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雪の華とハードロック

雪の華とハードロック、僕かもしれない。

ある冬の日、土砂降りの雨が降った。

母が車で迎えにくる。塾帰り。
折り畳み自転車を軽に載せる。
 
良く流れていた曲がある。
 
中島美嘉の雪の華だ。
 
何故か家に帰るのに
物淋しい気分になったものだ。
 
母は運転が苦手で
運転中は無言になるから、なおさら。
 
窓を眺めると、地元が輝いている。
 
業務スーパーのネオンが煌びやか。
 
冬の冷たい空気と足先が凍える感覚。
 
妙に悲しくも落ち着いた時間を
ただ車窓の外を眺めて過ごしていた。
 
最近はリモートワークで仕事中に
音楽を聴くこともある。息抜きがてら。
 
良く聴いているのは、Uruさんだ。
 
何故この曲を仕事中によく聴くのだろう?
 
初めに思ったこと。
 
それは、まるで声が曲に溶け込んでいて
聴いても言葉が頭に流れてこないからだ。

僕が好む曲には歌詞があり、詞にのった声が
頭に流れ込む結果、集中が途切れ出す。
 
大体は、ムズムズしてしまうのだ。
 
ただ、Uruさんはムズムズしなかったのだ。
 
さらに考えて思ったのが、雪の華だった。
 
小さい頃に聞いた曲が
自身の好みになっていった。
 
聴く曲は当時の状況に変わるが
落ち着くのはバラード調の曲だ。
 
そんなあれやで
自分から感傷に浸っていくような
音楽を好むようになったのだ。
 
ただ、音楽の面白いと思うところが
当時聴いていた曲を思い出すと
あの日の精神状態が掘り起こされる点。
 
就職活動。
 
強気で立ち向かいたかった。
 
聴いていたのは、レミゼラブルの
 
Do you hear the people sing?
 
入社前から革命を起こす気でいるようで
少し笑える。反骨心がメラメラだ。
 
音楽の好みも含め
母似だと思っていた。
 
父と母の音楽の好みも全く違った。
 
1階で雪の華が流れていると思えば
2階でエレキギターを掻き鳴らす音が聴こえる。
 
うちの父だ。ハードロックバンドをしていた。
 
名前を知らないロン毛のギタリストの
C Dが棚に所狭しに詰まっている。
 
パワー漲る男。強い男。
 
小さい時から、父を見ていて、
似てないな。と思っていた。
 
弱音は吐かない。ネガティブにもならない。
強い性格の人と平気で戦う。
 
仮に共通点があるとするならば、
働き出した時、上司に扱いを困られている感じ。
 
僕は不器用で調子乗り。
父は器用だがエゴイスト。
 
エピソードを聞いて、近いものを感じていた。
 
けれど、最近さらに見方が変わってきた。
 
母から聞いたのだ。
 
父がメンタルクリニックに通院していたことを。
 
確かに帰省する度に、酒の量が増えている。
 
深夜に急に起きて、酒を飲んでいる。
 
僕の落ち込みが酷くなってからだろうか。
 
僕に合わせるかの如く自身の悩みや弱みを
少しずつであるが、話してくれるようになった。
 
社会に揉まれ、傷つくのは、この家族の性か。
遠い存在だと思っていた父は近くにいた。
 
ただ、隠されていただけだったのだ。

僕は会社で遠くから見ている人達には
メンタルタフガイと呼ばれることがある。

ほんの一部の近い人達には
絹豆腐メンタルと言われる。

出来るだけ、隠しているだけなのだ。
 
純粋に「何で40年間も働けんの?」と
疑問を投げかけたことがある。
 
父は答えた。
 
「考えてる暇も有らんわ。
 若くして、お前が生まれて、
 働く以外に手段ないやろ。」
 
こんな立派な親の子供が僕と妹。
喜劇だ。と変な顔をしてしまった。
 
同じ道は歩まないだろう。
 
ただ、感謝はしていたいと思う。
 
父の話はコロコロ変わっていく。
悩み話から自慢話に急展開。
 
「この前さ、俺なラジオに出たんよ。
 んでな、凄い、いいこと言うたで。」
 
「その話、20回は聞いたぞ。
 次は僕の話、ちゃうんか。」
 
「ええやんけ、気にしいやねん、お前。」
 
僕は、母と父から生まれたのだ。
 
雪の華とハードロック
 
泣いたと思えば、掻き鳴らす。

これが僕が受け継いだ血筋かもしれない。

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