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えこひいきのエスカルゴ -還暦サイゼリヤアルバイトの日常-

「このオリーブオイルの香りがたまんないんだよねー」
若い男性3名でご来店のお客さん、全員エスカルゴのオーブン焼きをご注文。エスカルゴには相性抜群のプチフォッカもみなさんご注文でした。

冒頭のひと言を聞いた瞬間に、私のおせっかいが頭をもたげ、頼まれてもいないのに(自由にお使いいただける)オリーブオイルの瓶を持っていき、
「どうぞ、追いオリーブオイルです」
と。

「追いオリーブオイル?」
と、首を傾げるお客さんに、
「エスカルゴにかけて、プチフォッカをひたひたにしてお召し上がりください。とってもおいしいですよ」

押しつけがましい私のサービスに、嫌な顔ひとつするわけでもなく、
「追いオリーブオイルねえ」
と、全員たっぷりとオリーブオイルを回しかけ、プチフォッカひたひたでお召し上がりいただけました。

別に私が作ったものでも、輸入したものでも、味つけしたものでもないのに、
「おいしいね」
とか、
「ありがとうございます」
とか言っていただけるお客さんには、ついつい、何かできることはないかなあと思ってしまうのは、なぜなのでしょう。

それは私たちも、人間だからですかね。
お金をいただいている側と払っている側と、言ってみれば利害関係ではありますが、ひと通りのサービス以外のところで、お互いにいい気持ちになれるところがあれば、やってみようと思うものなのでしょう。

昔々、家族で上高地へ旅行したことがありました。
ツアーだったので、レストランで他のお客さんも一緒の夕食です。
その時に出たお漬物、これがとにかくすごくおいしかったのです。
で、思わず、
「このお漬物、すんごいおいしいですね。おかわりとかいただいてもよろしいですか」
と、ホテルの方に言ってしまいました。
ダメもとで言ったのですが、その方、
「その言葉に弱いんもんで…」
と、笑顔でこころよく、お漬物をもう一皿持ってきていただけたのです。
多分、パッケージの食事なので、そんなお代わりなんて本当はダメだと思うのですが。

追いオリーブオイルの一件で、こんなこともあったかと、思い出してしまいました。
また、隣席にいた他のお客さんのひと言も印象的でした。
「それ、追加料金ですか?」

いやいや、ダメもとで言って、好意で持ってきていただいたもので、追加料金という切り口で考えるのはよくないんじゃないでしょうか。
そういう関係性だけで、接客というのは成り立ってはいないだろうと思います。

今ではオーナーシェフの友人が、レストランに勤めていた時代に、言ったことがあります。
私も同じキッチンにいて、少々ケチり気味に盛りつけを行っていたところ、
「もっとたっぷり入れてあげろよ」

別に何気ないひと言かもしれませんが、
「ああ、この人って、ちゃんとひとりひとりのお客さんのこと考えているんだろな」
と、感じたのでした。
そのひと言に象徴されるように、彼はその後飲食ひとすじで、成功しています。

サイゼリヤにも、たくさんのマニュアルがあります。
ファミレスならどこでもそうですね。
接客7大用語とか、フロア・キッチン・スタンバイから配送等々。
でも意外に、マニュアルに書いていないことで、店の評判とか繁盛具合って決まるものなのかもしれません。

今日もお読みいただいてありがとうございました。

かのリッツカールトンホテル、有名なクレドというものがありますね。
これは、まあ言ってみたら、自分の裁量でお客さんにサービスしなさいっていうもので、マニュアルに書いていないこと、と言い換えてもいいのではと思います。

「リッツカールトンとサイゼリヤ、比べんじゃねえよ」
という人は、モノの価値というものを価格でしか見ることのできない、BOPであることは間違いありません。

よくよく考えてみると、両者はそれほど変わらないんですね。
というか、大部分同じではないかと思うんです。
ここら辺を理解できる人は、ごく限られた、分かっている人なのでしょうが、サイゼリヤもリッツカールトンも、
・サービス業、飲食業(ホテルの部分は除いてください)、接客業
・サービスを売っている
・飲食物を提供している
・働いている人たちがそれで生計を立てている
・お客さんはサービスの対価としてお金を払っている
・使っている言葉もそれほど変わらない
 いらっしゃいませ・ありがとうございます・申し訳ありません…
・両者どちらも行ったことのある人はたくさんいる
そして、
・両者の決定的に違う部分を的確に言える人は限られている
ということではないでしょうか。

「値段が違う」
これくらいしか思いつかない人は、ずっとBOPのままでしょうね。
そんな人たちは、多分、

「なぜ値段が違うの?」
には答えられないでしょう。

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