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『大人は判ってくれない』:1959、フランス

 12歳のアントワーヌ・ドワネルはテストの最中にクラスメイトからピンナップが回って来たので、落書きを始めた。教師が見つけて叱責し、罰として立っているよう命じた。テストが終わって休み時間になっても、教師は立ち続けるようアントワーヌに命じた。
 アントワーヌは不当な罪だと訴える文章を壁に落書きし、また教師の叱責を受けて罰を与えられた。下校時、彼は親友であるルネの前で、教師への憤懣を吐露して「兵役に行く前にぶん殴ってやる」と宣言した。

 帰宅したアントワーヌは、母のジルベルトから買い物の指示について確認される。彼が買い物のメモを無くしたことを話すと、ジルベルトは「成績が悪いのも当然ね」と侮蔑的な視線を向けた。アントワーヌは母に指示されて小麦粉を買いに行き、帰りに父のジュリアンと遭遇した。
 アントワーヌと父が帰宅した後も、ずっと母は不機嫌なままだった。父は次の日曜にラリーの幹事を務めることになっていたが、母は「私は無理よ。約束がある」と冷たく言い放った。ジュリアンは「ラリーに出るとコネも出来て、出世の糸口になる」と言うが、彼女は「出世は無理よ」と切り捨てた。

 翌日、アントワーヌはルネに誘われ、学校をサボッて遊びに出掛けた。その最中、彼はジルベルトが男と浮気している現場を目撃した。気付いたジルベルトは焦るが、アントワーヌはそのまま通り過ぎた。鞄を取りに戻るアントワーヌたちの姿を、クラスメイトのベルトランが密かに見ていた。
 夜、帰宅したジュリアンはアントワーヌから「ママは?」と訊かれ、「年末の会計の追い込みで遅くなるらしい」と答えた。夜遅くに帰宅したジルベルトとジュリアンの激しい口論を、アントワーヌは寝室で聞いていた。

 次の日、アントワーヌが学校へ向かうのを確認したベルトランはジュリアンとジルベルトを訪ね、「アントワーヌは病気ですか?昨日は休みだったので」と告げた。学校に着いたアントワーヌは昨日の休みについて、校長に「母が死んだ」と嘘をついた。しかし両親が学校に来たため、すぐに嘘は露呈した。
 ジュリアンはアントワーヌを叱責し、平手打ちを浴びせた。アントワーヌはルネに、「もう両親とは一緒に暮らせない。家を出るよ」と告げた。彼が置手紙を残して家出すると、ルネは叔父の印刷工場を寝床として使わせた。

 翌日、アントワーヌが学校で授業を受けていると、ジルベルトがやって来た。彼女は息子を心配する様子を見せ、家に連れ帰った。母は優しい態度で、アントワーヌに「ママだけに教えて。あの手紙はどういうつもりだったの?」と尋ねた。
 アントワーヌは母に、「僕の行いが悪くて勉強しないから、学校を辞めて1人で生活しようと思って」と説明した。ジルベルトは「大学まで行かないとダメよ。パパを見て、出世できないからね」と諭し、次の作文で5番以内だったら千フランをあげると約束した。

 アントワーヌはバルザックに感化され、棚に写真を飾って火を付けたロウソクを置く。しかし布に引火してボヤ騒ぎを起こし、ジュリアンに激怒された。ジルベルトはアントワーヌを擁護し、気分を変えるために3人で映画を見に行こうとジュリアンに提案した。
 好きな映画を見たジュリアンの機嫌は、すっかり良くなった。教師はアントワーヌの作文を読み、バルザックの丸写しだと指摘した。アントワーヌは否定するが、教師は「校長室に行け。学期末まで停学だ」と告げた。

 アントワーヌは校長室へ行かず、そのまま学校を抜け出した。ルネは教師に「アントワーヌは写していません」と言い、「生意気だ。停学になってもいいのか」と怒鳴られると「いいですよ」と言い放って教室を去った。
 アントワーヌは「家に帰れない」とルネに語り、自宅に置手紙を残して家出した。ルネは両親に内緒で彼を家へ連れ帰り、自分の部屋で泊まらせることにした。ルネは家を空けることが多い両親の金を盗み、アントワーヌと遊び回った。

 アントワーヌは遊ぶ金を工面するため、父が働く会社に忍び込んでタイプライターを盗み出した。アントワーヌとルネはタイプライターを質屋に持ち込んで換金しようと考えるが、上手く行かなかった。アントワーヌはタイプライターを元の場所に戻そうとするが、守衛に発見されて通報される。
 アントワーヌは警察署に連行され、呼び出されたジュリアンは署長に「連れ帰っても、また家出します。どこか田舎で働かせ、監視していただきたい」と頼む。署長は少年審判所へ送ることを提案し、ジュリアンは承知した…。

 監督はフランソワ・トリュフォー、脚本はフランソワ・トリュフォー、翻案はM・ムーシー&F・トリュフォー、台詞はマルセル・ムーシー、撮影はアンリ・ドカエ、美術はベルナール・エヴェイン、編集はマリー=ジョセフ・ヨヨット、音楽はジャン・コンスタンタン。

 出演はジャン=ピエール・レオ、クレール・モーリエ、アルベール・レミー、ギイ・ドゥコンブル、ジョルジュ・フラマン、パトリック・オーフェー、ダニエル・クチュリエ、フランソワ・ノーチェ、リシャール・カナヤン、ルノー・フォンタナローザ、ミシェル・ジラール、アンリ・モアティー、ベルナール・アブー、ジャン=フランソワ・ベルグイニャン、ミシェル・レシニョール、リュック・アンドリュー、ロベール・ボーヴェ、ブション、クリスチャン・ブロカール、イヴォンヌ・クラウディー、マリウス・ローレイ、クロード・マンサール、ジャック・モノド、ピエール・レップ、アンリ・ヴィルロジュー他。

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 第12回カンヌ国際映画祭で監督賞を受賞した作品。映画批評家から監督に転身して2本の短編映画を撮っていたフランソワ・トリュフォーが、初めて手掛けた長編映画。トリュフォーの自伝的作品であり、アントワーヌ・ドワネルの冒険を描くシリーズとして合計5本の映画が製作された。
 アントワーヌをジャン=ピエール・レオ、ジルベルトをクレール・モーリエ、ジュリアンをアルベール・レミー、担任教師をギイ・ドゥコンブル、ルネの父をジョルジュ・フラマン、ルネをパトリック・オーフェーが演じている。

 アントワーヌは壁に落書きし、学校をサボって遊びに出掛ける。家出して工場で一夜を過ごし、牛乳を盗んで飲む。しかし、決して不良というわけではない。何しろ、家出した翌日、真面目に登校するような少年なのだ。その程度の反抗は、アントワーヌの年代なら珍しくもない。
 もちろん、叱責されたり罰を与えられたりするのは仕方がないが、それに反発したくなる気持ちは良く分かる。ここで重要なのは、叱る側に愛や思いやりがあるかどうかだ。邦題では「大人は」とあるが、特に大人の中でも両親の存在が重要になる。

 序盤、母はずっと不機嫌でイライラしており、アントワーヌにもキツく当たる。一方、父は温和で明るく、だからアントワーヌも彼と一緒にいる時は楽しそうだ。しかし、では「父は理解のある良き親で、母はヒステリックな悪しき親」という単純な色分けになっているのかというと、そうではない。
 基本は「稼ぎの少ない父を母が馬鹿にしている」という関係性なので、悪しき部分は圧倒的に父よりも母の方が多い。ただ、父も些細なことでイライラすることはあるし、母との口論に関しては全く非が無いわけでもない。

 そして学校をサボッったことがバレた辺りから、アントワーヌに対する両親の態度には逆転現象が起きる。母は優しく穏やかになり、父がイライラして厳しい態度を取ることが増えるのだ。しかし母は決して、心を入れ替えて息子を大事にしようと思ったわけではない。浮気を目撃されたので、機嫌を取っているだけだ。
 彼女の中には、基本的に息子への愛が欠如している。何しろ父と口論した時には、「子供を施設に入れなさいよ。その方が私も楽だわ」と平気で言い放つような人物なのだ。

 アントワーヌは学校をサボり、その理由で嘘をついたことがバレると、「もう両親と一緒には暮らせない」と言って家出する。しかし彼は、決して両親が嫌いになったわけではない。嘘をついたことへの罪悪感を抱いたのと、両親と一緒にいるのが怖くなったのだ。
 嘘として「母が死んだ」と言っているが、本気でジルベルトを嫌悪しているわけでもない。もし本気で嫌がっているのなら、彼女の浮気を父に報告するだろう。それを内緒にするのは、「家族3人で仲良く暮らしたい」という気持ちがあるからだ。

 アントワーヌがつまらないことで反抗したり家出したりするのは、とても愚かしい行為だ。現金やタイプライターを盗む行為に至っては、もはや「未熟な子供のやったことだから」と無罪放免に出来るレベルも越えている。
 なので少年鑑別所送りになるのは、止むを得ない部分もあるだろう。ただ、ちゃんとした愛で包み込んでやれば、更生できる可能性は充分に残されているはずだ。しかし父も母も「自分たちのてには負えない」と、冷たく見捨ててしまうのだ。

 粗筋の最後でジュリアンが「どこか田舎で働かせ、監視していただきたい」と頼んだことを記したが、その後にはジルベルトも同じようなことを依頼する。このシーンでは、アントワーヌがジルベルトの連れ子であることが明らかになる。
 それを観客に教えるタイミングが遅いし、その設定を活かし切れているとも思わないが、ひとまず置いておこう。ともかく、ジルベルトは「性格を叩き直してほしい。怖い目に遭わせてほしい」と頼む。父も母も、アントワーヌを完全に放り出してしまうのだ。

 アントワーヌの証言により、彼が里子に出され、その後で祖母に預けられていたことが明らかになる。8歳でジルベルトが引き取ったが、それも祖母が老いて面倒を見られなくなったからであり、ジルベルトが望んだわけではない。ジルベルトは未婚で妊娠し、産みたくなくて中絶するつもりだったのを祖母が止めたことも明らかになる。
 つまりアントワーヌはジルベルトにとって、望まぬ子供だったのだ。それでも、産まれてから、あるいは育てている内に心情が変化し、母性に目覚めることもあるだろう。しかしジルベルトは違っていた。出産後も、引き取った後も、母としての愛情は生まれなかったのだ。

 アントワーヌが少年鑑別所送りになると、ジュリアンは1度も面会に訪れない。ジルベルトは面会に来るが、「お前を引き取らない」と冷淡に言い放つ。もちろん、それはアントワーヌが反抗的な言動を繰り返してきた報いではある。
 ただ、彼は親からの本当の愛情を求めていただけなのだ。そういう気持ちが、歪んだ反抗になってしまったのだ。そして彼は親の愛を得られる機会が永遠に失われたことを悟り、隙を見て鑑別所から脱走する。彼の肉体は浜辺に辿り着き、精神は「孤独な解放」に辿り着いたのだ。

(観賞日:2022年11月7日)

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