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『ロッキー』:1976、アメリカ

 フィラデルフィアに住むロッキー・バルボアは、無名の三流ボクサー。賭けボクシングのリングで試合をするが、大したファイトマネーが貰えるわけではない。金を稼ぐために、ロッキーはギャングのガッツォの下で借金取り立ての仕事をしている。すさんだ生活をする彼にとって、友人ポーリーの妹エイドリアンと会うことが心の安らぎだ。

 世界ヘヴィー級王者のアポロ・クリードは、5週間後に迫る防衛戦の挑戦者グリーンが負傷したことから、別の選手を探していた。だが、準備期間が短く調整が困難だということを理由に、めぼしい選手には全て断られてしまった。そこでアポロは話題性で売ろうと考え、無名ボクサーにチャンスを与えるというアイデアを思い付く。

 アポロが挑戦権を与える無名ボクサーとして選んだのは、ロッキーだった。ロッキーは所属する弱小ジムの老トレーナーであるミッキーをマネージャーに迎え、トレーニングを開始する。やがて大勢の観衆が集まる会場で、試合のゴングが打ち鳴らされた…。

 監督はジョン・G・アヴィルドセン、脚本はシルヴェスター・スタローン、製作はロバート・チャートフ&アーウィン・ウィンクラー、製作総指揮はジーン・カークウッド、撮影はジェームズ・クレイブ、編集はスコット・コンラッド&リチャード・ハルシー、美術はビル・キャシディ、音楽はビル・コンティー。

 主演はシルヴェスター・スタローン、共演はタリア・シャイア、バート・ヤング、カール・ウェザース、バージェス・メレディス、セイヤー・デヴィッド、ジョー・スピネル、ジミー・ガンビーナ、ビル・ボールドウィン、アル・シルヴァーニ、ジョージ・メモリ、ジョディー・レティシア、ダイアナ・ルイス、ジョージ・オハンロン、ラリー・キャロル、スタン・ショウ、ドン・シャーマン、ビリー・サンズ他。

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 アカデミー賞で作品賞、監督賞、編集賞を受賞した大ヒット作。
 ロッキーをシルヴェスター・スタローン、エイドリアンをタリア・シャイア、ポーリーをバート・ヤング、アポロをカール・ウェザース、ミッキーをバージェス・メレディスが演じている。

 シルヴェスター・スタローンはモハメド・アリとチャック・ウェプナーの試合からアイデアを思い付き、わずか3日間で脚本を書き上げた。彼は脚本料を低くしても自分を主演にすることを望み、この映画のヒットによって一躍スター俳優の地位を得ることになった。
 ロッキーと同じように、スタローンも無名の存在から大きなチャンスをモノにしたわけである。

 この作品には、真のアメリカン・ドリームがある。チャンスを与えられた男が努力した結果、そこには栄光が待ち受けている。
 ただラッキーだけで夢をつかむのではない。ロッキー・バルボアは懸命に頑張った。戦った。
 その結果として、御褒美として成功が与えられるのだ。

 とにかく熱く燃えさせる要素がたっぷりと詰まっている。しかし熱血映画ではあるが、いわゆる“スポ根”の雰囲気はそれほど強く感じない。
 試合のシーンやトレーニングの様子は、それほど多く描かれているわけではない。それよりも、ロッキーと、エイドリアンを始めとする周囲の人々との人間ドラマに、多く時間が割かれている。

 ハッキリ言って、何の捻りも無い分かりやすい物語だ。しかし、この映画の後、「まるで『ロッキー』のような展開」「ほとんど『ロッキー』の~版という感じ」と称されるような映画が出てくるわけで。
 つまり今作品は、“燃える映画”の雛型となっているのだ。

 三流ボクサーとチャンピオン。無名の男と有名な男。貧乏と金持ち。不器用と器用。無骨とスマート。ワイルドとソフト。バカと利口。
 ロッキーとアポロの対決の構図には分かりやすいコントラストが用いられ、主人公への感情移入を容易にしている。

 フラフラと適当にボクシングをやっていたダメ男のロッキーが、真剣にボクシングに打ち込むようになる。ロッキーは忘れていた初心を取り戻す。
 彼の初心とは、「ただのゴロツキではないことを証明するためにボクシングを始めた」という気持ちだ。

 ロッキーにとって、チャンピオンを倒すことは最大の目的ではない。もちろん、倒せれば申し分無いのだろうが、それよりも「15ウランド戦ってリングに立っていること」の方が大切だ。
 それは、自分が単なるゴロツキでないことの証明になる。

 ロッキーの目的は、チャンピオンになることではない。だから、彼はベルトへの欲を見せることは一度も無い。
 クズの人生を歩んでいた男は自分の存在証明のため、どれだけ殴られても殴られても立ち上がり、立ち向かっていく。

 全力で最後まで戦い抜くことに、ロッキーが世界チャンピオンと戦ったことへの大きな意味が込められている。だから試合結果が出ても、ロッキーは全く反応を示さない。
 既に存在証明を果たした彼にとっては、愛する女と抱き合うことの方が大切なのだ。

(観賞日:2002年11月27日)

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