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『スパイナル・タップ』:1984、アメリカ

 映画監督でコマーシャルも手掛けているのマーティー・ディ・ベルギーは、カメラに向かって語り出した。1966年、彼はニューヨークのロッククラブで「スパイナル・タップ」というバンドに出会い、衝撃を受けた。スパイナル・タップは17年で15枚のアルバムを作り、今も現役で活動している。
 英国の偉大なバンドであるスパイナル・タップは1982年に新しいアルバムを発表し、初めての全米ツアーを計画した。その際、マーティーは彼らのドキュメンタリー映画を撮影した。

 マネージャーのイアン・フェイスらと共にアメリカへ着いたスパイナル・タップは悪魔をイメージしたセットをステージに用意し、ハードなロックで集まった観客を熱狂させた。
 バンドはリードギターのデヴィッド・セント・ハビンズとナイジェル・タフネル、ベースのデレク・スモールズ、ドラマーのミック・シリンプトン、キーボードのヴィヴ・サヴェージという5人で構成されている。バンドの起源は1964年で、その時から一緒に活動しているメンバーはナイジェルとデヴィッドだけだ。

 別のバンドで活動していたナイジェルとデヴィッドは互いを意識しており、「オリジナルズ」というグループを結成した。しかし同名のバンドが既に存在していたため、すぐに「ニュー・オリジナルズ」へと名前を変更した。
 その後、彼らはテムズメンとして活動し、テレビ番組にも出演した。初代ドラマーのジョン・“スタンピー”ペピーズは、奇妙な園芸事故で数年前に亡くなっている。二代目ドラマーのエリック・“スタンピー”・ジョーは、他人の吐瀉物で窒息死した。

 ニューヨークのパーティーに参加したスパイナル・タップのメンバーは、ポリマー・レコードのボビー・フレックマンや社長のデニス・イートン=ホッグたちと会った。北米ツアーで各地を巡る中、メンバーとイアンは次のアルバムについて話し合った。ポリマー・レコードがジャケットを発禁扱いにしたことについて、イアンは幹部のボビー・フレックマンに質問した。
 ボビーは会社が女性蔑視で不愉快だと感じていることを説明し、メンバーを納得させるようイアンに要求した。社長であるデニスからの電話を受けたイアンは、会社がアルバムを発売中止にするつもりだと知る。事情を聞いたメンバーが反発すると、ボビーはデニスと妥協案を話し合うと約束した。

 メンバーがメンフィスのホテルにチェックインしようとすると、フロント係のタッカーが「予約に関して問題がありまして」と7部屋ではなく7階の1部屋しか用意していないことを明かした。イアンは激しく抗議し、何とかするよう要求した。
 スパイナル・タップのメンバーはロックスターのデュークと遭遇し、彼やマネージャーのテリーと挨拶を交わした。しかしデュークとテリーか立ち去ると、途端に彼らは陰口を叩いた。イアンはメンバーに、ライブが広告費の支払い不足でキャンセルされたことを知らせた。

 マーティーはイアンに、前回のツアーと比べてライブ会場の規模が大幅に小さくなっていることを指摘する。イアンはグループの人気下降を否定し、観客を選ぶ段階に入っているのだと説明した。デヴィッドはナイジェルに、恋人のジニーンが来ることを話した。
 ナイジェルが「彼女が来たら面倒なことになる」と懸念を示すと、デヴィッドは「大丈夫。俺たちとツアーを回るだけだ」と告げた。テムズメン時代の曲がラジオから流れたので」ナイジェルとデヴィッドは喜ぶが、スパイナル・タップが過去のバンド扱いされたので悔しがった。

 マーティーは彼らに、スパイナル・タップが誕生した1967年頃のことを尋ねる。バンドはフラワーピーブルの潮流に合わせた楽曲を発表し、ワールドツアーを展開した。
 その頃のドラマーはピーター・ジェームズ・ボンドだが、ルーシー島のジャズ・ブルース・フェスティバルで演奏中に自然発火で爆死した。スパイナル・タップがリハーサルをしていると、ジニーンが現れた。デヴィッドは演奏を中断し、彼女に駆け寄った。

 イアンは完成した新しいアルバムをメンバーに見せるが、そのジャケットは真っ黒だった。デヴィッドは不満を漏らすが、ナイジェルはイアンの考えに賛同した。バンドがシカゴに着くと、レコード会社の宣伝担当を務めるアーティーが挨拶に来た。
 メンバーはレコード店でサイン会を開くが、ファンは1人も来なかった。ジニーンが演出のプランを提案すると、イアンは予算が掛かることに難色を示す。そこでナイジェルは別のアイデアとして、セットにストーンヘンジを置くよう持ち掛けた。

 発注メモのサイズが間違えていたため、出来上がったストーンヘンジは予定より遥かに小さかった。スパイナル・タップはイメージと全く違う演出でライブを行う羽目になり、デヴィッドはイアンに怒りをぶつける。ジニーンも彼に同調し、「ミスは1回じゃないよね」と批判する。
 デヴィッドはイアンに、ジニーンにマネージャーの仕事を分担させるよう要求した。イアンは憤慨してマネージャーを辞め、バンドを仕切り出したジニーンにナイジェルは激しい苛立ちを示した…。

 監督はロブ・ライナー、脚本はクリストファー・ゲスト&マイケル・マッキーン&ハリー・シェアラー&ロブ・ライナー、製作はカレン・マーフィー、撮影はピーター・スモークラー、編集監修はロバート・レイトン、編集はケント・ベイダ&キム・セクリスト、美術はブライアン・ジョーンズ、作曲&作詞はクリストファー・ゲスト&マイケル・マッキーン&ハリー・シェアラー&ロブ・ライナー。

 出演はクリストファー・ゲスト、マイケル・マッキーン、ハリー・シェアラー、ブルーノ・カービー、ロブ・ライナー、ジューン・チャドウィック、トニー・ヘンドラ、エド・ベグリーJr.、ポール・ベネディクト、ゼイン・バズビー、ビリー・クリスタル、ハワード・ヘッセマン、パトリック・マクニー、ポール・シェーファー、フレッド・ウィラード、R・J・パーネル、デヴィッド・カフ、フラン・ドレシャー、ジョイス・ハイザー、ヴィッキー・ブルー、アンジェリカ・ヒューストン他。

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 ロブ・ライナーの映画監督デビュー作。「架空のロックバンド“スパイナル・タップ”の全米ツアーに密着した」という体裁で作られたモキュメンタリー映画。
 ナイジェルをクリストファー・ゲスト、デヴィッドをマイケル・マッキーン、デレクをハリー・シェアラー、運転手のトミーをブルーノ・カービー、ジニーンをジューン・チャドウィック、イアンをトニー・ヘンドラ、ミックをR・J・パーネル、ヴィヴをデヴィッド・カフ、ボビーをフラン・ドレシャーが演じている。他に、ジョンをエド・ベグリーJr.、タッカーをポール・ベネディクトをポール・シェーファーが演じている。監督のロブ・ライナーもマーティー役で出演している。

 今でこそモキュメンタリーというのは映画の1ジャンルとして当たり前のように存在しており、特にホラー作品では良く使われているが、その草分けとなった作品である。そのパイオニアというだけでも、大きな価値がある。
 さらに言うと、クリストファー・ゲスト、マイケル・マッキーン、ハリー・シェアラーが実際に歌唱と演奏も担当しているので、そこの部分に関してはフェイクじゃないのだ。あと、その3人にロブ・ライナーを加えた4人で、スパイナル・タップの楽曲の作詞と作曲も担当している。

 バンドが「テムズメン」として出演した音楽番組のシーンがあるが、その見た目も、立ち位置も、演奏する『Gimme Some Money』という楽曲も、完全にザ・ビートルズのパロディー。
 ヒッピー・ムーブメントの時代にスパイナル・タップとしてデビューした時には、サイケなファッションに身を包んでいる。音楽番組ではステージに女性ダンサーがいて、カメラワークも完全にサイケ時代のそれだ。演奏する楽曲にはシタールを使っており、ザ・バーズっぽくなっている。

 ジニーンが東洋の哲学を取り入れ、その影響でデヴィッドが変化するっのてはジョン・レノンのオノ・ヨーコが元ネタだ。それによってナイジェルとの関係にヒビが入るのは、ジョン・レノンのポール・マッカートニーが元ネタね。楽器なんて何も演奏できないのにジニーンがバンドに参加するのは、ポール・マッカートニーが妻のリンダをウイングスに参加させたのが元ネタ。
 スパイナル・タップはメタル系のバンドだけど、そっち方面のバンドだけをネタにしているわけではない。イアンはアルバムを真っ黒なジャケットにするが、これはザ・ビートルズの『ホワイトアルバム』が元ネタ。なんかビートルズ関連のネタが多いね。

 アトランタのライブ直前、ナイジェルは小さなパンにハムを上手く挟むことが出ずに悪戦苦闘する。イアンが「ハムを折り畳めば挟める」と教えると、彼は「大きなパンが欲しいんだ」と告げる。
 神経質になっていることを示すエピソードだが、バカなだけにしか見えないのがポイントだ。その後のライブで、ナイジェルはギターを弾きながら海老反りになって背中を床に付ける。しかし立てなくなってしまい、スタッフに起こしてもらう。

 ナイジェルはマーティーにギターのコレクションを披露し、音の響きに耳を傾けるよう促す。しかしナイジェルが弾いていないので音は何も聞こえないし、マーティーが「何か弾いてくれ」と頼んでも無視する。
 ナイジェルは次に、アンプを自慢する。普通は音量のメモリが10までだが、音が小さいから11まで作ったと彼は説明する。マーティーは冷静に10等分の割合を増やした方がいいのではないか」と指摘するが、ナイジェルは全く理解できない。

 プレスリーの墓参りに訪れたナイジェルとデヴィッドは『ハート・ブレイク・ホテル』でハモろうとするが、全くキーが合わない。ライブではフロントの3人が大きな繭から登場する演出が用意されるが、デレクの繭だけ全く開かない。スタッフがガスバーナーで何とか開くが、曲は終わってしまう。
 クリーヴランドのライブでは、会場の廊下が入り組んでいて楽屋から出たメンバーは迷ってしまう。オースティンのライブではストーンヘンジが小さすぎる上、その周囲が2人の小人が踊って可愛い雰囲気になってしまう。

 バンドの初代ドラマーが園芸中の事故で死ぬのは、ザ・フーのキース・ムーンが元ネタ。次のドラマーがゲロを喉に詰まらせて死ぬのは、レッド・ツェッペリンのジョン・ボーナムが元ネタ。
 スパイナル・タップはナイジェルが離脱してから音楽性を大きく変えるが、人気の低迷したロックバンドが方向性を失って迷走し、ますますダメになるってのは良くあることだ。ナイジェルは「日本で曲がチャートを上昇してる」とメンバーに教えるが、本国では人気が無いけど日本では受けるケースってのは幾つもある。ともかく最初から最後まで徹底的にロックバンドを茶化しているけど、ちゃんと愛はあるのでご心配なく。

(観賞日:2020年5月31日)

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