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『ミッション:インポッシブル/ローグ・ネイション』:2015、アメリカ

 ベラルーシのミンスク。ベンジーは飛行場の横にある草原に身を潜め、輸送機を観察していた。IMF本部にいるブラントがイーサンの居場所を尋ねるが、ベンジーには分からなかった。マレーシアにいるルーサーは、ベンジーの要請で衛星回線に侵入しようしていた。
 だが、データがロックされていたため、侵入は出来なかった。輸送機が動き出すと、イーサンが姿を現した。彼は輸送機に飛び乗って貨物室へ飛び込み、積み込まれていた荷物と共にパラシュートで降下した。

 イギリスのロンドン。イーサンはIMF支部であるレコード店に入り、店員を装った女性連絡員と接触した。彼は指令の録音されているレコードを受け取り、奥の視聴ルームに入る。イーサンがレコードを再生すると、輸送機に積まれていたのがVX神経ガスであること、シンジケートがダマスカスへ密輸する予定だったことが説明される。
 その声は「我々がシンジケートだ」と言い、室内には催涙ガスが噴き出した。慌てて外へ出ようとしたイーサンだがドアはロックされており、彼は男が連絡員を射殺して去る姿を目にした。

 アメリカのワシントンD.C.では公聴会が開かれ、CIA長官のアラン・ハンリーがIMFの無軌道で乱暴な行動の数々を批判した。彼から質問を受けたブラントは、「新長官の許可が無ければ発言できない」と繰り返した。ハンリーはIMFを解体してCIAに併合することを提案し、議長は承認した。一方、拘束されたイーサンの部屋には、シンドケーシのイルサ・ファウストが入って来た。
 彼女に続き、死んだとされているヤニク・ヴィンターが手下たちと共に現れた。ヤニクはイーサンを拷問しようとするが、イーサンはイルサの合図に気付き、ヤニクを蹴り飛ばして失神させた。イーサンはイルサの協力で拘束を外してもらい、2人はヤニクの手下たちを倒した。イルサはイーサンを逃がし、ヤニクたちに「逃げられた」と嘘をついた。

 イーサンはブラントに電話を掛け、ロンドンの連絡員が殺されたこと、シンジケートが存在したことを伝える。彼はヤニクを調べてほしいと要請するが、ブラントはIMFが解体されたので無理だと告げる。
 イーサンは自力で調べることに決め、ブラントは電話を切った。彼はアランから、シンジケートはイーサンの作り話であり、自らの手柄に繋げているだけだと一蹴した。彼はCIAの力を結集し、イーサンを捕まえる考えを口にした。

 半年後、アランはキューバにイーサンが潜伏しているという情報を掴み、特殊部隊を差し向けた。ブラントもモニターで作戦を見ていると、部隊は狙いを定めた部屋へ突入した。しかしイーサンはCIAの動きを察知しており、別の場所にいた。部隊が突入した部屋の壁には元諜報員の顔写真や新聞記事の切り抜きが大量に貼り出されており、ブラントはイーサンの動きを理解した。
 ベンジーはCIA本部で監視対象に置かれていたが、オペラのチケットが当選したという通知を見て喜んだ。彼はCIA局員のローレンから、1週間に1度のペースで嘘発見器に掛けられていた。彼はイーサンなど友達ではないので協力していないと証言し、それは真実だと認められた。

 ベンジーはオペラを観劇するため、オーストリアのウィーンへ赴いた。彼が地下鉄の駅に着くと、ある男が封筒を押し付けて立ち去った。封筒に入っていた特殊眼鏡を掛けたベンジーの耳に、イーサンの声が届いた。
 イーサンはロンドンの連絡員を殺した男の似顔絵を見せて、『トゥーランドット』が上演される劇場に来るはずなので見つけ出すよう指示した。劇場にはオーストリア首相夫妻も来ていたが、それはイーサンも知らない情報だった。

 ベンジーは劇場の電源室へ忍び込み、観客席の映像を見て男を捜索する。身を潜めていたイーサンは、イルサが来たのを目にする。彼は不審な男に気付いて後を追い、楽器を模した銃を組み立てる様子を目撃した。イーサンが男と戦っている間に、イルサはオーストリア首相に向けて銃を構えていた。
 少し離れた場所では、警備員に化けた男も首相の狙撃準備に入っていた。男を倒したイーサンはイルサと警備員の2人が首相を狙っているのを知り、どちらを撃とうか迷う。彼は首相を撃って怪我を負わせることで、射殺を阻止した。

 警備員はイーサンに気付き、始末しようと狙いを定める。気付いたイルサはイーサンに当たらないよう撃つことで危機を知らせ、警備員にも発砲した。イーサンは逃走経路に困っているイルサと接触し、一緒に劇場から脱出した。
 2人の前を首相が乗る車が通過するが、直後に爆発する。そこにベンジーが車で現れ、乗り込むようイーサンに告げた。イーサンはイルサが潜入中の英国情報部員だと確信しており、鞄を探って口紅を見つけた。

 似顔絵の男について話すようイーサンが詰め寄ると、イルサはシンジケートを潰したければ自分を信じて車から放り出すよう要求した。シンジケートの車が迫る中、彼女はヒントを与えたことを告げて道路へ転がり落ちた。イーサンはベンジーに、「オペラを観劇するためにウィーンへ行ったらイーサンから脅され、仕方なく協力した」とアランに報告するよう促した。
 彼はベンジーに、シンジケートが様々な国の元諜報員で構成されていること、世界の体制を崩壊させるため事故とされている数多くの事件を起こしていることを語った。ベンジーはイーサンの指示を拒否し、留まって手伝うと申し出た。イルサが残した口紅は、USBメモリになっていた。

 イルサは似顔絵の男であるシンジケート創設者のソロモン・レーンと面会し、自分の仕事を手下に邪魔させたことを非難した。彼女は組織から疑われていることも、劇場の手下たちが首相暗殺だけでなく自分を殺す任務も受けていたことを知っていた。彼女は拳銃をソロモンに渡し、殺すつもりなら自分の手でやるよう告げる。
 ソロモンはイルサを連行した手下を射殺し、イーサンを見つけ出すよう命じた。イルサは「向こうから会いに来るわ」と言い、種は撒いたことを告げる。USBメモリのデータを分析したベンジーは、モロッコのカサブランカにデジタル金庫があることを知った。

 イーサンとベンジーはカサブランカへ飛び、イルサを見つけ出した。ブラントはルーサーを呼び出し、CIAより先にイーサンたちを発見するための協力を要請した。彼はルーサーにCIAがイーサンを殺害するつもりだと告げ、レーンとイルサの似顔絵を見せた。
 イルサはイーサンとベンジーに、シンジケートのボスであるレーンが元イギリス諜報員だと教えた。デジタル金庫には諜報部員がシンジケートのファイルを入れていたが、拷問を受けて暗号を明かさないまま死亡した。そのファイルを手に入れるため、レーンはイルサをカサブランカへ派遣していた。

 発電所内にある金庫はダイヤル式ロックとなっており、そこへ行くには顔だけでなく歩き方による本人確認センサーがあった。そこを突破するには、事前にイーサンかベンジーの認証データを登録しておく以外に無い。
 しかも認証データは金属探知機付き冷却タンクのハッチにあり、酸素ボンベは使用できない。そこでベンジーが金庫へ行き、イーサンがデータを取り替える仕事を担当することになった。イーサンはイルサと共に発電所へ潜入し、呼吸を止めてハッチへ向かった。

 イーサンは手間取りながらもデータを交換し、ベンジーはファイルを入手した。イーサンは冷却タンクから脱出して意識を失うが、イルサが蘇生させる。ベンジーは2人と合流し、イーサンにファイルの入ったUSBメモリを見せた。するとイルサはベンジーを殴って昏倒させ、USBメモリを奪い取った。発電所を出た彼女はシンジケートの仲間たちと合流し、バイクに乗って逃走した。
 イーサンはベンジーを車に乗せてイルサを追跡し、途中でブラント&ルーサーと遭遇した。イーサンたちの車は横転するが、ブラントとルーサーが駆け付けて救った。イーサンは敵のバイクを奪ってイルサを追うが、転倒して逃げられてしまう。しかしベンジーはイーサンに、コピーしておいたファイルを見せた。

 イルサはロンドンでMI6局長のアトリーと会い、USBメモリを見せた。しかしアトリーは本物だという確証が無いと告げ、レーンの元へ戻るよう指示した。イルサはレーンを何度も裏切っているので戻れないと告げ、任務は遂行したので復職させてほしいと訴える。
 しかしアトリーは却下し、レーンの命令という形を取ってイーサンを抹殺するよう命令した。イルサはレーンの元へ戻ってUSBメモリを渡すが、中身は空っぽだった。

 イーサンたちはコピーしたファイルを確認しようとするが、暗号を解除するためには英国首相の音声認証が必要だと判明した。イーサンはシンジケートがを首相を誘拐するつもりだと確信し、ブラントはMI6へ連絡しようとする。イーサンは「奴らの思う壺かもしれない」と反対し、自分たちでレーンを捕まえようと決意した。
 イーサンたちはイルサの居場所を掴み、駅へ赴いた。イーサンは仲間たちが監視する中でイルサと接触し、メモリが空っぽだったと聞く。イーサンの指摘を受けたイルサは、アトリーがファイルを消去したことに気付いた。イーサンはイルサにレーンの伝言を尋ねるが、シンジケートに隙を突かれてベンジーが拉致されてしまう…。

 監督はクリストファー・マッカリー、TVシリーズ創作はブルース・ゲラー、原案はクリストファー・マッカリー&ドリュー・ピアース、脚本はクリストファー・マッカリー、製作はトム・クルーズ&J・J・エイブラムス&ブライアン・バーク&デヴィッド・エリソン&デイナ・ゴールドバーグ&ドン・グレンジャー、製作総指揮はジェイク・マイヤーズ、撮影はロバート・エルスウィット、製作協力はトーマス・ハイスリップ&ヘレン・メドラノ&マリセル・パグラヤン、美術はジム・ビッセル、編集はエディー・ハミルトン、衣装はジョアンナ・ジョンストン、視覚効果監修はデヴィッド・ヴィッケリー、音楽はジョー・クレイマー、テーマ曲作曲はラロ・シフリン。

 出演はトム・クルーズ、ジェレミー・レナー、サイモン・ペッグ、アレック・ボールドウィン、レベッカ・ファーガソン、ヴィング・レイムス、ショーン・ハリス、サイモン・マクバーニー、チャン・チンチュー、トム・ホランダー、イェンス・フルテン、マテオ・ルフィーノ、フェルナンド・アバディー、アレック・ウトゴフ、ハーマイオニー・コーフィールド、ナイジェル・バーバー、ウィリアム・ロバーツ、パトリック・ポレッティー、マーティン・コクラン、デヴィッド・パート、バーナバス・レティー、アッシュ・メラット、ジェームズ・ウェバー・ブラウン他。

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 シリーズ第5作。『ワルキューレ』では脚本&製作、『アウトロー』では監督&脚本『オール・ユー・ニード・イズ・キル』では脚本と、すっかりトム・クルーズのお気に入りになったクリストファー・マッカリーが、今回は監督&原案&脚本を務めている。
 イーサン役のトム・クルーズとルーサー役のヴィング・レイムスは、1作目からのレギュラー。ウィリアム役のジェレミー・レナーは前作から、ベンジー役のサイモン・ペッグは3作目からのレギュラー。アランをアレック・ボールドウィン、イルサをレベッカ・ファーガソン、レーンをショーン・ハリス、アトリーをサイモン・マクバーニー、ローレンをチャン・チンチュー、首相をトム・ホランダー、ヴィンターをイェンス・フルテンが演じている。

 中国企業のアリババが出資しているので、中国人女優のチャン・チンチューが起用されている。分かりやすいぐらいのスポンサー枠での起用であり、トム・クルーズとの絡みは無い。出演シーンは30秒程度しか無いが、オープニング・クレジットでは主要キャストの1人としてクレジットされる。
 ただ、中国企業の広告が不自然に入るとか、強引な展開で舞台が中国や香港に飛ぶとか、そこまでのゴリ押しをやってくることは無い。上演されるオペラは中国を舞台にした『トゥーランドット』だが、そこは全く気にならないし。

 予告編で使われていた輸送機のド派手なスタント・アクションは、後半や終盤ではなくオープニングで登場する。このシーン、その後のストーリー展開には全く影響を及ぼさない。一応、「それはシンジケートの計画」とか「その任務についてイーサンがレコード店で説明を受ける」という手順には繋げているが、そこは関連付けなくても消化できる。
 ここだけが独立したアクションと言ってもいいだろう。そのシーン、イーサンのネクタイにスーツという姿は明らかに任務に合わない衣装だが、そもそも「どういう経緯でイーサンは連絡が付かない状況になったのか」ってのも分からないしね。まあ細かいことは気にしちゃダメってことよ。

 後の展開に繋がらないアクションをオープニングで用意されるのは、アクション映画だと珍しくない手法だ。実は、昔の007シリーズでも良く使われていた。本家の007シリーズはダニエル・クレイグ主演になってから、どんどん昔のテイストからは外れている。
 そんな状況の中で、なぜかこのシリーズが昔の007シリーズに寄っている。そもそも、このシリーズも『スパイ大作戦』とは全く別物になっているんだけどね。

 このシリーズは第3作までが終了した後、トム・クルーズの人気低下を受けて「ジェレミー・レナーを投入し、主役を交代させよう」という計画が持ち上がった。しかしトム・クルーズの人気が復活したため、その計画は没になった。
 シリーズはトム・クルーズのスター映画して続くことになり、ジェレミー・レナーは脇役に回された。ただし、最初の3作と比較すると、前作でイーサンの仲間だったブラントとベンジーとルーサーを再登場させて、今回は「チーム」を意識した作りになっていると言っていいだろう。

 そんな中で、前作の仲間だったジェーン役のポーラ・パットンだけが続投していないのは、残念なポイントになっている。新たにヒロインを務めるのはレベッカ・ファーガソンなのだが、「ポーラ・パットンに代わるヒロイン」としては、レコード店の連絡員を演じているハーマイオニー・コーフィールドの方が適任じゃないかと思ってしまう。
 個人的な趣味は入ってくるだろうけど、レベッカ・ファーガソンって年齢の割にはオバサン臭いんだよね。登場させるのはいいとして、彼女とは別にヒロインを出してもいいんじゃないかと。

 前作でイーサンの妻であるジュリアを綺麗に切り捨てたことを受け、今回はロマンスの新たな相手役となる女性キャラを登場させるのかと思っていたが、イルサはそういう役回りを担当していない。そういう意味でのヒロインを担当するのは、実はベンジーだ。ロマンスではなく、ブロマンスの要素が濃くなっているのだ。
 イーサンはベンジーを守るため、命懸けで戦う。ベンジーはイーサンのため、危険を覚悟で協力する。そういう関係性の描写が、イーサンとイルサの関係性よりも遥かに強い。後半には「ベンジーが人質に取られる」という展開があるが、これって大抵の映画ならヒロインが担当する役回りでしょ。

 ではイルサはどういう役回りなのかというと、恋愛要素を除けば峰不二子チックな部分を感じさせるキャラクターとなっている。そもそも「イルサ・ファウスト」という名前からして、いかにも「裏切りますよ」という匂いを感じさせるでしょ。
 また、彼女はイーサンに負けず劣らずの戦闘能力を持っているキャラクターで、関節技などMMAの動きを披露する。主人公の男に守られる女よりも、勇ましく戦う女の方が時流に合っているということも大きいんだろう(特にアクション系の映画においては、その傾向が顕著だ)。

 イルサの活躍ぶりは、クライマックスにおいても特に目立っている。何しろ、そこで敵と対峙するのはイーサンとイルサだけ。ベンジーは逃亡し、ウィリアムとルーサーは待機している。そしてイルサは「イーサンに守られて一緒に逃亡する」といった扱いではなく、一緒に戦う。
 それどころか、シンジケートで最も腕っ節の強い男とタイマンで対決する役割も担当する。イーサンにタイマンの戦いが無いのに、彼女だけが「格闘アクションで敵を倒す」という仕事を担当するのだ。

 大作アクション映画のクライマックスは、ただの力押しになってしまうケースも少なくない。派手に盛り上げることが求められがちなので、どうしてもゴリ押しアクションになってしまうのは仕方が無い部分もある。
 しかし本作品の場合、心理的駆け引きによる緊迫感を煽る手順があり、最後は「敵を欺いて罠にハメる」という形になっている。その罠が冒頭でイーサンが欺かれ、目の前で連絡員を殺害されるという体験をしたことの復讐になっているのも綺麗な収束と言えよう。

 それにしてもトム・クルーズのV字回復は凄いものがある。前述したように、第4作の前には精神的に病んでいたと思われる言動が目立ち、すっかり人気が低迷して「もうトム・クルーズは終わったか」とさえ言われたほどだ。だが、その後は次々に主演作がヒットし、見事にトップスターの座へ返り咲いた。
 そして彼は、いつの間にか完全に「アクションの人」になっている。かつては様々なジャンルの作品に出演していたが、どうやら「自分は体を張るような役柄が合う」と認識し、そっちへ振り切ったようだ。そのことが、人気がV字回復した要因の1つなんじゃないかな。

(観賞日:2018年12月23日)

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