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『ナポレオン・ダイナマイト』:2004、アメリカ

 アイダホ州に田舎町に住む高校生のナポレオン・ダイナマイトは、小学生ばかりが乗っているバスでプレストン高校へ登校する。彼はクラスのニュース発表でも、同級生たちの前でも、すました表情で嘘を並べ立てる。ナポレオンが家に電話すると、おばあちゃんは留守だった。
 ナポレオンは、おばあちゃんと兄のキップの3人で暮らしている。キップは32歳だが定職に就かず、家でチャットばかりしている。ナポレオンは電話に出たキップに、「気分が悪くなった。迎えに来てよ」と言うが、あっさりと断られた。

 校長が転校生を案内している様子を目にしたナポレオンは、話し掛ける。ナポレオンは校長から、メキシコ人転校生のペドロにロッカーの場所を教えるよう頼まれる。彼はペドロにも、「この学校はギャングが多い。僕もボウガンの腕を見込まれて勧誘されてる」と嘘を言う。
 ペドロが自転車通学だと知り、ナポレオンは彼の自転車を見せてもらう。ナポレオンはペドロに頼み、自転車でのジャンプを見せてもらう。続いてナポレオンも挑戦してみるが、あえなく失敗に終わった。

 ナポレオンが帰宅すると、おばあちゃんは「親戚の家に泊まる。明日まで帰らない」と言って出掛けた。しばらくすると、ナポレオンの同級生のデビーがやって来た。彼女は進学資金を稼ぐために「デビーのグラマラスショット」という写真屋をやっており、そのセールスに来たのだ。
 さらにデビーは、キーチェーンも売り込んで来た。奥にいたキップがバカにするような言葉を吐くと、デビーは荷物を置いて走り去ってしまった。

 テレビを見ていたキップは、レックスという男が編み出した護身術のCMが気になった。彼はローラーブレードを装着し、ナポレオンに「町まで連れてってくれ」と頼む。ナポレオンが自転車で彼を引っ張り、2人はレックスの道場へ赴いた。
 キップはレックスの講釈を聞くが、プログラムには申し込まなかった。家に戻る途中、キップはナポレオンに「あれはボッタクリだよな」と告げた。

 ダンス・パーティーの日が近づいて来るが、ナポレオンの相手は決まっていない。ペドロに訊くと、「放課後に誘うつもりだ。ケーキを作ってプレゼントする」と言う。彼が誘おうとしているのは、学校の人気者であるサマーだった。ナポレオンは「オクラホマから彼女が来てくれるはずだったんだけど、モデルの仕事が忙しくてさ」と嘘をつく。
 食堂でデビーを目にしたナポレオンは、キップに「彼女に話し掛けてみようかな」と言う。ナポレオンはデビーに声を掛け、ロッカーに入れてあった荷物を返した。彼は「それ、一つ貰ってもいいかな」と言い、キーチェーンを貰った。

 砂丘でオフロードバイクを走らせていたおばあちゃんが、調子に乗り過ぎて事故を起こし、臀部を骨折した。彼女が入院している間、保護者代わりとして叔父のリコがやって来た。ナポレオンは気に入らなかったが、キップは「俺は別にいいよ」と軽く言う。
 ペドロはナポレオンに付き添ってもらい、サマーの家の前に手作りケーキを置く。そしてチャイムを鳴らし、その場から逃亡した。リコはキップに「金儲けの話がある」と言い、ボウルを売る商売について説明する。

 次の日、ペドロが学校を休んだので、ナポレオンはサマーから彼への返事を渡される。紙を開くと「ノー」と書かれていた。リコはキップに、「ネームプレートに付けるための、役人っぽい写真を撮りたい」と告げる。キップとリコはデビーの元へ行き、写真を撮ってもらう。
 翌日、ペドロが登校したので、ナポレオンはサマーの返事を伝える。するとペドロは、デビーも誘っていたことを明かす。そこにデビーが現れ、紙をペドロに渡す。ペドロが紙を開くと、「イエス」と記されていた。

 ナポレオンが「僕にはパーティーの相手がいない」と言うと、ペドロは「絵が上手いんだから、絵を描いてプレゼントしたらどうだい」と提案した。ナポレオンは同級生のトリシャに目を付け、彼女の顔を描いた。
 リコは24ピースのボウルセットを売りに出掛ける。ある夫婦は、特典の帆船に食い付いた。一方、キップもセールスに出るが、ボウルの頑丈さを証明するためにバンで踏むと壊れてしまった。

 ナポレオンがトリシャの家へ行くと彼女は不在で、ママが出て来た。その家には、ちょうどセールス中のリコもいた。ナポレオンはママに絵を渡し、その場を去った。リコはママに、ナポレオンが不憫な男であることを語った。
 帰宅したトリシャは、ナポレオンの下手な絵を見て渋い顔になった。しかしママは彼女に、「あの子とダンス・パーティーに行ってあげなさい」と促す。ナポレオンはリコが120ドルを稼いだと聞かされ、「それぐらい、僕なら5秒で稼げる」と強気な態度を見せた。

 ナポレオンは雌鶏を新しい鶏舎に移すバイトをするが、6ドルしか稼げなかった。トリシャはママに言われてナポレオンに電話を掛け、渋々ながら「貴方とパーティーに行くわ」と告げた。
 ナポレオンは新しく買ったスーツを着て、ダンス・パーティーに赴いた。しかしトリシャは彼がトイレへ行っている間に、友達と姿を消してしまった。ペドロは「デビーと踊らせてやろうか」と言い、ナポレオンはデビーとダンスを踊った。

 ペドロが生徒会長選挙への立候補を決めたので、ナポレオンは「何でも協力するよ」と申し出た。全国学校農業クラブ連盟の大会でメダルを獲得したナポレオンとペドロが学校に戻ると、生徒会長選に立候補したサマーが仲間のトリシャやドンと共に選挙活動をしていた。
 ペドロが「体が熱くなって、髪の毛のせいじゃないかと思って」という理由で衝動的に髪を切ってしまったので、ナポレオンはデビーと共にカツラを選んでやった。ペドロも選挙活動を行うが、サマーに似せたピニャータを棒で叩いていたことを校長に注意され、チラシを没収されてしまった…。

 監督はジャレッド・ヘス、脚本はジャレッド・ヘス&ジェルーシャ・ヘス、製作はジェレミー・クーン&クリス・ワイアット&ショーン・コヴェル、製作総指揮はジョリー・ワイツ、撮影はマン・パウエル、編集はジェレミー・クーン、美術はコーリー・ローレンゼン、衣装はジェルーシャ・ヘス、音楽はジョン・スウィハート。

 出演はジョン・ヘダー、ジョン・グリース、アーロン・ルーエル、エフレン・ラミレス、ティナ・マジョリーノ、ディードリック・ベーダー、サンディー・マーティン、ヘイリー・ダフ、トレヴァー・スナー、ションドレラ・エイヴリー、ブラッケン・ジョンソン、カーメン・ブレイディー、エレン・ドゥービン、J.C.カニンガム、ジェームズ・スムース、ブライアン・ピーターセン、ブレット・テイラー、トム・レフラー、エリザベス・ミクラヴチッチ、スコット・トーマス、ロリア・バダーリ、エミリー・ケナード他。

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 製作費が400万円という低予算でありながら全米で大ヒットし、MTVムービー・アワードでは作品賞、音楽シーン賞(ジョン・ヘダー)、ブレイクスルー演技賞・男優部門(ジョン・ヘダー)を受賞した作品。『バス男~ナポレオン★ダイナマイト~』とサブタイトル付きでTV放送されたこともある。
 ジャレッド・ヘス監督がブリガム・ヤング大学に通っていた頃に作った短編映画『Peluca』をベースにしており、彼の長編デビュー作である。日本では『バス男』の邦題で劇場未公開のままビデオ化され、後に『ナポレオン・ダイナマイト』に改題された。

 ナポレオンをジョン・ヘダー、リコをジョン・グリース、キップをアーロン・ルーエル、ペドロをエフレン・ラミレス、デビーをティナ・マジョリーノ、レックスをディードリック・ベーダー、おばあちゃんをサンディー・マーティン、サマーをヘイリー・ダフ、ドンをトレヴァー・スナー、キップのチャット相手ラフォーンダをションドレラ・エイヴリーが演じている。
 低予算だし、監督は新人だし、出演者も無名の役者ばかりだ。この映画が公開された当時、それなりの知名度があったのは、ヒラリー・ダフの姉であるヘイリー・ダフぐらいではないだろうか。

 まず最初に書いておきたいのは、最初に付けられた『バス男』という邦題がクソだってことだ。ナポレオンはバスで通学しているが、そのことに大した意味は無い。この邦題は、当時の日本で『電車男』が人気になっていたので、それに便乗しようってことで付けられたのだ。
 この邦題を付けた担当者は、映画業界で仕事をするべきじゃないと思うぞ。販促のために、売れてるモノに便乗しようってのは分からないではないが、むしろ本作品の印象を悪くしているとしか思えないよ。ホント、批判を受けて改題されて良かったよ。

 さて、では『ナポレオン・ダイナマイト』の中身について。このナポレオン、名前は強そうだが、実際は冴えない非モテ男である。同級生からバカにされているし、イジメの対象にされることもある。
 ただし、この男は常に弱々しくてオドオドしているだけでなく、むしろ態度だけは偉そうだったりする。ただ、強気な態度は取るけど、中身は伴っていない。ホントは弱っちい奴なのに、虚勢を張っているだけだ。だから弱気なイジメられっ子よりも、余計にヘタレ度数が高い。

 ナポレオンは素直じゃなく、ひねくれた性格をしているが、常にネガティヴというわけではない。基本的には、負け犬根性を見せない。ただし、自分がものすごくイケてるとも思っていない。
 ただ、かなりオツムの弱いトコロがあって、だから「何の取り柄も無いからダンス・パーティーに女の子を誘っても無駄」と珍しく弱気なことを口にした後、ペドロから「絵が上手いだろ」と言われると「そうだ、絵は上手い」と自信を見せ、絵のプレゼントを勧められると、何の迷いも無くトリシャを誘おうと決めている。弱気なんだか強気なんだか、コロコロと態度が変わっちゃうのだが、たぶん単純に「バカ」なんだろう。

 ナポレオンは常に淡々としており、あまり喜怒哀楽の表現は大きくない。しかしクールとか、落ち着いているとか、そういうのじゃなくて、いわゆるオタクっぽい言動ってことだ。
 ただし「オタクっぽい」というだけで、ホントのオタクという感じは薄い。アニメやゲームに精通しているわけでもないし、冒頭シーンでフィギュアを使ってるけど収集している様子は無いし。コンピュータに詳しい様子も無いし、それ以外にもマニア的な要素は見当たらない。ただダサくて妄想癖が激しいだけだ。

 冴えない男子高校生が主人公なら、「イケメンのイジメっ子や、スポーツのエリート男子がいて、可愛くて人気者の女子がいる。主人公はその女子が好きで、本人なりに頑張ってイケてる男子と張り合い、ヒロインとカップルになる」とか、「学校で人気者の美女を追い掛けていたけど、すぐ近くにいる幼馴染の魅力に気付き、カップルになる」とか、そういうケースが多い。
 どうであれ「主人公が頑張り、最後はヒロインとくっつく」という筋書きにするのが、青春映画で良く見られるパターンだ。そして最後は、主人公がそれなりにイケてる奴へと成長する。

 しかし本作品の場合、ナポレオン・ダイナマイトは最後までヘタレのままだし、美女とカップルになることもない。ヒロインはデビーということになるんだろうが、ナポレオンは彼女と恋人同士にならない。友達として仲直りするだけに留まっている。
 そもそもデビーも、容姿としては、そんなに恵まれているわけではない。だから仮にカップルになったとしても、「冴えない主人公可愛い女の子をゲット」という形にならない。

 生徒会長演説会のシーンと、そこに向けての選挙運動の流れだけは必須だが、それを除けば、とにかくキャラクターの面白さで引っ張っていくという部分が大きいんじゃないかな。ナポレオン・ダイナマイトのキャラクターを造形した時点で、後はどんなエピソードを用意しても、どんな相手と絡ませても、それなりに面白く仕上がったような気がする。
 でも、さらにキップやリコといったクセの強いダメ人間たちを用意し、「イケてない奴のイケてない日常風景」を「イケてない奴らのイケてない日常風景」にしている。

 上述した生徒会長演説会では、直前になって、ナポレオンとペドロが「演説の後でショーをやることになっている」と聞かされる。事前に知っていたサマーは仲間と一緒に見事なダンスを披露し、すっかり自信を失ったペドロは覇気の無い短い演説で終わってしまう。するとナポレオンは舞台袖から登場し、ジャミロクワイの『Canned Heat』に合わせて踊る。
 そのダンスは、上手いけど、なんか滑稽だ。その「イケてるんだけど、なんか変」という微妙な感じもイイ。ただし、カメラワークやカット割りがイマイチなのは惜しいけどね。

(観賞日:2013年3月10日)

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