほとんどです。「流行り廃り」の文脈で言い換えると、彼らが流行の「一番乗り」の層になります。

私が調査していたエリアでは、初期は賃料は月一桁。当時はメディアで一切取り上げられていなかったエリアで、新しく移住・参入してきた人たちは、職人やアーティスト、個人経営の事業者が多かったです。特性で言うと、「こだわりを持っている職人気質」の人が多く、「経済合理性を第一義に捉えていない」人が多かった印象があります。これ、面白かったのが、一つのエリアではなく調査した複数のエリアで同様の事象が確認できたんです。

重要なのは、彼らが必ずしも「稼ぐことばかりを意識していない人だった」ことなのです。面白い街をつくっている人が「大富豪になろうとして仕掛けているわけではない」というのが肝なんです。

第2段階:店舗の増加と投資意欲の高まり

先駆者たちによって地域に新たな活気がもたらされると、徐々にその地域の魅力が高まっていきます。この時期になると、カフェ、ギャラリー、小規模な店舗などの出現します。これらは、地域の文化的価値を高め、更なる注目を集めます。

この段階になると、ローカルの情報誌や文化情報雑誌、ラジオ、地方テレビなどで取り上げられ始め、感度が高いアーリーアダプター層にとっては既に認知がある状態であることが多いです。

私が調査していたエリアは、ちょうどこの第二段階の終わりかけくらいだったのですが、賃料は第一段階から約3倍〜5倍になっていました。個人店舗に加えて、法人経営の店舗も参入してきており、出店動機も「安いから」ではなく、「人気のエリアだから」など、エリアの人気の高まりを出店理由として挙げている店舗も多くいました。

この段階では、不動産開発者や外部からの投資家が機会を見出し、住宅や商業施設の改修・再開発を進めることも多くあります。勿論、物件価格と家賃は上昇し始めます。

察しの言い方はお気づきかと思いますが、この段階になると、初期段階で見られたような人や事業主の割合は減っていきます。「先駆者」のような人たちは離れ始める場合も多いです。

第3段階:新規流入と置き代わり

第3段階になると、より多くの裕福な層が移り住んできます。これにより家賃や不動産価格は急速に上昇し、元々の住民や小規模な事業者は経済的圧力を感じ始めます。高い家賃を払える人々が増える一方で、低い賃料を求めていた住民は移住へと追いやられることになります。このプロセスで、地域の社会経済的構成が大きく変わります。

第4段階:完全な変貌

第4段階になると、地域のランドスケープは完全に変貌します。高級住宅、高価な店舗、洗練されたレストランが並び、地域の文化的・社会的景観は大きく変わります。現在の表参道は第4段階のような形態かもしれません。元々いた住民はほぼ皆無になり、先駆者のような人たちの割合も大きく減少し、新たな高い所得の住民や資力のある店舗、そのライフスタイルが地域を支配するようになります。この段階で、ジェントリフィケーションは完成し、地域は全く新しい顔を持つことになります。

認知度ではなく、人間的な面白さを辿る。

ここまで長々と、ジェントリフィケーションのプロセスについてまとめてきましたが、これは街の変化だけでなく、他の分野についても応用して考えられることです。カルチャーやトレンドの形成過程においても、おそらく、その始まりは一部の先駆者によって切り拓かれ、その後に小さなコミュニティが形成され、やがて広く知られるようになり、最終的には商業化が進むというパターンがあるはずです。

今日の情報収集手段として一般的なSNSを通じて知る情報は、このプロセスの中で言うところの後半、つまり既に多くの人の目に触れている段階のものが多い気がします。

トレンドの「芽」に早い段階で関わるためには、まず、先駆者やその直後に続く人たちの「人間的な面白さ」に注目し、彼らとの関わりを深めることが重要です。これらの人々は、単にお金を稼ぐことやPRに興味があるわけではなく、独自の価値観や哲学を持ち、職人気質で自分のこだわりを持っていることが多いです。これらの「先駆者」はカルチャーやトレンドの源泉を作り出す原動力であり、彼らとの関わりを通じて、新しい価値観や文化を早い段階で捉えることができます。

理解すべきは、ビジネスの成功者やSNSでの発信者が注目される現代においては、これらの成功者が必ずしもカルチャーの源泉を作り出しているわけではないということです。成功している人々や目立っている人々が上手く拡げることができる「ソフトウェア」やツールを駆使していることは事実ですが、それだけが全てではありません。真のイノベーションやトレンドの芽は、「ヒューマン」の部分、つまり人間的な面白さや独自の文化、思想から生まれるはずです。

ヒューマン:人間的な面白さ、価値観、文化、思想、哲学
ソフトウェア:ビジネス、プラットフォーム、SNSなど

ヒューマンとソフトウェア(筆者のイメージ)

この考え方を踏まえると、新しいトレンドやカルチャーに関わるためには、SNSなどの現代の情報収集手段に頼るだけでなく、実際に人と人との関わりを大切にし、彼らの持つ「人間的な面白さ」に耳を傾け、深く掘り下げる努力が求められます。このようにして、本質的な価値や新たな動きを見つけ出し、それを自分の中で育て、広めていくことが、これからの時代を生き抜く上での重要な鍵となるのではないでしょうか。

最後に

最後まで読んでいただき、ありがとうございました。

僕の研究は、端的にいうと、ジェントリフィケーションの第一段階の初期と第二段階の終わりに特に注目して、そのメカニズムを研究しています。今回のnoteでは、ジェントリフィケーションの基本的な概念について触れたのですが、今後のnoteでは、より具体的な部分まで触れていけたらと考えていますので、是非フォローやいいね!で応援していただけると嬉しいです。

それでは、また。







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