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【短編小説】僕たちは繋がっている

冬の朝。身体を小さく屈めて走り、僕は到着。何回か働いたこともある場所。派遣先のおかき工場。駐輪場の端に自転車停車、手袋を嵌めたまま、チェーンを車輪に巻き付ける。冷たい空気が未だ少し跳ねている肺目掛けて入り込み、僕は咳をした。
 
工場に入ると、ご挨拶。「おはようございます。」優しそうなおばさん事務員が軽く会釈と挨拶を返してくれた。タイムカードに出社時間を書いて、作業現場へと向かう。後ろには何人か人がいた。どこの誰か分からない人達。
 
僕はこの人たちと話す機会はあるのだろうか?

いつも働いている古株らしき人たちが端の方に固まって、談笑していた。20台後半ぐらいの人からご高齢の方々まで。派遣先は長く止まって凝固した血と新しい血が流れゆく場所。そんな印象を覚えた。

僕だって、どこの誰か分からない人の一人。新しい血は流れゆく前提で、視界にも入らないのであろう。悪気はないが、どこか排他的な感覚を覚えていた。
 
従業員の方々が入ってきて、今日の生産目標を説明している。
 
「年末が近いですので、いつもより増産したいと考えております。皆さん、宜しくお願い致します。」「よろしくお願いします。」大人達の低い声。
 
ビーーーー!ゴゴゴゴゴ・・・
 
ベルトコンベアーが鈍い音を立てて、動き出す。僕たちは必死におかきを摘んで、袋に入れる。立ち位置によって、担当するおかきは異なっていく。僕はざらめをひと摘みして、流れゆく袋に突っ込んでいく。ゴム手袋で、ざらめが掴みにくい。一度の小さな遅れは後の袋に影響を与える。あわわわわ・・・。挽回が難しい作業は嫌いだ。
 
何とか休憩まで持ち堪えることが出来た。「この作業は苦手?」お爺さんが話しかけてくれた。僕が見えるのかい?突然、話しかけられて僕はびっくりした。「何か掴みづらくて。」苦笑いしながら、僕は返した。

「僕、最近DSのワリオっていうキャラクターのゲームやってるんやけど、知ってる?」「あのミニゲームのやつですか?」

久しぶりに懐かしいゲームタイトルを思い出した。さわるメイドワリオだ。画面上の音符をテンポよく押して、ゲームクリアを目指す。

「あんな感じでテンポよくやれば良いのよ、楽しくね。」お爺さんがアドバイスしてくれた。「ああ、良いですね。ありがとうございます、意識してみます。」
 
「それが出来ずに困ってるんやけどな。まあ、楽しみながらやってみるか。」僕の心の声はこうだった。ただベルトコンベアー流れいく冷えた部屋の中で、心が少し温まった。
 
ビーーーー!ゴゴゴゴゴ・・・
 
ワリオ!ワリオ!ワリオ!のように。ざらめを掴むときにテンポよく、身体も少しオーバーに動かしながら意識。一掴み、シャク!離して、パ!シャク、パ!シャク、パ!「お、何かダンスみたい」だなと思った。

身体が暖まってきたのか、ゲーム感覚を楽しんでいるのか、僕は夢中になってきて、動作はどんどんダイナミックに。夏だとこうも動けない。

冬様様である。ワリオ!ワリオ!ワリオ!
 
ビーーーー!
 
「ざらめ担当の君、遅れてるよ。」とバイトリーダー。
 
「すみません。」Game Over。ダイナミックさはギリギリを意味していることを知っていた。楽しむだけじゃ、どうにもならんことがある。世辛辛い。

凝固した血の皆様は悪くなく、新しい血がベルトコンベアーを止めた。血液と真逆だ。お爺さんは苦笑い。古株の方々も苦笑いしていた。全部、冬のせいだ。

ベルトコンベアーは息を吹き返した。血眼になって、摘み上げ続けた。止まらないコンベアー。仕事中の僕たちは、血なんかじゃない。

繋がっている、僕たちは脈だ。そう思った。

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